2000 第8回日本乳癌学会記事

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00(Medical Tribune内の医学会記事)【はじめに】今まで 一般(どなたでも)参照可能であったMedical Tribuneの記事が2000年9月28日から、メディプロという会員制(ID+パスワードが必要)サイト内に移行してしまいました。
情報公開時代に於て、残念でなりません。そこで乳癌に関連したニュース (一般雑誌より参考になり得る情報)をここにセレクトし、upしました。  尚、ここに転記したり転載したる責任の所在は吉利です。 Medical Tribune誌関連や関連医学会の方、もし転載に問題がございましたら、 webmaster@prodr.com(吉利)までご連絡ください。

☆(Medical Tribune Vol.33, No.23,)
#1【2000年第8回日本乳癌学会】学会班研究報告
毎年約2万人の女性が罹患する乳癌。女性の癌としては第2位となっているが,今年は胃癌を抜いて女性の癌のトップになると予測されている。患者数の増大,またそれに伴う医療費の高騰に備えて,あるいは患者のQOLのさらなる向上を目指すためにも,乳癌治療のスタンダードの構築は大きな課題だ。横浜市で開かれた第8回日本乳癌学会(会長=東海大学外科・田島知郎教授)のテーマは「情報の共有と診療の最適化」。学会での班研究報告(司会=鹿児島大学第一病理・吉田浩己教授)もこのテーマに沿ったものとなった。

〜腋窩リンパ節郭清手術の省略〜
【センチネルリンパ節生検が有効】
乳癌の予後には腋窩リンパ節への転移の有無が大きく関係するが,転移が明確でない患者に対しても,再発予防などの観点から腋窩リンパ節郭清手術を行うのが一般的になっている。しかし,一方で腕の痛みやはれといった合併症も避けられない。そのため,腋窩リンパ節への転移がないことを明らかにして,腋窩リンパ節郭清を省くことが臨床での目標になっており,転移の有無を正確に知る指標が必要とされてきた。

金沢大学手術部の野口昌邦助教授を班長とする同学会第 4 回研究班は,画像診断,腫瘍の病理組織学的および分子生物学的因子,センチネルリンパ節生検がその指標となりうるかについて1998年から検討してきたが,各班員が発表してきた多くの論文を総説する形で今回,同助教授から最終結果が報告された。なお,センチネルリンパ節とは腫瘍からのリンパ流を受ける最初のリンパ節のこと。
キーワード 【2000年日本乳癌学会・報告】

【画像や病理所見からは判断困難】
まず,CT,超音波とPETによる画像診断は正診率71〜85%,感度59〜75%,特異度81〜100%であった。PETと超音波を併用しても感度は75%にとどまる。そのため,画像診断のみで腋窩リンパ節郭清を省くことは難しいという結果になった。しかし,画像診断を用いると大きなリンパ節転移を診断できるために,センチネルリンパ節生検の適応症例であるかどうかの判断には有用と考えられた。
病理組織学的に見ると,腫瘍の周囲のリンパ節浸潤は腋窩リンパ節転移と相関している。腫瘍周囲のリンパ節浸潤の有無からの腋窩リンパ節転移の診断は正診率88%,感度90%,特異度83%と良好な結果が出た。これだけで腋窩リンパ節郭清を省くことは困難だが,センチネルリンパ節生検で偽陰性であった症例を発見するためには利用できると考えられる。

分子生物学的因子では,film in situ zymographyを用いてgelatinolytic activityから腋窩リンパ節転移を診断したところ,正診率,感度,特異度とも61%で,腋窩リンパ節郭清を省く指標とはならなかった。 最近急速に普及しているセンチネルリンパ節生検では,色素法とガンマプローブ法を併用した364例で同定率が95%にまで上がることを確認。腋窩リンパ節転移の診断は正診率94〜99%,感度82〜98%,特異度100%と良い成績となった。特に腫瘍径が1.5cm以下の症例ではいずれも100%であった。

この結果から,腫瘍径が小さく,センチネルリンパ節に転移が見られない症例では,腋窩リンパ節郭清を省くことができると考えられた。実際,この方法で多くの施設が腋窩リンパ節郭清の省略を始めている。センチネルリンパ節生検の有用性が確認されたことは第 4 回研究班の成果であった。

研究班では,センチネルリンパ節生検の普及による腋窩リンパ節の温存を「乳房切除術から乳房温存への転換」に次ぐ,乳癌手術の第 2 の転換期と捉えており,今後,学会でセンチネルリンパ節生検によって腋窩リンパ節郭清を省略した症例の局所再発率や生存率,同定方法などを検討して,コンセンサスを得ることを課題としている。
キーワード 【画像や病理所見・検討しコンセンサスを得ることを課題】

〜乳癌治療のQOL〜
【調査ガイドラインや評価票の開発進む】
治療の成否の判定に欠かせない患者のQOL向上は医療の大きな課題だが,日本での臨床研究はまだ緒に就いたばかり。研究方法や評価方法にはコンセンサスがないのが現状だ。日本乳癌学会でも,QOLの評価基準やガイドラインを作成するために昨年,研究班を組織。班長である川崎医科大学乳腺甲状腺外科の下妻晃二郎講師が現在の進展状況について中間報告を行った。

調査票の2次テストを予定
研究班のプロジェクトは,(1)乳癌QOL調査・解析ガイドラインの開発(2)QOL-ACD(癌薬物治療におけるQOL調査票)に付随する乳癌用サブスケールの開発−の 2 つ。まず,

(1)の乳癌QOL調査・解析ガイドラインは,AHCPR(現AH RQ,米保健政策研究局)が提案したevidence-based medicine(EBM)の手法に基づき,臨床的にわかりやすいものを開発することに決定。QOLの概念を「基本的に,多次元かつ主観的なもの」として,「身体・機能・心理・社会」の 4 つの健康関連QOLに,平穏な気持,信念,宗教など「霊性・実存」が加わると定義した。
研究班では文献の系統的レビューから始め,適切なQOL尺度を選択して,研究デザインを提案。さらに生命倫理,統計分析手法などガイドラインに含むべき重要事項も検討することにしている。
 3 月現在,MEDLINE,CANCE RLIT,PsycINFO,CINAHLや医学中央雑誌の過去10年間の文献を検索中。QOL調査票に関する系統的レビューでは目的とする文献がなかったが,乳癌QOLの原著は2,269文献を抽出,タイトルチェックで残った約1,000文献について関連性を調べている。 今後,得られた情報からガイドラインを作成し,外部審査や妥当性・実行可能性の検討を経て,公表したい考えだ。

(2)のQOL-ACDにおける乳癌用サブスケール開発は,日本で唯一の本格的な癌患者用のQOL調査票であるQOL-ACDに乳癌に特化した質問を加えるのが目的。欧米の調査票に付随する乳癌用サブスケールでは,疾患や治療に関する項目に絞られているが,今回の開発ではそれらと差別化するために,さらに医師・患者関係など医療への満足度,コーピング,霊性,母性などに関する項目も含んだサブスケールの開発を目標にしている。
まず,患者や医療者からのインタビューで項目を収集し,日本乳癌学会大川班の「乳房温存療法におけるQOL調査票」の項目も参考にしながら,26項目の仮項目群を作成。これにQOL-ACD(22項目)を合わせて, 5 施設78例の患者に 1 次パイロットテストを行い,患者へのインタビューも実施。3 月現在で,QOL-ACDとの整合性や実施可能性,信頼性・妥当性などを検証して約20項目までに絞り込んだ。
今後は150例規模の 2 次パイロットテストでさらに詳しい信頼性・妥当性や応答性を確認して,乳癌用サブスケールを完成し,臨床に応用する予定だ。
キーワード 【調査ガイドラインや評価票の開発】

〜非浸潤性乳管癌の診断〜
【病理診断の指針を提案】
非浸潤性乳管癌(DCIS)は,わが国の臨床では比較的まれな症例とされてきた。現在,DCISには診断基準がなく,その治療法も各臨床医に任されている状態だ。しかし,この 4 月から自治体の乳癌検診にマンモグラフィが導入され,今後は欧米並みにDCIS症例の増加が予測される。東北大学腫瘍外科の大内憲明教授を班長とする研究班は,DCISの組織学的・生物学的特性に関する研究結果を報告。同時にDCISの病理診断に関する指針を提案した。

病理分類モデルが良・悪性判定に有用
研究班は,DCISを「乳管上皮由来の癌で,間質への浸潤が見られないもの」と定義したうえで,乳管内増殖性病変を,
  • (1)軽度増殖性病変
  • (2)中〜高度増殖性病変
  • (3)異型を伴う病変(ADHを含む)
  • (4)DCIS−の 4 つのカテゴリーに分類し,病理診断の基準として発表。
この基準で浸潤癌(ID C)の手術症例から生検の既往のある症例について,生検標本を収集,再鏡検した。88症例の見直しの結果,軽度増殖性病変7 例,中〜高度増殖性病変37例,異型病変 7 例,DCIS 29例となった。

手術標本88例のうちIDCが61例あり,それぞれの病変からIDCと診断されるまでの平均期間を算出した。それによると,軽度増殖性病変は129か月,中〜高度増殖性病変92か月,異型病変78か月,DCIS 66か月。良性か悪性かの判定は病理診断の分類と密接に関連することが明確になり,この分類が有用な診断基準になることが示唆された。
また,生検では範囲を広げることによって浸潤が見つかる可能性があるため,どのような検索方法を取ったかを生検時に明記することが必要であるとも強調。DCIS症例では,乳管内での癌の進展の範囲や将来のIDCの発生の危険度を推定するために,核異型度,構築,壊死による亜分類を行うことが望ましい,とも提言した。
大内教授は「良性か悪性かの判定に悩む病変は増加しており,DCISの病理診断基準を確立する必要がある。特に,DCISに伴う間質浸潤の判定は慎重に行うべきで,過剰診断に気を付けたい。また,DCIS症例の適切な治療法について十分に検討すべきだ」と述べた。
キーワード 【病理診断の指針・良悪判定に悩む病変の増加】


パネルディスカッション

☆(Medical Tribune Vol.33, No.24,)
#2【2000年第8回日本乳癌学会】パネルディスカッション「新しい治療戦略と臨床的評価」 横浜市で開かれた第8回日本乳癌学会(会長=東海大学外科・田島知郎教授)のパネルディスカッション「新しい治療戦略と臨床的評価」(司会=熊本大学第二外科・小川道雄教授,癌研究会附属病院化学療法科・堀越昇部長)では,増加し続ける乳癌の治療法の新しい選択肢が提示された。大量化学療法,ビスホスホネート,遺伝子選択型治療であるヒト型化HER2モノクローナル抗体に関する話題を紹介する。
キーワード 【新しい治療戦略と臨床的評価】

【 〜術後大量化学療法〜】
ハイリスク群の予後改善の可能性
大量に抗癌薬を投与し,のちに自己の骨髄幹細胞や末梢血幹細胞を移植する術後大量化学療法の有効性についての議論が米国で続いているが,わが国ではまだ大規模な臨床試験も行われていない段階だ。大阪大学腫瘍外科の芝英一助教授らは,末梢血幹細胞移植併用による大量化学療法(HDC)が保険適用になった1994年から,乳癌手術後,リンパ節転移10個以上の症例に対してこの療法を施行しているが,今回,標準的治療法と比較したうえで安全性と予後を検討。「大量化学療法は現在では安全に施行でき,再発リスクの高い乳癌患者の予後を改善させる可能性を持っている」と報告した。

4年間で12例中8例が無再発
対象はリンパ節転移10個以上,60歳以下,心肺肝腎機能が保たれているという条件を満たし,同意が得られた12例。平均年齢は41.7歳で,観察期間の中央値は39か月だった。
まず,シクロホスファミド(CPA)600mg/m2とエピルビシン60mg/m2の併用療法を 3 サイクル施行し,白血球を回復させる顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与してから,末梢血幹細胞を採取。その後の大量化学療法はcarmustine(BCNU)130mg/m2を 3 回,カルボプラチン(CBDCA)500mg/m2を 3 回,CPA 50mg/kgを 2 回とし,1 週間後に末梢血幹細胞を移植した。全例に血小板輸血も行った。その結果,顆粒球マクロファージコロニー形成細胞(CFU-GM)の数の平均は1.75×105/kgで,好中球500未満の期間は平均 8 日,血小板 3 万/μl未満は13日,体温が38.0℃を超えたのは 4 日だった。

合併症としては,汎発性血管内凝固症候群(DIC),サイトメガロウイルス感染症が各 1 例あったが,治療関連の死亡はなかった。予後については,4 年間で12例中 4 例が再発。再発死亡例は 2 例,担癌生存例が 2 例で,8 例は無再発で生存中だ。
これに対し,CEF(シクロホスファミド,エピルビシン,フルオロウラシル)やCAF(シクロホスファミド,ドキソルビジン,フルオロウラシル)などの標準的治療を行った群では20例中 8 例が再発した。 大量化学療法後の 3 年間の無再発生存率は66.7%,全体の生存率は83.3%と良好。標準的治療群より良好であったが,有意差はなかった。
芝助教授は「有意差は出なかったものの,大量化学療法はリンパ節転移10個以上のハイリスク群の予後を改善させる可能性がある。ただし,入院期間が長くなり,医療費が高騰するのが問題だ。実際,インフォームド・コンセントの段階で,標準的治療よりも入院期間が延びることで治療をちゅうちょした患者もいるようだ」と述べた。なお,「米国癌治療学会(ASCO)は,大量化学療法はハイクオリティの臨床試験でのみ行うべきだと推奨している」とも言及した。
キーワード 【大量に抗癌薬を投与する症例の検討】

【〜ビスホスホネート療法〜】
急速投与や連続投与でも安全かつ有効
ビスホスホネートは現在,わが国では骨粗鬆症や悪性腫瘍による高Ca血症などに適応があるが,乳癌の骨転移治療薬としても期待されている。和歌山県立医科大学第一外科の尾浦正二講師は,ビスホスホネートの単独療法の治療成績,急速投与の安全性の検討,連続投与の有用性を報告。同薬の新しい投与方法の提案を行った。

外来患者に負担少ない
単独療法の対象は骨転移や骨浸潤のある乳癌患者29例で,平均年齢は53歳。アントラサイクリンを含む治療歴があり,治療開始段階で28例に骨痛があった。 初回のビスホスホネート単独療法により,18例(64%)で癌性骨疼痛が軽減し,5 例(17%)で画像上の改善が得られた。
ビスホスホネートの急速大量投与については急性腎不全が起こるという報告があり,日本では「パミドロネート30〜45mg,アレンドロネート10〜20mgはいずれも 4 時間以上掛けて,インカドロネート10mgは 2 〜 4 時間以上掛けて投与する」という推奨値がある。しかし,それでは外来患者にとっては不都合なため,尾浦講師らは30分の急速投与でも安全かどうかを検討した。

投与方法は,100ml溶液に溶かしたパミドロネート30mg(13例),アレンドロネート10mg(12例),インカドロネート10mg(11例)を各30分で点滴静脈注射するパターン。2 週間ごとに投与した。 これら投与群に見られた副作用は,肝機能障害(GOTとGPTの上昇),低リン酸血症,発熱,痛みの増加,疲労感,吐き気など。尾浦講師は「いずれの薬剤でも急性腎不全や低Ca血症のような重篤な副作用はなかったので,この程度の急速投与であれば安全と考えている」と述べた。
標準的なビスホスホネート療法では,パミドロネートの効果が十分でない場合には鎮痛薬,放射線療法,手術,内分泌療法,化学療法を行うが,新しい試みとして,パミドロネートの後にアレンドロネートかインカドロネートを連続的に投与する治療の成績を紹介。2 剤連続6 例,3 剤連続が 3 例,平均12回の投与で,これ以外の抗腫瘍効果の期待できる治療は行っていない。
その結果,画像上の改善は 9 例中 1 例,痛みの軽減は 3 例,腫瘍マーカーが20%以上低下した例が 1 例であった。また,パミドロネートの投与量が上がれば疼痛軽減効果は上がる傾向が見られた。 尾浦講師は「乳癌骨転移に対してビスホスホネートは必須の治療薬と考えている。患者の負担を考えると急速投与は安全で便利であるし,薬剤の種類を変えた連続投与も,骨転移の見られる ある種の症例には有効である」と結んだ。
キーワード 【ビスホスホネートへの期待:乳癌の骨転移】

【〜ヒト型化HER2モノクローナル抗体〜】
化学療法との併用で有効
進行再発乳癌の一部では,HER2/neu蛋白を産生する。これに対するヒト型化HER2モノクローナル抗体(trastuzumab,商品名Herceptin)は米国で1998年に認可され,既に 2 万例近くに処方されており,現在日本でも承認申請中だ。東海大学外科の徳田裕・助教授は,日米の臨床試験や東海大学外科グループの症例について報告。trastuzumabが進行再発乳癌の治療戦略の有力な方法となる可能性を示唆した。

臨床試験の進行次第で新しい治療戦略に
Trastuzumabには,HER2分子への結合による直接の細胞抑制,単球とNK細胞による腫瘍細胞障害活性の 2 つの作用機序が考えられている。 米国で行われたtrastuzumab単独療法の臨床試験は,HER2過剰発現が 2 +か 3 +で,既に化学療法を行っている症例を対象にしたもの。
初回 4 mg/kg,維持療法として 1 週間 1 回 2 mg/kgが投与された。
有効性は222例中著効(CR) 8 例,有効(PR)26例で奏効率15%。奏効期間の平均は9.1か月,病勢進行までの期間は3.1か月だった。初回に悪寒,発熱が30〜40%見られ,ほかには疼痛,脱力,吐き気・嘔吐,頭痛などの有害事象があったが,いずれも 2 回目以降では減少した。
Trastuzumab単独療法の国内第 I 相試験でも対象は同様。初回投与後 3 週間休薬し,その後週 1 回計10回の投与で,投与量は 1,2,4,8mg/kgの 4 パターン。18例中CRが 1 例,P Rが 1 例だった。
Trastuzumabはパクリタキセルなどの化学療法薬との併用で,化学療法のみと比べて有意に著効率が高く,生存期間も延長することが明らかだ。米国で行われた無作為試験では,アントラサイクリンの前治療のない症例でAC(ドキソルビジンあるいはエピルビシンとシクロホスファミド)療法のみとACとtrastuzumabの併用療法を比較。併用療法では生存期間が9.1か月と,AC療法の6.5か月に比べて有意に良好だった。また,アントラサイクリンの前治療を行った症例では,パクリタキセル単独療法とパクリタキセルとtrastuzumabの併用療法を比較。併用療法の生存期間は11か月で,パクリタキセル単独療法の4.4か月より良好な成績となった。
ただ,trastuzumab使用による心毒性の懸念があり,特にAC単独療法では 3 %だった心毒性がtrastuzumab併用で19%と高くなった。このような結果から,米国ではパクリタキセルとの併用が推奨されている。
東海大学外科では,米国で治療を受けたり,個人輸入でtrastuzumabを入手した患者20例を治療中。患者の年齢中央値は50歳で,いずれもHER2過剰発現 2 +か 3 +,11例は大量化学療法を受けている。
徳田助教授はこの対象でのtrastuzumab単独11例,抗癌薬との併用 9 例の症例を報告。trastuzumab単独では奏効例は少なかったが,ドセタキセル併用の 2 例でCRとなった。ただし,2 例で左室駆出率が有意に低下。「心毒性のメカニズムはまだわかっていない。しかし,それ以外には重篤な有毒事象はまれで,trastuzumabは有用」と述べた。
現在日本でtrastuzumabとドセタキセルあるいはパクリタキセル併用時の薬物動態と安全性を調べる臨床試験が行われている。徳田助教授は「trastuzumabは単独で使うのか併用か,術後投与か進行・再発癌に使うのかなどを明らかにするのが今後の課題。
臨床試験の進行で,trastuzumabの治療戦略上の位置付けが明らかになるだろう」と予測した。
キーワード 【trastuzumab・Herceptinへの期待】







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2000 第8回日本乳癌学会記事