2001 第9回日本乳癌学会記事

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☆(Medical Tribune Vol.34, No.27,)
#1【2001年第9回日本乳癌学会】学会班研究報告

第9回日本乳癌学会
シンポジウム「乳房温存療法の現状と展望」

 乳房温存療法がわが国で開始されたのは1987年。以後,着実に普及し,現在では40%以上の患者に施行されるようになったが,再発例の報告も見られる。このため,どのような症例で局所再発が起こりやすいのか,また局所再発にはどう対処すべきかについて,今後さらに明らかにしていく必要がある。前橋市で開かれた第9回日本乳癌学会(会長=群馬大学救急医学・飯野佑一教授)ではシンポジウム「乳房温存療法の現状と展望」(座長=癌研究会附属病院外科・吉本賢隆副部長,東京女子医科大学第二病院外科・芳賀駿介助教授)が持たれ,温存例における局所再発の要因や対策に関して,最新の研究成果が報告された。

〜乳腺内再発のランペクトミー〜
【〜初発年齢35歳超などがよい適応〜】
 乳房温存療法後の乳腺内再発に対するサルベージランペクトミー(腫瘤切除術)は,特に初発年齢が35歳を超える,乳癌家族歴がない,あるいは原発部位近傍の再発症例がよい適応になると考えられる成績が,大阪府立成人病センター外科の菰池佳史氏らによって報告された。

再発しても長期生存期待できる

 同科では,1986年10月から2000年 6 月までに乳房温存療法を979例に施行し,うち33例(3.4%)で乳腺内再発を認めた。このうち,サルベージ手術としてランペクトミーを行った21例を対象に,温存療法後の乳腺内再発に対するサルベージランペクトミーの成績,適応を検討した。
 まず,10年無再発生存率は乳腺内再発群では83.4%と,乳腺内再発のないコントロール群の89.7%に比べて有意に低かった。しかし,10年生存率は 2 群間で有意差がなかった。この成績から,乳腺内再発例は再発したとしても長期生存が期待できるため,局所制御においては特にQOLを重視した治療が望まれることが示唆された。
 サルベージのランペクトミー群とマステクトミー(乳房切除術)群の遠隔成績を比較すると,術後 5 年の無再発生存率はそれぞれ80.8%,70.1%で有意差が見られなかった。ただし,ランペクトミー群では 3 分の 1 が 3 年以内に局所再々発を来し,3 年局所無再発生存率は58.0%にとどまった。しかし,残り 3 分の 2 はランペクトミー後長期にわたって再発なく生存した。
 そこでさらに,サルベージ手術後に乳腺内再発を起こしやすい症例を明らかにするため,その危険因子を検討したところ,単変量解析により「初発年齢が35歳以下」,「乳癌家族歴あり」,「再発部位がelsewhere(原発部位と異なる部位)」が有意な危険因子となった。これらは,多変量解析では独立した有意の危険因子にならなかったが,相対危険度は「初発年齢が35歳以下」で11.2,「乳癌家族歴あり」で10.2と高かった。実際に,初発年齢が35歳を超える家族歴のない群と35歳以下で家族歴のある群で局所無再発生存率を比べると,前者で有意に良好だった。
 以上から,菰池氏は「乳房温存療法後の乳腺内再発に対するサルベージランペクトミーの生存率は良好で,治療オプションとして考慮されるべきものと考えられた。特に初発年齢が35歳を超える,乳癌家族歴がない,あるいはelsewhere以外(原発部位近傍)の再発症例はよい適応になる」と述べた。

乳房内再発例の22%は皮膚,大胸筋まで波及

 埼玉県立がんセンター臨床病理の黒住昌史副部長らは,乳房温存療法施行後に乳房内再発を来した症例では再発巣の波及度が高い症例や,リンパ管侵襲(ly)を認める症例が少なくないため,再発をできる限り早期に発見する努力が必要であることをあらためて強調した。
キーワード 【2001年日本乳癌学会・報告】

【乳管内進展のみは19%】

乳管内進展のみは19%

 今回検討されたのは,厚生労働省坂元班関連19施設における温存療法後の再発例。これらの施設では,1986〜97年の温存療法施行例計5,459例(全手術例の19%)のうち,平均49か月の観察で183例(3.4%)に乳房内再発を認めた。黒住副部長らは,183例のうち検討可能であった74例を対象に,臨床病理学的な特徴をアンケート調査により解析し,さらに原発巣と再発巣の病理学的所見を比較した。その結果,再発巣では腫瘤触知が99%,皮膚発赤が 4 %に認められた。乳管内進展を含む再発巣の組織学的最大径を見ると,10 mm以下の腫瘤が57%を占めたが,21〜35mmの症例も12%に見られた。再発部位の浸潤巣は81%,乳管内進展巣は62%で観察された。浸潤巣,乳管内進展ともに認められた症例は43%,浸潤巣のみは38%,乳管内進展のみは19%だった。再発部位のlyは20%で陽性だった。
 再発部位の波及度は,22%がs(皮膚),p(大胸筋)まで及んでいた。再発巣の波及度を原発巣と比較すると,再発巣で波及度が上昇した症例が34%,15%では逆にg(乳腺内)だけに低下した。再発部位癌細胞の核異型度はNG1 32%,NG2 28%,NG3 40%で,再発巣の核異型度が原発巣より上がったのは 7 %だった。
 原発巣が非浸潤癌であった症例の再発は50%が浸潤巣であり,乳管内進展は全例に認められた。また,死亡した 9 例の病理所見を見るとspなど脂肪組織を越えた浸潤が多く,lyも 2 例に認められた。核異型度は 1 例を除きすべてNG3であった。
 以上から,同副部長は「局所再発を極力防ぐことに加え,できる限り早期に発見する努力が求められる」と述べた。
キーワード 【乳管内進展】

〜リンパ管浸潤有する断端陽性例〜
【20%で乳房内再発】
 癌研究会附属病院乳腺外科の高橋かおる氏らは,乳房温存療法施行例における乳房内再発率は,特にリンパ管浸潤(ly)陽性の症例で高いことから,ly陽性例には乳房切除が望ましいことを示唆した。

2方向以上,3切片以上で再発率高い

 高橋氏らは,1986〜98年における温存療法施行例のうち,1,233例の遠隔成績を2000年12月まで追跡調査したところ,健存率89%,乳房健存率93%,生存率94%という良好な結果を得た。しかし,当初約10年増え続けた乳癌手術例全体に占める温存術断端陰性例の割合は,ここ数年,27%前後で増加を見ていない。断端陽性の割合もここ数年,25%弱で変化していない。温存術の割合が今以上増えないことが予想されるなか,どのような断端陽性例で予後が悪く,乳房切除術への変更が必要なのかを明らかにしていく必要性が示唆されたという。
 そこで今回,乳房内再発と断端の 3 要素(成分,方向,切片数)との関係を検討した。対象は,温存療法を行った1,397例(全乳癌の21%)のうち,最終的に断端陽性であった319例(23%)。このうち47例は患者の拒否などにより放射線照射を実施しなかった。
 予後を平均52か月にわたって観察した結果,乳房内再発は319例中 9 例(2.8%)に認められた。乳房内再発率を断端の要素ごとに検討すると,まず成分に関しては,ly陽性例で15例中 3 例(20%)が再発,他の群より非常に高率であることがわかった。これらの症例は全例 2 年以内の再発だった。方向に関しては 1 方向のみ(1.8%)よりも 2 方向以上(4.9%),断端切片数に関しては 2 切片以下(1.7%)よりも 3 切片以上(6.3%)で再発率が高かった。
 この結果から,同氏は断端陽性例の治療指針について「in situ,1 方向,2 切片以下の断端陽性例は短期間で再発することはないと考えられるが,さらなる経過観察が必要。ly陽性例は乳房切除が望ましい。その他の断端陽性例では照射を加えたうえで,患者の希望に応じて温存か否かを決定するのがよい」とした。
キーワード 【患者の希望に応じて温存か否かを決定】

〜3次元超音波画像による乳管内進展診断〜
【MRIに劣らない描出能得られる】
 日本乳癌学会第 6 回班研究「乳管内進展の 3 次元画像による診断」の中間報告が,班長の大阪大学バイオメディカル教育研究センター腫瘍外科学研究部の玉木康博助教授により行われた。

画像処理に時間を要する

 この班研究は,3 次元画像(CT,MRI,超音波)で乳房内病巣の広がり,特に乳管内進展病巣をどこまで描出できるかを検討し,乳房温存手術における 3 次元画像による切除範囲決定支援や手術支援の可能性を明らかにする目的で進められている。
 玉木助教授によると,各モダリティの 3 次元画像を用い,乳管内進展病巣の描出能を評価した結果,CTは感度がやや低いものの特異度は高いのに対して,MRIは感度は高いが多発病巣などで特異度がやや低くなる傾向が認められた。なお,浸潤癌部は造影早期相で描出されるが,乳管内進展病巣はそれより遅れて描出される場合があったため,いくつかの相で造影する必要性が示唆された。
  3 次元超音波画像はノイズが多くなるため,あらかじめ 2 次元画像で解析範囲を設定する必要があるが,乳腺部分のみを切り出すように設定することで,MRIに劣らない腫瘍描出能を得ることができた。病理検査と対比すると,3 次元超音波画像によって浸潤癌はほぼ確実に描出できたが,乳管内病巣,特に 1 〜 2 腺管のみの病変では明瞭に描出できない症例が認められた。また,周辺乳管に著明に進展している病巣は,MRIと同程度にうまく描出できる場合もあったが,乳腺症の強い症例では鑑別が難しいことがわかった。
  3 次元超音波で病巣の広がりを診断する場合,MRIよりも直感的に把握できるメリットはあるが,スキャン幅が狭いために広範な病巣を検索するには何度もスキャンする必要があり,画像処理に時間を要すること,ヒストグラムを取るための腫瘍がない症例では閾値設定が困難などの欠点が認められた。
 一方,乳腺症を伴う非浸潤性乳管癌(DCIS)症例においては,CT,MRI,超音波のいずれによっても確実な診断が困難だった。
キーワード 【2001年日本乳癌学会・3次元超音波画像】







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