2002-07〜2002-12記事

[スクラップ項目に戻る]


00(Medical Tribuneなどの記事)【はじめに】
今まで一般公開されていたMedical Tribune「週間医学雑誌記事」が2000年9月28日から
ID+パスワードが必要になってしまいました。情報公開の時代に残念な出来事でなりません。
そこで乳癌に関連したニュース(一般雑誌より参考になり得る情報)をここにセレクトし
転記します。転載した責任の所在は吉利です。Medical Tribune誌関連の方、もし転載に
問題がございましたら、webmaster@prodr.com(吉利)までメールをお願いします。

[2002年7月4日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.27 p.40)

乳房温存術 マージン幅が再発の予測因子

〔ニューヨーク〕 タフツ大学ニューイングランド医療センター(ボストン)放射線腫瘍学のAndrew Neuschatz博士らは,非浸潤性乳管癌(DCIS)に乳房温存術を施行する場合,腫瘍周辺の正常組織のマージン幅が再発の予測因子であるとCancer(94:1917-1924)に報告した。

2mm以上では残存腫瘍含まず

 Neuschatz博士らは,1987〜2000年にDCISを乳房温存術および再摘出術で治療した253例について,病巣や検体のサイズ,マージン幅,マージンの状態および陽性の程度,核異形性,壊死の存在,年齢,検体の処理程度などを検討した。
 その結果,マージン幅が残存腫瘍の存在を予測する最も有意な因子であった。マージン幅が 2 mm以上の検体は残存腫瘍を含まなかったが, 1 〜 2 mmでは31%,0 〜 1 mmでは41%が残存腫瘍を含んでいた。
 またこの研究は,マージンの陽性程度が高くなるにつれ,残存腫瘍が存在する可能性が高くなることを示した。高陽性を示したマージンの85%および中等度陽性であったマージンの68%が再摘出において残存腫瘍を有していた。
 また,最初の腫瘍サイズも重要であったが,同博士らは「残存腫瘍の発見に関してそのほかの因子は有意ではない」と結論。「この知見は,さらに積極的治療を要するような残存腫瘍を有する可能性の高い患者を特定する際に役立つことを示している。また,放射線療法などの追加の治療を必要としない患者を特定する場合にも役立つだろう」と述べた。
 しかし,南カリフォルニア大学(ロサンゼルス)のMel Silverstein博士らによる以前の研究では,マージン幅が全方向について10mmを超えると,照射療法の有無にかかわらず,局所的再発のリスクは非常に低く,わずか 2 〜 3 %であると報告されている。同博士は,10mm以上のマージン幅で局所的摘出を行ったDCIS患者133例のうち,再発は 3 例であったとしている。

前向き試験による確認が必要

 しかし,この研究もタフツ大学の試験も後ろ向きであった。この問題に関する前向き試験は,乳房温存術のみと乳房温存術+放射線療法を比較したもの,およびタモキシフェンのアジュバント療法の有無を比較したものであった。これらから,全体的に広範囲の摘出には放射線照射およびタモキシフェンを追加すると,生存率が高まることが示された。
 Neuschatz博士らは「これら 3 つのランダム化試験を総合すると,DCISの 5 年間の腫瘍再発は,局所的摘出のみの場合は約25%,広範囲の局所的摘出および乳房放射線照射の場合は13%,タモキシフェンを追加した場合は 8 %であったことを示している」と述べている。
 しかし,同博士らは「DCISを広範囲摘出のみで治療しようとする傾向が強い。一般的に広範囲摘出に乳房放射線照射を追加することで相対リスクの低下が期待されるが,そうしたリスク低下が大きな利益とならない局所的再発リスクの低い患者の亜集団が存在する可能性はある」としている。しかし,このような患者の同定は困難である。
 同博士らは,適切なマージン幅およびそのほか考慮すべき因子に関する議論は終わっていないと考えており,「低容積のDCISは乳房に残存しても進行しない可能性のある患者の亜集団があるという考えは魅力的だが,前向き対照試験によって証明されなければならない」と述べた。
キーワード 【乳房温存術 マージン幅】

[2002年7月11日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.28 p.26)

浸潤性乳癌では腋窩リンパ節郭清は不可欠

〔ニューヨーク〕 仏ストラスブールのCaroline Martin博士らは「微小浸潤性乳癌の手術においては,腋窩リンパ節への転移率が低い場合も腋窩部の郭清を省略すべきではない」とする論文をCancer(94:314-322)に発表した。

4例に1例はリンパ節に転移

 Martin博士は「腋窩リンパ節への転移率が25%以上と推定される患者に対しては,腋窩部のリンパ節郭清を省略することは推奨できない」としている。ただし,リンパ節転移の可能性の低い患者に対しては「センチネルリンパ節生検による偽陰性のリスクが低いため,腋窩リンパ節郭清を必ずしも必要としないだろう」と結論している。
 同博士らは回帰分析により,微小浸潤性乳癌(TNM分類でT0,T1, 4 cm以下のT2,N0,M0)の795例を検討した。対象は1980〜97年に手術を受け,10個以上のリンパ節を切除された患者で,ジャックナイフ・リサンプリング法を用いて腋窩リンパ節への転移率を推測した。同博士らは臨床所見での腫瘍の大きさ,発生部位,組織学的サブタイプ,グレードなどの変数から,これらの患者における腋窩リンパ節転移率を 6 〜45%(全体としては25.7%)であると割り出した。
 腋窩リンパ節郭清による合併症は無視できないものの,上記のような患者群では腋窩リンパ節への転移率が高いこと,再発率や生存率を推測する予測因子として腋窩リンパ節転移が重要であることから,同博士らは「腋窩リンパ節転移の可能性の高い患者に対しては腋窩リンパ節郭清が不可欠である」とコメントしている。
キーワード 【浸潤性乳癌では腋窩リンパ節郭清】

[2002年7月11日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.28 p.26)

皮膚転移を伴う乳癌にはシスプラチンと5-FUが有効

〔ニューヨーク〕 Gazi大学(トルコ・アンカラ)内科のA. E. Altinova氏は,アントラサイクリンとタキサンの両薬に奏効しない乳癌患者にはシスプラチン(CDDP)とフルオロウラシル(5-FU)の併用が有効であるという知見をOnkologie(24:576-579,2001)に発表した。これらの薬剤は皮膚転移のある患者でも良好な結果を示した。
 同氏らは転移性乳癌患者は多く,その治療は現代腫瘍学の大きな課題であると認識している。CDDPと5-FUは効果のある薬剤であることが明らかにされているため,同氏らは,治療歴のある転移性乳癌患者でのCDDPと5-FUの持続点滴の治療効果と耐容性を評価する後ろ向き研究をデザインした。
 試験には患者16例が参加し,全例がこれまでにアジュバンド療法または治療的手段としてアントラサイクリンの投与を受けたことがあった。うち 8 例はアントラサイクリンの効果がなかったため,タキサンの投与も受けていた。
 患者は 3 週間ごとにCDDP 80mg/m2/日を投与され,続く 5 日間は連続24時間点滴で5-FU 1,000mg/m2を投与された。
 奏効分析の対象となった13例のうち 3 例は,重度の毒性が生じたために最初の 1 サイクルで化学療法プロトコルを中止した。46%が部分奏効したが,完全奏効した例はなかった。
 奏効群での奏効期間の中央値は 5 か月(3.5〜 7 か月)であった。しかし,皮膚転移を伴う患者においては 6 例中 5 例で有効とされ,奏効率がより高いことが示された。
 タキサン投与患者と非投与患者の奏効率は同等であった(75%対80%)。最も重症の毒性は骨髄抑制で25%に見られた。
キーワード 【皮膚転移を伴う乳癌 シスプラチンと5-FU】

[2002年7月11日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.28 p.32)

2年以内の出産と乳癌死リスクに関連
若年女性の急速な癌増殖特性を解明

〔米ワシントン州シアトル〕 乳癌を有する若年女性の最大の集団に基づく研究の腫瘍分析から,最近の出産と乳癌死リスクの増加とが関連することが確認された。これまで,乳癌を有する若年女性が最近出産していると,乳癌で死亡するリスクが増加することが証明されていたが,その腫瘍の特徴がこれまで詳細に研究されることはなかった。
 フレッドハッチンソン癌研究センター公衆衛生学部門(シアトル)のJanet R. Daling博士らは,出産から 2 年以内に乳癌と診断された若年女性は,2 年以上前に出産した女性あるいは未経産の女性に比べて,乳癌死亡リスクが 2 倍になるという総合的な生物学的証拠をCancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention(11:235-241)に発表した。最近の出産と乳癌死に関連する腫瘍特性を総合的に評価した研究としては,これまでで最大規模のもの。

侵襲性のエビデンスが約6倍

 ワシントン大学(シアトル)公衆衛生・地域医療学部疫学科教授でもあるDaling博士は「不良予後に関連する幅広い腫瘍マーカーを研究したところ,これら女性の腫瘍では,組織学的グレード,すなわち侵襲性のエビデンスがほぼ 6 倍近く高かった」と述べた。
 これらの知見は,最近出産した若年女性における予後不良に関連する腫瘍マーカーの探索範囲を狭めるもので,これらの癌の発症および進行に関連する機序について新たな手がかりをもたらしている。そのようなマーカーが発見されれば,積極的治療を行うかどうかを決定する助けとなる。このような機序を理解することにより,乳癌を予防・治療する新しい薬剤も開発されるだろう。
 この研究は,1983〜92年に侵襲性乳管癌(最も一般的な形態)と診断されたワシントン州西部に住む45歳以下の女性1,174例を対象に,平均約 9 年間のフォローアップを行った。フォローアップ終了時には,診断前の 2 年以内に出産した女性の48%が死亡していたが,5 年以上前であった女性の死亡率は24%,未経産女性の死亡率は23%であった。
 最近出産した女性の乳癌死亡リスクが 2 倍も高いのはなぜか。ホルモンと関係があるのではないかと考える研究者もいるが,確かなことは不明である。
 同博士は「これらの女性では,妊娠ホルモンが既存の異常乳腺細胞あるいは腫瘍を非常に早く成長させ,侵襲的にした可能性が高い」と述べた。
 この侵襲性の裏にある生物学的特性を理解するために,研究チームの病理学者であるフレッドハッチンソン癌研究センター乳癌研究プログラムを指導するPeggy L. Porter博士は,これらの女性の70%から乳癌標本を採取した。腫瘍標本が入手できない場合は,病理報告書の原本を利用した。
 同博士は「多くの研究は,患者の臨床精密検査の一部として実施された臨床検査データに依存している。今回の研究は,1 人の病理学者が病理学的検査を総合的かつ統一的に行った点でユニークである。このような腫瘍特性の慎重な評価および品質管理は,今回の研究の価値を高めるものである」と述べた。

侵襲性と関連するマーカー

 最近出産した女性の腫瘍は,活発な細胞分裂に関連する独特な特性(急速な癌増殖のマーカー)を示した。その評価の結果,癌の侵襲性に関連することが判明したマーカーは以下の通り。
(1)エストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PR)の状態(陽性または陰性):これまで検査されてきたマーカーで,死亡あるいは癌再発に関する予後の可能性を評価するために利用されている。腫瘍細胞におけるER,PRの損失(すなわちER陰性あるいはPR陰性)は,臨床的予後不良およびタモキシフェンなどの抗ホルモン療法に対する応答の欠如を伴う (2)有糸分裂:顕微鏡で癌細胞を観察して判定する活発な細胞分裂。有糸分裂数の多い腫瘍は侵襲性が高い
(3)S期:DNAが複製される細胞周期の「合成期」で,活発な細胞分裂の特徴
(4)p53:p53腫瘍抑制遺伝子によって産生される蛋白質。大量に検出される場合は,p53の異常機能および細胞周期制御の損失を伴うことが多く,癌につながる。最近の出産歴のある女性は「p53陽性腫瘍」を有する可能性が2.5倍高かった
(5)Ki-67:活発な細胞分裂のもう 1 つのマーカー。Ki-67蛋白質陽性を示す腫瘍細胞の高比率は,急速な腫瘍増殖の指標である
(6)c-erB-2:腫瘍遺伝子(別名HER-2/neu)。増加すると予後不良をもたらす。この遺伝子は,現在,癌ワクチンの標的として注目を集めているが,乳癌の20〜30%において異常発現する
 ワシントン大学病理学部の准教授も務めるPorter博士らは,腫瘍サイズやリンパ節への浸潤,癌病期(癌転移・拡散の程度)も評価。「これらのマーカーは現在,特に大学の医療センターで臨床的に利用されており,最近の出産歴を有する乳癌患者については,治療法の侵襲性を決定するためにも利用できるだろう。最近出産したという事実のみに基づいて,このような女性を侵襲的に治療したいとは思わないであろう。しかし,この一連のスクリーニング方法で腫瘍を検査し,腫瘍の侵襲性に基づき治療したいと思うであろう」と述べた。
 今回の研究対象となった女性は,フレッドハッチンソン癌研究センター癌調査システムによって特定された。同システムは,ワシントン州西部の人口に基づいて癌患者を登録するもので,米国立癌研究所(NCI)が運営する全米癌登録システムの一部である。同研究はNCIが資金を提供した。
キーワード 【2年以内の出産 乳癌リスク】

[2002年8月1日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.31 p.01)

ホルモン併用療法の大規模臨床試験が中止に
発癌リスクなど有益性上回る

〔米メリーランド州ベセズダ〕 米国立衛生研究所(NIH,ベセズダ)の米国立心肺血液研究所(NHLBI)は,健康な閉経後女性を対象としたエストロゲンとプロゲステロン併用療法の大規模臨床試験中に,浸潤性乳癌の発症リスクが高まったことを受けて,2005年まで予定されていた同試験を平均5.2年の追跡期間を経て中止された。

心疾患の予防にもならない

 Women's Health Initiative(WHI)の一部として試行されてきた今回の大規模多施設臨床試験は,プラセボ群とエストロゲンとプロゲステロン併用療法群を比較した結果,後者では乳癌のほかに,虚血性心疾患,脳卒中,肺塞栓の発症リスクが高くなっていたことが判明。同併用療法は,少数例の大腿骨頸部骨折や直腸癌を著明に抑えたが,全体として有益性よりも有害性が上回っていた。
 NHLBI所長のClaude Lenfant博士は「閉経後に行うホルモン併用療法は心疾患予防になるのか,もしそうならリスクはどの程度なのかという疑問に対してWHIから得られた最終的な答は,心疾患の予防にはならないということだった。同併用療法による心疾患と発癌リスクは有益性を超えており,たとえ心保護が認められても乳癌発症の26%上昇は危険過ぎる。同様に,少数例の大腿骨頸部骨折に有効とはいえ,リスクはそれ以上だ」と述べた。
 さらに,同博士は「エストロゲンとプロゲステロン併用療法の対象候補となりえた閉経期の女性は,心疾患リスクを低下させるために,今後は高血圧や高脂血症,肥満の予防対策を踏まえた効果的な治療法に集中すべきで,その努力は何よりも大切である。なぜなら,米国人女性の死因の第 1 位は心疾患だからだ」と強調した。
 米国では更年期症状の緩和だけでなく,医師の勧めや長期の健康管理のためなどさまざまな理由で,約600万人の女性がエストロゲンとプロゲステロンを併用している。WHI臨時統括責任者のJacques Rossouw博士は「子宮摘除術などを受けておらず,ホルモン併用療法を受けている女性は,これを継続するかどうかを担当医と真剣に話し合ったほうがよい。もし短期の症状緩和に使うなら,リスクよりも有効性が上回るため続けるほうがよいだろう。しかし,長期療法や疾患予防として続けるなら,WHIが確認している複数の有害事象を考慮し再検討する必要がある」と述べている。
キーワード 【ホルモン併用療法の大規模臨床試験が中止】

[2002年8月1日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.31 p.02)

エストロゲンとプロゲステロン併用療法試験
浸潤性乳癌リスクを高めるなどの理由で中止

〔米メリーランド州ベセズダ〕 エストロゲンとプロゲステロン併用療法により,浸潤性乳癌の発症リスクが高まったことなどを受けて中止となった試験は,全米の40施設で行われていたもので,子宮が無傷の(摘出などを受けていない)50〜79歳の女性1万6,608例が参加した。被験者はランダムに,ホルモン併用群(結合型エストロゲン0.625mg+酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mgを毎日服用)とプラセボ群に割り付けられた。エストロゲンとプロゲステロンの併用は子宮内膜癌を予防することで知られているが,同試験の最大の目的は,併用療法が心疾患や大腿骨頸部骨折に与える予防効果や,乳癌と大腸癌における発癌リスクの変化を調査することであった(1ページから続く)

2000年から“わずかな”増加

 試験結果を検討し,被験者の安全を確保するための独立したデータ安全監視委員会(DSMB)は,2000年と2001年に,ホルモン併用群において心臓発作,脳卒中,血栓などの“わずかな”増加が認められたことを被験者に伝えることを求める勧告を出し,Women's Health Initiative(WHI)の研究員はこれに応じた。
 しかし,上記の有害症状を 1 つでも発現した被験者は少なく,被験者の安全性を確実にするために設定された統計学的境界線は越えず,かつホルモン併用療法のリスクと有効性のバランスが未確認であったため,DSMBは試験の続行を認めた。
 その後,2002年 5 月31日に行われたDSMB定例会で,エストロゲンとプロゲステロン併用群における浸潤性乳癌リスクが初めて統計学的境界線を越え,発癌リスクが高まったことが明らかとなった。
 同試験の解析を行ったフレッドハッチンソン癌研究センター(ワシントン州シアトル)の生物統計学者 Garnet Anderson博士は,「試験デザインの設計や結果解析を行う際には,患者の安全を最優先にすべきである。乳癌は重大疾患のため,モニターするためにバーを低く設定し,その際には,試験中止を決定する条件としての発癌率上昇はわずかでもよいことをあらかじめ指示した。明らかなリスク増大の兆しが初めて認められたとき,直ちに試験を中止した。一方,試験前に子宮摘出術を受け,エストロゲン単独療法試験に参加していた被験者では,乳癌の発症リスクは認められなかった」と述べた。なお,現時点ではエストロゲン単独療法のリスクと有益性のバランスが未確認のため,試験は続けられている。

試験中止後も参加者を追跡調査

 WHI運営委員長でスタンフォード大学助教授のMarcia Stefanick博士は「エストロゲン単独療法試験が終了すれば,本試験の結果と比較することにより健康や疾患におけるエストロゲンの働きや,それをプロゲステロンと比較した場合の働きがわかるだろう」と期待してる。
 ホルモン併用療法の大規模臨床試験を中止するよう 5 月31日に出されたDSMBの勧告は,有効性よりも全体的に深刻な健康被害が認められたというエビデンスに基づいたものであった。試験中止が決定された後,研究所全体で集中的に同試験の情報収集を行い,7 月 8 日には参加者らのもとに試験結果と薬剤投与の中止を求める内容の手紙が届けられた。
 さらに,試験センターは被験者にカウンセリングを受けるよう連絡し,健康状態を追跡するため診察が続けられる。また,他試験の参加者を含むWHI全被験者にも,同試験結果とともにリスクと有効性に関する説明書が届けられている。

個人と集団のリスクは異なる

 WHI臨時統括責任者のJacques Rossouw博士によると,今回の試験で得られた知見は,子宮が無傷の閉経後女性 2 万人を非ホルモン併用群とホルモン併用群に分けて比較すると,後者は 1 年間で 8 例以上が浸潤性乳癌を発症し,7 例以上は心臓発作,8 例以上が脳卒中を起こすことを意味する。また,血栓を発症する18例のうち 8 例は肺塞栓を呈することになる。
 同博士は「個々の女性を見た場合,上記の年間リスク上昇は比較的小さいため,試験に参加した個人や,ホルモン併用療法を受けている一般女性は過度に不安がることはない。しかし,個人のリスクや人口全体を長期的に見ていくと,前述した深刻な有害事象は何万と累積されていくことになり,大変危険だ」と,個人と集団におけるリスクの度合いが違うことを説明。また,ホルモン併用療法による副作用は,年齢や人種,病歴に関係なくすべての女性に起こりうるとしている。
 米国立癌研究所(NCI)は,40歳以上の女性は乳癌検診のために,1 〜 2 年ごとに乳房X線検査を受けることを強調している。NCI癌予防部臨床試験副部長のLeslie Ford博士は「WHI試験参加者,またはあらゆる理由でホルモン薬を服用している女性,そして40歳以上の女性は,乳癌の早期発見のため定期的な乳癌検診を従来通り続けるように」と指摘。さらに「WHI試験で認められた結腸直腸癌リスクの低下は著しいが,このためにホルモン併用療法を始めたり,続けることは有害性と有効性のバランスの面から勧められない。現在NCIでは,結腸直腸癌と乳癌を検知して予防する手段の有効性を臨床試験で検討している。これらの結果は,女性の適切な健康判断について重要な情報をもたらすはずだ」と付け加えた。
 エストロゲン+プロゲステロン群とプラセボ群を比較した結果,明らかとなった知見は以下の通り。
(1)脳卒中発症が41%上昇
(2)心臓発作が29%増加
(3)静脈血栓症が倍増
(4)心血管疾患が22%増加
(5)乳癌発症が26%上昇
(6)結腸直腸癌が37%減少
(7)大腿骨頸部骨折が33%低下
(8)全骨折が24%減少
(9)全死亡率に差は認められない
 心疾患や乳癌,大腸癌や骨粗鬆症に対し,有効性が未確認の予防対策を検討するため,WHIが行っている一連の臨床試験,または観察研究には16万1,000例の女性が参加している。また,エストロゲン単独療法とホルモン併用療法のほかに,低脂肪の食事パターンとカルシウム/ビタミンD補充療法も検討中である。
キーワード  【エストロゲンとプロゲステロン併用療法 浸潤性乳癌リスク】

[2002年10月24,31日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.43,44 p.01)

新たな乳癌遺伝子を発見
ファンコニ貧血の病因遺伝子研究

〔ボストン〕 ハーバード大学(ボストン)小児科学のAlan D'Andrea教授らはファンコニ貧血(FA)の病因遺伝子に関する研究中に,乳癌に感受性を持つ遺伝子を偶然に発見した。今回の研究は,ダナ・ファーバー癌研究所(ボストン)の主任研究員でもある同教授の指導で,同研究所およびハーバード大学小児病院の研究者により行われたもので,詳細はScience(297:606-609)に報告された。

乳癌検査法への可能性も

 FAは,米国でこれまで500家族にしか見られていない非常にまれな遺伝性疾患で,さまざまな癌と若年での死亡をもたらす致死的な小児疾患である。
 現在,乳癌リスクを高めることで知られているBRCA1BRCA2の遺伝子検査は幅広く行われているが,今回の発見により,FAの病因遺伝子として既にクローニングされているA,C,D2,E,F,Gの 6 遺伝子における変異を調べることが乳癌リスク検査法として実用化の可能性が出てきた。
 D'Andrea教授は「現在,臨床現場で乳癌の遺伝リスクの有無に関してBRCA1BRCA2の変異が調べられているように,近い将来これら 6 つの遺伝子変異についてもルチンに調べられるようになるだろう。今回の発見が検査法としてはもちろん,新たな乳癌治療法の開発につながることを期待している」と述べている。

BRCA2アレルに二重の変異

 今回の研究でD'Andrea教授らは,サブタイプBとD1のFA患児に由来する細胞株の検討で,同細胞株がBRCA2アレルに二重の変異を有し,通常より短いBRCA2蛋白質を発現することを明らかにした。
 同教授は,FA患児と乳癌の関連について調べていく過程で,発見に関連する驚きを 2 回体験したという。1 回目は,ある細胞遺伝学者が「FA患児の細胞と乳癌細胞には同様の染色体欠損が見られるため,両者は同じものである」と言うのを聞いたときで,同教授は「両疾患における染色体の状態は酷似しているため,熟練した研究者でもその区別ができないほどである」と述べている。
  2 回目は,FA患者の細胞遺伝子の特徴を解析するためサンプルを研究室に送ったところ,「サンプルのラベルが間違っているのではないか。これらは乳癌細胞だ」という連絡を受けたときであった。
 同教授は,今回の発見が乳癌の新たな治療法開発につながることを期待している。この発見はまた,珍しい疾患の研究が,一般的な疾患の治療法へとつながることがしばしばあることを示すものでもある。

再生不良性貧血患者では 鑑別検査を

 FA患児は,早期に骨髄疾患を併発することが多い。患児が骨髄移植などにより思春期まで生存したとしても,さまざまな癌のリスクを負うことになる。最も多く見られるのは白血病で,乳癌など他の癌にも罹患しやすい。
  2 つの劣性遺伝子が原因となるFAは,四肢や母指の異常,骨格異常,腎臓疾患,カフェオレ斑点や局所的な色素沈着などの皮膚の退色により,出生時に明確に診断が付くこともある。また,小さな頭部や目,精神遅滞や学習障害,胃腸障害,心臓および性器の異常などが見られることもある。患児の細胞には著しい染色体異常が見られる。
 FA研究基金によると,同疾患患児は明白な身体異常を呈するにもかかわらず,多くの場合,出生時にも乳幼児期になっても診断が付かないことがあるため,再生不良性貧血の診断を受けたら,年齢にかかわらずFAの検査を受けるべきだという。
 ロックフェラー大学(ニューヨーク)のArleen Auerbach博士が管理する国際FA登録では,3,000人以上の患者データを保有している。
キーワード 【新たな乳癌遺伝子】

[2002年10月24,31日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.43,44 p.07)

第61回日本癌学会
癌治療にパラダイムシフト

 近年,癌治療において大きなパラダイムシフトが生じている。東京で開かれた第61回日本癌学会(会長=癌研究会癌研究所・北川知行所長)のシンポジウム「がん治療のパラダイムシフト」(座長=京都大学大学院腫瘍放射線学・平岡眞寛教授,癌研究会附属病院・武藤徹一郎病院長)では,消化器悪性腫瘍に対する非手術的治療法の進歩による治療法の多様化などに関する報告が行われた。

他疾患記載部分は省略しました。

〜トラスツズマブの副作用克服〜
心毒性の予測が重点的検討課題

 都立駒込病院外科の戸井雅和部長は,乳癌細胞表面のHER2受容体に結合して作用するトラスツズマブの有用性と問題点を解説。わが国での臨床試験でも同薬とタキサン系抗癌薬の併用療法で高い奏効率(60%以上)と生存期間の延長( 2 年以上)が認められたことで,HER2陽性再発乳癌における第一選択治療法との認識が高まり,「再発乳癌の治療アルゴリズムを確かに変えた」としながらも,心毒性の予測を重点的検討課題に挙げた。

再発までの期間は1年未満

 戸井部長は「トラスツズマブは安定した薬剤であり,併用療法の可能性を広げている」と指摘。各種抗癌薬との併用で再発リスクの大幅な減少が期待されていることや,現在では術前治療への応用も進められ,タキサン系薬剤との併用で高い完全寛解(CR)率が報告されたことを紹介。「分子標的治療薬の先行モデルと言える同薬は,課題を乗り越えながら着実に臨床導入され,高い発展性を示している」と述べた。
 一方,問題点として,生存延長効果は証明されたものの再発までの期間(TTP)の中央値は 1 年を超えていないこと,初回投与時の20〜30%に悪寒や発熱,関節痛などの有害事象が見られることに言及。また,約 1 割(特にアントラサイクリン系薬剤との併用)で心不全を起こしていると注意を促したうえで,同部長は「臨床的に予測できないこの副作用については,心筋細胞のストレス防御機構の一部と考えられるHER2ホルモンの働きがトラスツズマブによって抑えられることで,アントラサイクリン系薬剤の心筋毒性がより顕著になるのでは」との仮説を紹介。心毒性の予測とモニタリングが今後の重点的検討課題であり,現在進行中の大規模臨床試験(HERA試験)のなかでこの点を追求するトランスレーショナルリサーチが始まっていることを説明した。

〜血管新生阻害薬〜
従来型抗癌薬との併用で効果期待

 腫瘍内の血管内皮細胞の増殖スピードはきわめて早く,血管新生にかかわる分子を標的とした血管新生阻害薬の開発が期待されながらも,臨床での効果は今一つであり,同じく分子標的治療薬であるシグナル伝達阻害薬に先を越された形に甘んじている。徳島大学分子制御内科学の曽根三郎教授は,「腫瘍進展の抑制が本来的な効果である血管新生阻害薬は,腫瘍縮小を図る従来療法との併用で高い成績が得られるだろう」と述べ,治療効果判定に有効なマーカーの確立が課題の 1 つと説明した。

効果判定マーカーの確立が急務

 曽根教授は,欧米で第 I 相または第 II 相試験が進行中の血管新生阻害薬について,(1)癌細胞そのものではなく,腫瘍内の正常な血管内皮細胞が標的であり,理論上は薬剤耐性ができにくい(2)発現効果は遅いが腫瘍進展の抑制に有効(3)長期投与が可能で副作用が少ない(4)化学療法など従来療法との併用で相乗効果が期待できる−などの点を指摘。「基本的には従来の治療法にいくつかの分子標的治療薬を併用した集学的アプローチが必要。従来療法で癌をある程度まで縮小した後,血管新生阻害薬などによって局所コントロールを行うとのアプローチが適しているだろう」と述べ,“seek and destroy”の20世紀型治療戦略から“target and control”の考えに基づく新たな治療指針の策定を目指すべきと提言した。
 一方,同教授は,血管新生阻害薬の 1 つであるヒトVEGF抗体が抗癌薬との併用で進行肺癌患者の再発を遅らせているとの海外データを紹介し,「化学療法との併用で再発までの期間を延長することがかなり確実になってきた」と述べた。また,血管新生阻害薬では微小な癌だけでなく,腫瘍内の大きな血管の内皮細胞にアポトーシスを誘導させて血管構築を妨げ,腫瘍血管の血流遮断をねらうtubulin重合阻害薬についても,単剤で癌が消失した例もあるなど有望視されていることを紹介した。
 また,効果判定のためのバイオマーカーの確立を今後の課題の 1 つに挙げる同教授は,これについても主要組織検査,血清中の血管新生因子(VEGF,bFGF)レベルの測定,末梢血中血管内皮細胞の検出,陽電子放出断層撮影(PET)による腫瘍内血流測定などの検討が進んでいると結んだ。
 総合討論で「血管新生阻害薬はなぜこれまで成功しなかったか」について聞かれた同教授は「治療戦略としては間違いない。血管新生にかかわる多くの分子のなかから最も効果的な標的分子を発見することがかぎとなる。また,単剤使用で効果を出す性質の薬剤ではないことを理解し,至適投与量の確立と効果的な併用療法が発見できれば腫瘍縮小効果も併せて期待できる」と答えた。

cDNAマイクロアレイ解析で 個々人の治療感受性が予測可能に

 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの中村祐輔センター長は,cDNAマイクロアレイ解析によって得られるゲノム情報が癌研究において果たす役割について解説。そのなかで,患者個々人の治療感受性の予測に有用であることを強調し,オーダーメード医療システムの可能性を展望した。

遺伝子発現パターンを解析

 cDNAマイクロアレイはコンピュータのマイクロチップと同様,小さな基盤上に高密度で大量の遺伝子情報を配置し,解析する技術。現在,cDNAマイクロアレイによって遺伝子の多型情報や発現情報を解析する研究が進められている。
 中村センター長によると,cDNAマイクロアレイの技術を用いた癌研究には,(1)癌の発生・進展に関与する遺伝子群の単離(2)癌の個性診断(3)癌関連遺伝子のシグナルネットワーク解析−がある。このうち(1)では,正常細胞と癌細胞,原発部の癌細胞と転移巣の癌細胞の間で発現情報を比較するとともに,30種類の正常組織の発現情報を解析することによって,分子標的候補となりうる遺伝子を選択。診断マーカーや治療薬の開発につなげる。開発が期待される診断マーカーには腫瘍細胞検出マーカーと治療効果予測マーカーが,治療薬には分子標的治療薬,モノクローナル抗体,ペプチドワクチンなどがある。
 一方,上記(2)については,遺伝子発現に基づく癌の分類,抗癌薬や放射線治療に対する感受性予測,癌の予後診断などの可能性が模索されている。このうち治療感受性予測について,同センター長は「癌細胞の性質は,それぞれの細胞で発現している遺伝子の総和と捉えることができる。したがって,cDNAマイクロアレイを用いて多数の癌細胞における遺伝子発現パターンを解析することにより,抗癌薬などの感受性診断につながる知見を得ることができる」と指摘。こうした研究の蓄積によって,ある抗癌薬がその患者に有効かどうかを事前に予測し,個々の患者に最適の治療法を提供するシステムを開発することができるとの展望を示した。


キーワード 【第61回日本癌学会記事 抜粋】

[2002年11月7日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.45 p.33)

癌予防にアジア料理を 野菜中心の低脂肪食が理想的

〔独フュルト〕 低脂肪で,かつ果物と野菜の割合が高い食事により乳癌と前立腺癌リスクが低下するという研究が発表された。ユーロメッドクリニック(フュルト)泌尿器科のThomas Ebert教授らは「アジア料理は癌の予防に特に適しているようだ」とDeutsche Medizinische Wochenschrift(127:1392-1396)に報告した。

予防の3条件を満たす

 Ebert教授によると,アジア人の食事は,栄養学者が癌予防にとって必須と考えている,(1)脂肪分が少ない(2)食事に占める野菜の割合が高い(3)植物性エストロゲンを多く含む−という 3 条件を満たしている。
 脂肪分に関しては,その量だけでなく質も重要である。同教授によると,過体重もしくは肥満患者では,内分泌活性を有する脂肪組織が過剰であるため,エストロゲン値が生理学的に高レベルに達しており,ホルモン依存性の腫瘍(乳癌,前立腺癌)を生じるリスクが上昇しているという。最近行われたメタ分析の結果,脂肪によるカロリー摂取量を総カロリー摂取量の10〜25%に抑えた低脂肪食により,エストロゲン値と乳癌リスクとを有意に抑制できることが確認されている。
 別のメタ分析で動物性脂肪と前立腺癌リスク上昇との関連が示されていることから,不飽和脂肪酸もしくはω6脂肪酸を利用するのも効果的であると考えられる。さらに,ギリシャやスペインで行われた多くの研究では,ω6脂肪酸に富んだ食事(オリーブ油や魚油)がホルモン依存性の悪性腫瘍に対しても予防的に作用することが示されている。

ACSは肉の代わりに豆を推奨

 果物や野菜は抗酸化的作用を有するビタミンやイソフラボン,植物性エストロゲンの働きにより癌を予防する。約 9 万人の女性看護師を対象とした米国のコホート研究「女性看護師保健研究」では,ビタミンAを豊富に含む食品が乳癌リスクを大きく低下させることが確認されており,「フィンランドの喫煙者コホート研究」では,毎日50mgのビタミンEを 6 年間摂取した群で,前立腺癌リスクが34%低下していた。26万5,000人を対象として日本で行われたコホート研究では,緑黄色野菜(カボチャ,ニンジン,ホウレンソウ)を17年間毎日摂取することにより,乳癌,前立腺癌,胃癌,肺癌による死亡率の有意な低下が認められた。さらに,別の 2 件のコホート研究では,豆腐ならびに豆類に含まれるイソフラボンの前立腺癌予防効果が認められ,米国癌学会(ACS)のガイドラインでは肉の代替食として豆を推奨している。

大豆は乳癌リスクを低下

 果物や野菜に含まれる植物性エストロゲンは,エストロゲン受容体に競合的に結合し,SERM(selective estrogen receptor modulator)と似た作用によりホルモン代謝に介入する。シンガポールで行われた620例の女性を対象としたケースコントロール研究では,大豆の摂取量を倍増させたところ,乳癌リスクが半減したという。
 癌を予防するには,上記のような食事のほかに,アルコール摂取を控え,運動することが勧められる。毎日アルコールを26g(ビールでは 1L,ワインでは0.4Lに相当)摂取する女性では乳癌リスクの有意な上昇が確認されているのに対し,週に 1 〜 3 時間の運動を行えば,乳癌リスクは30%,週 4 時間のトレーニングプログラムでは50%低下するというデータが得られている。
キーワード 【乳癌予防 野菜中心の低脂肪食】

[2002年11月28日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.48 p.23)

タモキシフェンとraloxifeneに関する4件の研究を総括
一4件の研究を総括

〔米ノースカロライナ州チャペルヒル〕 ノースカロライナ大学(UNC,チャペルヒル)とリサーチトライアングル研究所(RTI)インターナショナルの共同研究により,米食品医薬品局(FDA)が承認ずみのタモキシフェンと現在承認申請中のraloxifeneの 2 剤が,乳癌罹患率を低下させる可能性があることが示された。UNCラインバーガー総合癌センターの研究員でUNC内科のLinda Kinsinger助教授によると,乳癌罹患リスクが高いと思われる女性は,医師と相談のうえでこれらの薬剤を定期的に予防服用するかどうかを決める必要がある。この研究はAnnals of Internal Medicine(137:59-69)に掲載された。

過去の研究データを調査

 米国予防医療サービス対策委員会のために行われたこの研究では,過去に行われた乳癌に関連するすべての研究結果が調査された。この研究結果の誌上発表と同時に,乳癌リスクを持つ女性は薬剤服用について医師と相談するよう同委員会から勧告が出された。
 Kinsinger助教授は「薬剤による乳癌予防に関するランダム化比較試験の結果を調査したところ,乳癌未罹患女性を対象とした試験が 4 件あり,そのうち 3 件はタモキシフェンを,1 件はraloxifeneを使用していた。また,乳癌予防を目的とする薬物療法のコストに関する研究結果と,このような薬物療法のリスクに関する研究結果も同時に調査した」と述べている。
 米国で行われた最大規模のタモキシフェン研究(被験者 1 万3,000例)では,5 年以内に乳癌に罹患するリスクが平均より高い女性で,ほぼ50%のリスク減少が見られた。しかし,欧州で行われた 2 つの小規模な研究の結果からは,統計学的に有意な効果は見られなかった。欧州の研究で効果の見られなかった理由として,同助教授は「全研究期間中にタモキシフェンを服用していた女性はわずかだったこと,また小規模で短期間の研究だったためではないか」と見ている。

重篤な副作用の危険も

 閉経後の骨粗鬆症患者を対象としたraloxifene研究では,乳癌の相対リスクが76%減少していた。Kinsinger助教授は「この結果はかなり重要なもので,注目に値する。しかし残念なことに,タモキシフェンもraloxifeneも深刻な副作用をもたらすことがあり,治療法を決定する際に患者と医師を悩ませることになるだろう」と述べている。
 両薬剤とも,下肢や肺の塞栓の原因となる静脈血栓塞栓症,顔面潮紅などのリスクを上昇させる。さらに,タモキシフェンは子宮体癌および脳卒中リスクをわずかに上昇させる。同助教授は「どのような女性がどの薬剤を服用すべきか,あるいは服用すべきではないかを明確に指摘できればよいが,そう簡単にはいかない。少なくとも現時点では,医師と相談のうえで服用を決定するように勧めることしかできない」と述べている。
 定期的な服用が勧められるのは,(1)乳癌の家族歴(2)初経が早い(3)初産が遅い(4)未産婦(5)生検を受けた(陰性の結果でも)−などの該当者である。血栓症の既往歴,高血圧,糖尿病は禁忌である。
キーワード 【タモキシフェン raloxifene 研究】

[2002年12月12日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.50 p.02)

乳房切除後の放射線治療に局所再発抑制効果

〔米ルイジアナ州ニューオーリンズ〕 テキサス大学MDアンダーソン癌センター(テキサス州ヒューストン)放射線腫瘍科のWendy Woodward博士は,5件の前向き研究データ(1,800例)の分析から,乳房切除後の放射線照射で,あらゆる結節カテゴリーにおける孤立性の局所再発が減少することを認め,その分析結果を米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)の年次集会で発表した。

効果的な患者が存在

 Woodward博士らは,中央値10年間のフォローアップから,乳房切除術後に放射線照射を受けた患者469例と非照射患者1,030例を比較した。
その結果,リンパ節の20%以上に悪性腫瘍が転移した患者の孤立性局所再発率は,照射患者では11%で,非照射患者の27%より低かった。
 一方,悪性腫瘍の転移がリンパ節の20%未満であった患者の再発率は,非照射群が4.2%,照射群が12%。辺縁部または切除断端が陽性の患者の局所再発率は,それぞれ45%,13.3%であった。
 同博士は「この分析から,乳房切除後の放射線照射が効果的な患者が存在することは明らかである」と指摘。「前向き研究に基づきリンパ節の20%以上に癌が転移した患者と辺縁部または断端陽性患者は,術後の放射線治療により再発の可能性を有意に減少させることができる」と述べた。
 さらに,同博士は「今後,陽性リンパ節の割合がさらに少ない患者についても,術後の放射線照射が局所再発率を下げるかどうかを確かめる必要がある」と付け加えた。

高齢女性では妊娠歴が影響

 初産時の年齢が30歳未満だった女性では,乳癌リスクが低いことが以前から知られていた。また,フォックスチェイス癌センター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のPenny Anderson博士が行った新しい研究で,早期乳癌の高齢女性は,出産歴がある人のほうがない人よりも予後が良いことが示された。同博士は I 期またはII期の乳癌患者(60歳以上)で温存手術および放射線治療を受けた患者でも,妊娠歴の有無が生存率に有意な差をもたらすことを同集会で報告した。
 1979〜96年に早期乳癌の治療を受けた高齢患者1,358例を対象にした研究では,10年間の全生存率は妊娠歴がない患者では76%であったが,妊娠歴がある患者では92%であった。一方,遠隔転移率は妊娠歴のない患者が18%,ある患者が13%であった。
 これらの知見は治療計画に影響を与えるもので,同博士は「今回の結果から,60歳以上の早期乳癌患者で妊娠歴がない患者に対しては,積極的な治療アプローチが支持される。このような患者には,補助的全身療法を強く考慮すべきである」と述べた。
キーワード  【乳房切除後 放射線治療 局所再発抑制効果】

[2002年12月12日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.50 p.02)

1cm以下の乳癌にも放射線療法を

〔米ペンシルベニア州ピッツバーグ〕 全米外科的アジュバント乳房・腸プロジェクト(ピッツバーグ)のBernard Fisher博士らは,直径 1 cm以下の乳癌に対する放射線療法の効果について,「単独療法でもタモキシフェンとの併用でも,患側乳房および対側乳房における再発を有意に低下させることが示された」とJournal of Clinical Oncology(20:4141-4149)に発表した。

ER陽性患者でも効果的

 Fisher博士らは,直径 1 cm以下の乳腺腫瘤摘出術を受けた女性1,009例を,(1)放射線療法+タモキシフェン群(2)放射線療法+プラセボ群(3)タモキシフェン単独投与群−のいずれかにランダムに割り付け,8 年間の経過観察を行った。
 その結果,手術を受けた側の乳房における再発率は,(1)群では2.8%,(2)群では9.3%,(3)群では16.5%であった。タモキシフェンとの併用の有無にかかわらず,放射線療法群では対側乳房における再発率も低下していた。
 同博士は「今回の研究結果は,1 cm以下の乳癌に対して放射線療法を実施すれば再発予防効果が見込めることを示唆している。スクリーニング方法の改良とともに,より多くの癌が早期に発見されるようになりつつあることから,今回の知見は非常に重要である」と述べている。
 さらに今回の研究から,エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌患者の再発率は,(1)群で 2 %,(2)群では6.9%で,タモキシフェンとの併用がより効果的であることも示された。
 同博士らは「今回の知見により,小さな乳癌に対する放射線療法の必要性やタモキシフェン単独療法の是非についての議論に決着が付きそうだ」と期待を寄せている。
キーワード 【1cm以下の乳癌にも放射線療法】

[2002年12月19日]
(Medical Tribune VOL.35 NO.51 p.02)

子供の数と授乳期間が乳癌に関与
授乳期間1年で4.3%のリスク低下

〔ロンドン〕 オックスフォード大学(オックスフォード)疫学グループ のValerie Beral教授らは,出産した子供の数と授乳期間が乳癌リスクの重要因子であるという調査結果をLancet(360:187-195)に発表した。それによると,先進国の女性は強い乳癌家族歴があっても,授乳期間を 1 年延ばすごとに乳癌発症リスクを4.3%低下できる。

1子増えるごとにリスク7%低下

 今回の検討には世界各国から研究者200人が参加し,合計15万例の女性を対象とした47件の研究を検討した。蓄積されたデ−タの分析は同大学疫学グループが行った。
 妊娠・出産と乳癌の関連説は,イタリアの研究者らが乳癌発症率が修道女で比較的高いのは,子供を産まないことが原因だとし,乳癌を修道女の職業病と呼んだ1743年にさかのぼる。
 乳癌発症率は19世紀末に上昇し始め,20世紀半ばまでには,出産児数が乳癌のリスク要因であるという説が確立された。1970年の調査では,第 1 子出産時の年齢が非常に重要な要因であることが明らかになったが,出産児数と授乳期間はいずれも要因とはされなかった。

 以来,ほぼすべての乳癌調査が第 1 子出産時の年齢についての知見を追認してきたが,子供の数と授乳が乳癌に及ぼす影響については議論が分かれている。とりわけ,授乳の役割については混乱が続いている。個個の調査の規模が小さすぎて答を出すに至っていないためである。
 Beral教授らは,子供が 1 人だけで授乳経験のない女性約 2 万例を対象に,授乳経験はないが 2 人以上の子供を持つ女性との比較を行った。その結果,乳癌リスクは子供を多く産むほど減少し,授乳経験がなくても子供が 1 人増えるごとに 7 %低下した。一方,授乳経験がある女性を含めた検討からは,乳癌リスクは子供の数にかかわらず,授乳期間が 1 年増えるごとに4.3%低下した。このリスク低下の程度は人種,飲酒習慣,閉経年齢にかかわらず,全女性で同等だった。

 先進国の女性は平均 2 〜 3 人の子供を産み,それぞれ 2 〜 3 か月間しか授乳しない。1 世紀前,欧州の女性は 6 〜 7 人の子供を産み,それぞれ 2 年間授乳していた。今でも多くの途上国ではそれが当たり前である。現在,女性が70歳までに乳癌を発症するリスクは,先進国が6.3%に対して途上国では2.7%。これは,途上国の女性の初産年齢が一般に18〜19歳と,先進国の女性の23〜24歳に比べて早いことが一因と考えられる。先進国の女性が 6 〜 7 人の子供を産めば,乳癌リスクは6.3%から4.7%に減少することも,今回の調査で明らかになった。
キーワード 【子の数 授乳期間 乳癌】








[スクラップ項目に戻る]

2002-07〜2002-12記事