2001-05〜2001-12記事

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00(Medical Tribuneなどの記事)【はじめに】
今まで一般公開されていたMedical Tribune「週間医学雑誌記事」が2000年9月28日から
ID+パスワードが必要になってしまいました。情報公開の時代に残念な出来事でなりません。
そこで乳癌に関連したニュース(一般雑誌より参考になり得る情報)をここにセレクトし
転記します。転載した責任の所在は吉利です。Medical Tribune誌関連の方、もし転載に
問題がございましたら、webmaster@prodr.com(吉利)までメールをお願いします。

[2001年5月24,31日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.21,22 p.29)【FDA letrozoleを承認】

FDA 乳癌の第一選択薬として
FemaraR(letrozole)を承認

〔ニューヨーク〕 Novartis Oncology社は「米食品医薬品局(FDA)が,ホルモン受容体陽性ないしはホルモン受容体不明で局所進行乳癌あるいは転移性乳癌の閉経後女性患者に対する第一選択薬としてFemaraR(letrozole錠)を承認した」と発表した。進行乳癌を生じた閉経後女性の大部分は,こうした腫瘍受容体のカテゴリーに含まれる。

タモキシフェンより有効

 FDAによる優先審査および抗腫瘍薬諮問委員会の全員一致の勧告を受け,新しい適応に対して承認された。同諮問委員会の勧告は,閉経後の進行乳癌患者に対するホルモン療法の評価を目的としたこれまでで最大規模の単独治験のデータに基づくものであった。この治験では,FemaraRは複数の有効性エンドポイントにおいてタモキシフェン(TAM)より有効であることが示された。TAMはこれまで,乳癌に対する標準治療薬とされていた。
 この治験の筆頭研究者であるサウスカロライナ腫瘍学会のRobert Smith博士は,「FemaraRは閉経後の進行乳癌患者に対する新たな第一選択薬としてきわめて有望だ。同薬は,腫瘍進行までの時間,応答率,全般的な臨床的有用性などの複数のエンドポイントにおいて,TAMをしのぐ最初の治療薬である」と述べている。
 FDAの承認の基盤となった第III相治験は,局所的な進行癌(IIIB期),転移性乳癌,外科手術や放射線療法が不能な再発癌などを生じた閉経後女性900例以上を対象としたランダム化二重盲検多施設試験で,FemaraRとTAMの効果が比較された。

腫瘍の進行を大幅に遅延

 この治験では,FemaraRが進行乳癌を9.4か月遅延させたのに対し,TAMでは6.0か月の遅延にとどまっていた。FemaraRとTAMの成績を比較すると,全体的な腫瘍応答率(30%対20%),臨床的有用性(49%対38%),治療効果が消失するまでの期間(9.1か月対5.7か月/40週対25週)といずれもFemaraR群の成績が上回っており,有意差が認められた。FemaraRとTAMの耐容性は同等で,ともに優れていた。
 また,大きな局所的乳癌あるいは局所的進行乳癌を有する閉経後女性324例を対象とした第III相ランダム化比較試験では,乳房温存術の前に腫瘍サイズを縮小させる術前治療としてFemaraRあるいはTAMの投与が行われた。その結果,4 か月後の臨床応答は,FemaraR群のほうがTAM群より有意に優れていた(55%対36%)ことが判明。この結果も今回のFDAの決定を支持するものであった。
 同社のDavid Epstein社長は「進行乳癌に苦しむ世界中の閉経後女性患者にFemaraRを第一選択ホルモン療法薬として提供できるようになることを期待している」とコメントしている。

アロマターゼを阻害して効果を発揮

 FemaraRはアロマターゼ阻害薬で,1997年に抗エストロゲン療法後に閉経後の進行乳癌が悪化した患者に対する 1 日 1 回投与の承認を受けた経口治療薬である。2000年 7 月に同社は,進行乳癌に対する第一選択薬として追加申請(sNDA)を行い,同年の 8 月に,このsNDAはFDAの優先審査指定を受けた。
 閉経後女性におけるエストロゲンのおもな供給源は,脂肪,肝臓,筋,乳房組織であり,アロマターゼ酵素が副腎アンドロゲンをエストロゲンに変換させる。エストロゲンはある種のホルモン依存性癌細胞の成長を刺激する。また,乳癌自体もエストロゲンを産生することがある。FemaraRは,これら組織中のアロマターゼ酵素と結合し,同酵素が副腎アンドロゲンをエストロゲンに変換するのを阻害することで効果を発揮する。
 現在,FemaraRは,抗エストロゲン療法後に悪化した閉経後の進行乳癌患者に対する治療薬として,世界75か国以上で利用されている。また,第一選択薬としての適応を求める申請は世界中で行われており,アジュバントとしての使用に関しても研究が行われている。
 米国では12万人以上の女性が進行乳癌に罹患しており,女性の癌による死亡の第 2 位を占めている。毎年新たに乳癌と診断される約18万2,000例の約半数は,診断時点で既に進行期である。
 FemaraRは,同薬あるいはその賦形剤に対する過敏症を認める患者には禁忌である。一般的にFemaraィは耐容性に優れている。今回の治験で認められた副作用は,概して軽度〜中等度であり,第二選択薬としての治験で観察された結果と一致していた。
 FemaraRとTAMで副作用の出現頻度を比較すると,骨痛(20%対18%),のぼせ(18%対15%),背部痛(17%対17%),悪心(15%対16%),息切れないしは呼吸困難(14%対15%),関節痛(14%対13%),疲労感(11%対11%),咳(11%対10%)であった。
キーワード 【FDA letrozoleを承認】

[2001年7月12日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.28 p.18)【乳房インプラント】

乳房インプラントの癌リスク説に疑問

〔米イリノイ州アーリントンハイツ〕 Dow Corning社(ミシガン州ミッドランド)のSusan J. Hoshaw博士らは,乳房インプラントは一貫して癌リスクを増加させないとする研究を,米国形成外科学会(ASPS)の学会誌Plastic and Reconstructive Surgery(107:1393-1407)に発表した。

3つのリスクを再検討

 筆頭執筆者であるHoshaw博士らは,癌リスク(乳癌および他の癌),乳癌発見の遅延リスク,乳癌再発の増加リスクという 3 つの分野に関する科学論文を再検討した。
 同博士は「世界中の研究から,これらの懸念は不当であることが示唆される。乳房インプラントに関する文献には,同インプラントと発癌に因果関係が認められないことを支持するエビデンスが数多くある。米国医学研究所(IOM,ワシントンD.C.)は,乳房インプラントの安全性に関して広範囲の文献再検討を行った後,2000年 5 月に『エビデンスから,シリコン製乳房インプラントは乳癌の原因とはならない。実際,乳房インプラントを有する女性のほうが癌の発生・再発が少ないことを示した研究もある』という結論を出した」と述べた。
 同誌の論文「乳房インプラントと癌:因果関係,検出の遅延,生存」は,乳房インプラントと癌との関連を見出したとする研究と同月に発表された。関連性を主張する研究は,これまでに報告された科学論文すべてを否定するもので,Epidemiology and Annals of Epidemiologyの 5 月号に掲載された。
 ASPSのWalter Erhardt会長は「これまで得られた科学的証拠から,乳房インプラントはいかなる種類の癌とも関連がないことが明示されている。ある研究の知見について騒ぎたてることはデータを不正確に伝えることにもなり,患者や一般大衆に対して損害を与える」とコメントした。
 米国立癌研究所(NCI)の科学諮問委員会は,この疫学研究を再検討している。NCI委員およびASPS会員でノースウエスタン大学(シカゴ)のThomas Mustoe主任教授は「疫学研究で見出された癌の増加は,実際にはインプラントと関連しているのではなく,偶然による可能性が高い」と述べた。
キーワード 【米国形成外科学会乳房インプラント情報】

[2001年7月12日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.28 p.31)【低侵襲乳癌手術の進歩の記事】

乳癌 低侵襲手術で肉体的精神的苦痛を軽減

〔ニューヨーク〕 低侵襲乳癌手術の進歩によって,患者の肉体的精神的苦痛が軽減されるようになった。コーネル大学Weill医療センターニューヨーク病院乳腺センター副所長,Strangコーネル乳腺センター副部長で,コーネル大学Weill医科大学外科のRache Simmons助教授は,臨床研究の段階にある 2 つの新しい治療法を,当地で開かれた低侵襲外科手技に関する学会で発表した。

ラジオ波の熱で腫瘍を破壊

 Simmons助教授が報告したラジオ波間質組織切除法(RITA)と呼ばれる方法は,爪楊枝のような形をしたプローブを穿刺して直接,腫瘍に到達させる。既に転移性肝癌の治療に用いられているが,乳癌治療については米食品医薬品局(FDA)から暫定認可されており,最終承認待ちの段階にある。同法は,腫瘤が直径 2 cm以下で乳腺中央部に局在し,超音波検査で観察可能な乳房温存術適応症例が対象となる。
 超音波画像を見ながら,RITAプローブを局所麻酔をかけた乳房に穿刺する。次に,小型の冠状ワイヤをプローブ先端から出して,傘のように開く。その後,ラジオ波によって発生する熱で腫瘍を破壊する。
 所要時間は約30分。これまでに達成された成果から,大規模ランダム化試験によるRITAと乳房温存術あるいは乳房切除術のみの比較検討試験が,間もなくFDAによって認められる見込み。
 同助教授によると,この新しい侵襲度の低い術式は“きわめて期待できる手技”であり,これまでの術式と同等の安全性と有効性を持ち合わせていることが立証されるはずである。同助教授は「現在,RITAが置かれている状況は,あたかも15年前に乳房温存術か乳房切除かの選択を迫られたときに類似している。RITAも,乳房温存術が受け入れられたのと同様に,広く認められるようになるに違いない」と見ている。

皮膚温存で再建が容易に

 Simmons助教授は,乳輪温存乳房切除術も同時に発表した。乳房を失うことによる外見の問題を解決する手段として考えられた方法である。
 乳癌によって乳房を失うことは肉体的にも精神的に大きなダメージとなる。乳輪温存乳房切除術は,この 5 年間にいわゆる「皮膚温存乳房切除術」として進歩してきた方法に基づくものである。この術式では乳房再建術に利用するために乳房皮膚を温存する。これまでの術式では,乳房組織,乳頭,乳輪のすべてと一部のリンパ節を切除した。切開は胸骨から腋窩にまで達し,瘢痕は約15〜25cmに及ぶ。
 皮膚温存法では,このような楕円形の切開は用いず,乳頭と乳輪を取り除くだけで,その後,内部の乳房組織を切除する。乳癌に侵されているのは乳房組織であって,その周囲の皮膚に影響はない。
 皮膚を温存することで,形成外科医が乳房再建を容易に行うことができる。従来の手技に比べて瘢痕が少なくなることは,患者にとって特に重要である。この術式における癌の再発率は,従来の乳房切除術に比べて高くはない。
 新しい術式に関し,同助教授は,乳輪を乳頭とともに切除する必要性を疑問視し,「レトロスペクティブに調査したところ,200例の患者のうち乳頭に癌が浸潤している例は 6 〜 7 %である。確かに,乳頭を切除するに十分な数字かもしれないが,乳輪については 1 %に浸潤が見られたのみで,しかも特定の組織型に限られていた」との考えを述べた。
 同助教授が試験的な乳輪温存乳房切除術を行う際には,乳頭を切除した後,2 つの曲線状の切開を乳頭から外側に向けて乳輪に入れる。この方法によって,乳房組織は切除されても乳輪は保存されるために乳房の再建が容易になる。
 これはRITAと同じく,小さな乳癌に適した術式である。非浸潤性乳管癌の外科手術を受ける患者や,予防的乳房切除を受ける患者の場合,切除すべき乳頭の周りに小切開を加えるだけである。再建術後,外見からは手術を受けたことはわからない。いずれの術式も「乳癌との戦いにおける意義ある一歩である」と同助教授は述べた。
キーワード 【低侵襲乳癌手術の進歩】

[2001年7月12日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.28 p.30)【八木田教授・新免疫療法 2001-07話題】

今週の話題 進行・末期癌に
効果的な“新免疫療法”を開発

免疫賦活薬と健康食品を組み合わせる

 手術療法,薬物療法,放射線療法を主要な治療手段とする癌領域において,免疫療法も重要な治療法の1つとして位置付けられつつある。近畿大学腫瘍免疫等研究所の八木田旭邦教授は,免疫賦活薬といわゆる健康食品を組み合わせた“新免疫療法”により,進行・末期癌を中心とする8,000例の癌患者で,癌の縮小,消失さらに予防効果を得ている。新免疫療法について同教授に聞いた。

自然界に存在する物質を利用

 八木田教授らの新免疫療法は,キノコ菌糸体培養抽出物であるインターロイキン(IL)-XおよびIL-Yを中心に,カワラタケ菌糸体培養抽出物のクレスチン,スエヒロタケ菌糸体培養抽出物のシゾフィラン,溶連菌製剤のピシバニール,サメ軟骨,オリゴ糖などを組み合わせたもので,基本的に経口投与する。
 新療法を開発するまでは,やはりキノコ菌糸体であるAHCC(Active Hexose Correlated Compound)を用いていた。同教授らは1993年,AHCCに腫瘍壊死因子(TNF)αやインターフェロン(IFN)γの産生増強作用があり,進行末期癌患者において高い抗腫瘍効果を発揮することを確認。さらに96年,AHCC有効例ではAHCCにより末梢血マクロファージから内因性のIL-12が誘導されることを突き止めた。2000年,AHCCよりも内因性IL-12誘導作用が強力で,しかも長期間持続するIL-Xが,同教授により開発された。これは,シイタケ菌糸体培養抽出物,スエヒロタケ菌糸体培養抽出物,マンネンタケ菌糸体培養抽出物である霊芝から成る混合物である。また同年,クレスチンと同等もしくはそれ以上の活性を示すキノコ菌糸体培養抽出物IL-Yも開発した。89年にナチュラルキラー(NK)細胞の増強・活性化やIFNcの活性化を促すサイトカインとしてIL-12が発見されて以来,米国では夢の癌治療薬として,遺伝子工学によるリコンビナントIL-12の大量生産が行われた。しかし,動物実験では優れた抗癌作用を発揮するものの,臨床では作用が弱いために100万pg/mLもの大量投与が行われた。その結果,強い副作用を招き,新薬としての開発は中断された。
 同教授は「われわれが開発したIL-XおよびIL-Yの最大のメリットは,もともと体内にあるIL-12を誘導することで,自身の免疫能を賦活することである。そのため,IL-12は20pg/mL程度の誘導で抗腫瘍効果を発揮することができ,しかも副作用は少ない」と話す。

3つの作用機序で効果発現

 新免疫療法の抗腫瘍作用は,エフェクター細胞としてキラーT細胞の活性化とNKT細胞の活性化,新生血管抑制という 3 つの柱から成る。

●キノコ菌糸体抽出物によるキラーT細胞の活性化  新免疫療法によるキラーT細胞の活性化機序は次の通りである。
 IL-X,IL-Yまたクレスチンといったキノコ菌糸体の糖鎖であるβ1,3 糖はマクロファージからのTNFα,IFNγおよびIL-12の産生を亢進し,Th1サイトカインカスケードであるTNFα→IFNγ→IL-12といった免疫システムを介し,誘導されたIL-12がキラーT細胞を活性化する。ヒトは遺伝的に約 8 割がTh1優位,約 2 割がTh2優位であると言われていることから,Th1優位のヒトでは早期癌であれば,IL-XによりTh1サイトカインカスケードを介してIL-12を誘導し,キラーT細胞を活性化,細胞障害性を示す蛋白成分パーフォリンを産生して癌細胞膜に穴を開け,癌細胞をアポトーシスに導くことができる。しかし,進行・末期癌になると免疫抑制が強く,Th1優位のヒトもTh2優位に傾くため,IL-XだけではIL-12の誘導は困難となる。そこで,Th2環境下でつくられる免疫抑制産生蛋白IAPやTGFβなどの免疫抑制物質,IL-4,10といった免疫抑制因子の産生に歯止めをかけ,Th2からTh1優位の状態に転換させることができるクレスチンとIL-Yを併用し,キラーT細胞の活性化を促す(図 1 上)。

●キノコ菌糸体抽出物によるNKT細胞の活性化

 NKT細胞はT細胞の抗原受容体であるT細胞受容体(TCR)Vα24Vβ11とNK細胞のマーカーであるNKR-P1A(CD161)分子を併せ持つ第 4 のリンパ球として注目されている。
 このNKR-P1A,すなわちNK細胞受容体を調べるため,新免疫療法の有効例を対象に,CD161,NK細胞の表面マーカーCD56およびT細胞の表面マーカーCD3を用いて,CD161と最も高い相関を示す表面マーカーを調べた結果,CD3×CD161であることがわかった。さらに,NKR-P1AはIL-12,IFNγと強く相関し,逆にTCRはIL-12,IFNγと強い逆相関を示し,また,TCRとNKR-P1Aも強い逆相関を示すことが明らかになった。
 IL-XやIL-Y,クレスチンなどのβ1,3 糖はNK細胞活性化作用が弱いが,オリゴ糖(ニゲロ糖など)の糖鎖α1,3 糖はNK細胞受容体を強力に活性化してIFNγを誘導するとともに,NKT細胞自身もパーフォリンを産生して癌細胞をアポトーシスに導くものと考えられる(図 1 下)。また,キラーT細胞はHLAクラス 1 抗原と癌抗原を提示する早期癌を攻撃し,NKT細胞は癌細胞表面が癌化してHLAクラス 1 抗原が消失する進行した癌細胞を攻撃する。さらに,活性化キラーT細胞は抗癌薬や放射線,ステロイドにより抑制されるが,活性化NKT細胞は抑制を受けないため,他の治療を受けながら新免疫療法による抗腫瘍効果を得ることができるようになった。現在,α1,3 糖を有する新たな物質を研究中という。

●サメ軟骨による新生血管阻害作用

 in vitroの実験系で腫瘍細胞からの新生血管増殖因子である血管内皮増殖因子VEGF産生をサメ軟骨が抑制し,また癌移植マウスを用いた動物実験ではサメ軟骨が新生血管を消失させ,正常血管には影響しなかったことが見出された。さらに,新免疫療法施行患者437例と治療前の初診患者197例を対象に,VEGFの血中濃度を調べた結果,著効例では251.8 pg/mL,不変例では291.0pg/mLと,いずれも治療前の初診例の442.0pg/mL,悪化例の516.8pg/mLに比べ,有意に低かった(表)。
「新生血管阻害薬の一番難しい問題は,正常な血管をも障害してしまうことであるが,サメ軟骨はら旋構造の新生血管のみを阻害するというメリットがある。新生血管阻害薬の研究当初,サメ軟骨など見向きもしなかった物質であったが,なかなか有効な物質を発見できず,33番目に行き着いた物質である」(同教授)。

奏効率は33.3%

 新免疫療法は,IL-XやIL-Y,クレスチンによるキラーT細胞の活性化,オリゴ糖によるNKT細胞の活性化,サメ軟骨による新生血管阻害といった 3 つの異なる作用機序を柱に,キラーT細胞活性化の補助としてシゾフィラン(筋注)やピシバニール(経口)を投与する(図 2 )。
 2000年12月31日までに約8,000例の癌患者に新免疫療法を施行し,免疫能の検査として,Th1/Th2比,NKT細胞の数およびその活性度,CD3/CD161/パーフォリン,IL-12,IFNγ,TNFα,IL-10の測定を実施した。そのうち 3 か月以上治療を継続し,免疫能検査を 2 回以上行うことができた2,365例における治療効果を,日本癌治療学会の診断基準に従って評価すると,著効244例,有効544例,奏効率33.3%であった。また,6 か月以上不変の症例も加えると54.4%に達した(表)。
 八木田教授は「新免疫療法のメリットは,経口投与で,内因性の物質の誘導を図って免疫能を活性化させるため,患者に負担をかけず,QOLの向上が得られ,しかも,50%近くの有効性が得られることである」と強調する。さらに,今後の展開として「癌遺伝子の研究が進んでいるが,免疫の遺伝子はほとんどわかっていないことから,どの免疫遺伝子に原因があるのかを探求し,遺伝子治療につなげたい」と抱負を語った。
キーワード 【ちょっと眉唾ではあるが 記事になった】

[2001年7月12日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.28 p.34)【化学療法とハーセプチンの併用】

化学療法とハーセプチンの併用で転移性乳癌の生存期間が延長

〔サンフランシスコ〕 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(ロサンゼルス)ジョンソン総合癌センター血液学・腫瘍学のDennis J. Slamon博士らは,ヒト表皮増殖因子受容体 2 型(HER2)陽性の転移性乳癌患者を対象とした臨床試験の最終結果に基づく知見を,New England Journal of Medicine(344:783-792)に発表した。HER2陽性転移性乳癌は増殖が早く致死性で,患者の予測生存期間はHER2陰性乳癌患者の約半分であるが,ハーセプチンを化学療法と併用すると,生存期間延長などの効果が得られた。

癌治療新時代の幕開け

 Slamon博士は「ハーセプチンは乳癌治療の転機だ。この研究の結果は,標的を定めた生物学的アプローチが転移性乳癌の重要な新治療法となることを示している」と述べた。
 同誌の論評でクイーンズ大学(カナダ・キングストン)のElizabeth A. Eisenhauer氏は「これらの結果は,HER2陽性転移性乳癌患者の第一選択薬に用いられるハーセプチンと化学療法の併用が生存率の向上に最適な選択であることを裏づけるものだ」と述べた。同氏はSlamon博士らによるハーセプチンの研究を“歴史的研究”と呼び,「現在,標的を絞った治療法の多くが臨床評価の最中であることを考えると,これは癌治療の重要な新時代の幕開けだ」と述べた。
 同研究のsenior authorでもあるスローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク)充実性腫瘍学研究室のLarry Norton室長は「このプロスペクティブランダム化試験の驚くべき結果は,研究室での知見を延命治療に応用する臨床試験の価値を実際に示した」としている。

生存期間が5か月延長

 患者469例を対象とした今回の第III相臨床試験の最終結果では,第一選択薬のハーセプチン週 1 回と標準的な化学療法サイクル〔アントラサイクリンとシクロホスファミド(CPA)あるいはパクリタキセル〕を投与された患者は,化学療法単独の患者と比べて全体的な生存期間の中央値が20.3か月から25.1か月とほぼ 5 か月(24%)延長したことが示された。
 この臨床試験では,ハーセプチンと化学療法を併用した両サブグループにおいてハーセプチンによる効果の増強が認められた。ハーセプチンと化学療法の併用を化学療法単独と比較すると,総体的な奏効率が32%から50%に改善し,疾患進行までの時間(TTP)が4.6か月から7.4か月に,また奏効期間の中央値が6.1か月から9.1か月に延長した。

高齢患者では心機能に注意

 今回の研究では,ハーセプチンに対する患者の耐容性は概して良好であった。最も多く認められた有害事象は発熱,血液毒性,心不全であった。投薬に伴う症状は認められたが,抗体の投与を中止することはなかった。市販後調査では,投薬によりまれに重篤で致死的な事象が発症したが,これらの患者には肺の合併症と進行癌が先在していた。
 最も重篤な有害事象は心不全〔ニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類でクラス I 〜IV〕であり,CPA投与( 8 %)よりも,CPAとハーセプチンの併用投与(27%)で多く発生し,パクリタキセル単独投与( 1 %)よりもパクリタキセルとハーセプチンの併用(13%)のほうが多かった。患者のなかには低率ながらNYHAクラスIII/IVの毒性を生じた例があり,重篤または生命を脅かす恐れがあった。
 しかし,そのうちの75%は症状が改善し,パクリタキセル投与患者で医学的管理に反応しないクラスIII/IVの心不全を生じた例はなかった。多くの患者ではハーセプチンを継続使用しても心不全の悪化は認められなかった。この有害事象に関する唯一の有意なリスクファクターは高齢であった。
 ハーセプチンはHER2陽性転移性乳癌に対して,パクリタキセルとの併用による第一選択,または単独で第二あるいは第三選択とする方法が米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。ハーセプチンとCPAとの併用は承認されていない。
 Slamon博士は「ハーセプチンを使用する場合,心臓に対する安全性が重要だ。しかし,HER2陽性乳癌患者の予後は不良で,現在の治療法では本質的には治癒不能であることから,適応範囲内でのハーセプチン療法によって有意な臨床的恩恵が得られる可能性と心不全のリスクのどちらが大きいかを考えなくてはならない」と述べた。

新規患者でも試験を計画

  4 件の第III相ランダム化臨床試験で早期乳癌に対するアジュバント療法としてのハーセプチンを評価するため,全世界800施設で 1 万例以上の患者を登録する計画が進行中である。Norton室長は「次の段階は,乳癌と新たに診断された異常量のHER2を発現している患者に,ハーセプチンの有益性が認められるかどうかを明らかにすることだ。これは現在進行中,あるいは計画段階の臨床試験の重要な目的だ」と述べた。
 Genentech社はFDAに追加生物学的製剤許可申請(sBLA)を提出しており,ハーセプチンの添付文書に総体的な生存期間の中央値を追加する方針。
 同社の開発と製品計画を担当するSusan D. Hellmann副社長は「中核的試験の最終結果がピアレビュー誌に掲載されたことはハーセプチンの重要な一里塚だ。転移性乳癌に対する有効性を示す治療法はごくわずかで,ハーセプチンはその 1 つだ。今回の結果は,乳癌患者とその担当医がHER2による疾患の攻撃的な性質を理解することの重要性をいっそう強調するものだ」と述べた。
 米国癌学会(ACS)によると,米国では約160万人が乳癌と診断されており,毎年18万人増加している。Genentech社では,約16万4,000人が転移性乳癌と推定している。
 ハーセプチンは,HER2陽性転移性乳癌への適応が1998年 9 月にFDAから承認されている。HER2遺伝子の遺伝子変異は腫瘍細胞表面の増殖因子受容体蛋白質量を増加させるが,HER2陽性患者にハーセプチンを投与するとこの増加は抑制される。乳癌患者におけるルーチンの腫瘍マーカー検査は,HER2陽性患者とハーセプチンによって恩恵が得られる可能性のある患者を同定するために重要である。ハーセプチンは米国ではGenentech社から,その他の国ではRoche社から販売されている。
キーワード 【化学療法とハーセプチンの併用】

[2001年7月26日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.30 p.23)【ドイツ癌研究センター・ビールは癌の予防に】

ビールは癌の予防に役立つ

〔ニューヨーク〕 ドイツ癌研究センター(独ハイデルベルク)中毒学および癌リスクファクター部門のClarissa Gerhauser博士は,ビール中のフェノールの抗酸化作用についての最初の研究により,中等量のビールが癌の予防に役立つ可能性があると本紙に語った。

成分に高い抗酸化作用

 Gerhauser博士は「検討対象となったビール中の化合物はきわめて高い抗酸化作用を示し,特に脂質の過酸化過程に関与するヒドロキシルラジカルに対する活性が高い」と述べた。
 同博士は「ビールからは700種以上の低分子量化合物が同定されており,文献で発表されている。それにもかかわらず,ビール関連飲料が癌の予防に適用できる可能性の根拠として,生理学的関連性のある反応性酸素分子種(ROS)を用いたビールの成分の抗酸化能についての詳細な研究は,これまでのところ行われていない」と指摘した。
 ビールは,過剰に飲まなければ,健康上ある程度有益な作用を示す可能性があることは既に報告されている。これまでの研究から,心疾患に関してはビールにある程度の効果があることが示されており,Journal of Agriculture and Food Chemistryの1999年 1 月号に発表された日本の研究では,ビールはヒトでの発癌の原因ではないかと疑われている複素環式アミンの作用を阻害する傾向があることが見出されている。さらに,オレゴン州立大学(オレゴン州コーバリス)のDonald Buhler博士は1988年に,ビールの芳香成分および保存料として使用されているホップには,癌細胞に対して毒性を示すフラボノイドが含有されていると報告した。
 また,Gerhauser博士は「これまでの研究から,ビールは変異原性物質や複数の発癌性物質により誘発されるDNA付加物の形成を阻害する可能性があることが示されている」と述べた。

桂皮酸が作用の中心か

 Gerhauser博士らは,発癌予防の可能性について未検討の領域にまで広げて,ビールの組成と生物学的活性および安定化の過程でビールから除去されるポリフェノールに富む残留物についての研究を行っている。
 抽出液および50種類以上の一連の精製化合物について,反応性の1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH)フリーラジカルに対するスカベンジャー活性を検討した。さらに,ニトロブルーテトラゾリウムの還元により,化学的または酵素的に生じたスーパーオキシドアニオンラジカルに対するスカベンジャー活性の検出も試みた。
 分化型前骨髄球性白血病細胞での組織プラスミノゲン・アクチベータ誘発性スーパーオキシドラジカルの形成に対するこれらの化合物の阻害作用については,別の試験を行った。これは,チトクロームcの還元により分析され,ペルオキシルラジカルおよびヒドロキシルラジカルに対するスカベンジャー活性については,酸素ラジカル吸収能測定法(ORAC)により測定した。
 同博士は「検討対象となったビールのポリフェノール成分は,主として安息香酸および桂皮酸誘導体,アセトフェノン,フラボノイドならびにカテキンの 5 種類の構造の化合物に属している」と述べた。さらに,4-OH置換基と3-OH3置換基を有する桂皮酸誘導体は,いずれも強力なDPPHスカベンジャーであった。プロトカテク酸,没食子酸およびシリンギ酸も活性な安息香酸誘導体であった。
 同博士らはこれらの予備的な結果を用いて,化学的に生じたスーパーオキシド陰イオンラジカルに対して100μM以上の濃度でスカベンジャー作用を示すフラボノイドおよびカテキンを用いて,ROSの電位についての研究を行うことにした。マイクロプレート法を改良して検証したORAC測定では,検討対象となった化合物がすべて,ヒドロキシルラジカルに対して高い潜在的なスカベンジャー活性を示したが,ペルオキシルラジカルに対するスカベンジャー活性は全般的に低かった。しかし,ヒドロキシルラジカルは,脂質過酸化過程では最も反応性が高かった。

今後の研究が必要

 Gerhauser博士は「これらのデータは刺激的なものであるが,これらのフェノール性化合物は一般的に生物学的利用性が低いため,今回の所見をヒトでの状況に直接移し変えることはできない。そのため,ヒトではビールの飲む量によって相違が生ずるか否かは不明である」と述べ,「しかし,ヒトに対する作用および飲用量による影響については,今後研究する必要がある」と付け加えた。
 ワインとの比較について,同博士は「直接的な比較は行われていない。しかし,安息香酸,桂皮酸,カテキンおよびフラボノイドなどワインに含まれる多くの化合物はビールにも含まれる。しかし,ビールにはワインの赤色成分であるアントシアニジンは含まれていない」と述べた。
 さらに,同博士は「ビール中に含まれる癌の予防に役立つ可能性があるこれらの強力な抗酸化物質について,何を医師が患者に告げるべきかは,まだ結論が出ていない。いずれにしても,ビールにはアルコールが含まれているため,その潜在的な有害作用についても考慮する必要がある」と述べた。
キーワード 【ビール中のフェノールの抗酸化作用】

[2001年8月16日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.33 p.02)【喫煙と乳癌の肺転移記事】

喫煙乳癌患者で大きい肺転移リスク

〔米イリノイ州ノースブルック〕 カリフォルニア大学デービス校医療センター(カリフォルニア州サクラメント)のSusan Murin,John Inciardiの両博士らは,乳癌女性における肺転移と喫煙の関係を検討し,喫煙者で致死性の乳癌発症率が高いことを示した新しい研究をChest(119:1635-1640)に報告した。

喫煙が乳癌の経過に影響

 Murin博士らは肺転移を認めた片側浸潤性乳癌患者87例と対照群として肺転移のない乳癌患者174例を比較検討した。対照群は可能な限り,転移群と診断時年齢,診断時期,原発腫瘍の大きさ,陽性リンパ節数を一致させた。
 肺は乳癌から転移する好発部位であること,また喫煙が肺にさまざまな変化をもたらすことから,同博士らは,喫煙によって乳癌の肺転移の頻度が増加し乳癌の経過に影響を与える可能性があるという仮説を立てた。
 乳癌から他臓器への転移が客観的に確認された患者の数は,対照群に比べ,肺転移群で高かった(31%対72.4%)。喫煙歴があるのは肺転移群が38%,対照群は29%,乳癌診断時に喫煙していたのは肺転移群が24.1%で,対照群が15.3%であった。肺転移の喫煙乳癌女性と非転移の喫煙乳癌女性の調整前オッズ比は1.76であった。
 肺転移群でホルモン療法を受けている患者の割合は対照群(42.8%)に比べ肺転移群(23.2%)で有意に低かった。ホルモン療法やその他の変動因子を考慮すると,肺転移乳癌女性の最終分析オッズ比は1.96であった。

喫煙は肺転移に有利な環境つくる

 Murin博士は「この研究は乳癌女性における喫煙と肺転移の関係を示すもの。乳癌を転移性疾患へと進展させる喫煙の影響は,喫煙乳癌女性に致死的乳癌の発生率が高いことを示す興味深い説明であり,また,生物学的にも説得力がある。肺の傷害は肺転移の発生率を上昇させること,喫煙が肺の傷害の原因となること,喫煙により影響を受けた炎症性変化は肺疾患の経過を変化させることが事実とすると,喫煙は肺転移に有利な環境をつくっている可能性がある」と述べた。
 同誌の論評で,スタンフォード大学医療センター(カリフォルニア州スタンフォード)のGlen Lillington,David Sachsの両博士は「この研究が別の研究で確認されれば,乳癌診断時に喫煙している女性には,喫煙習慣に対する効果的な治療を施すことが望ましいことが示される。禁煙を開始しても,逆戻りする確率は禁煙開始から12か月以内が最も大きいため,禁煙開始から12か月以内の女性は注意してモニターする必要がある」としている。
 両博士は多くの禁煙作用物質は安全で効果的であることに言及したうえで,「乳癌患者を積極的に禁煙させる治療はおそらく喫煙乳癌患者の標準的治療になるであろう」と述べた。
キーワード 【喫煙と乳癌患者】

[2001年8月23,30日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.34,35 p.37)

膿瘍性乳腺炎の影に潜む癌
X線検査と超音波検査の併用を

〔独ウィースバーデン〕 膿瘍性の非産褥性乳腺炎の臨床像の背後には,検査のための切除でも明らかにならない乳癌が潜んでいる恐れがある。したがって,急性症状が消えた後も炎症が持続しているケースでは,乳房X線撮影と乳房超音波検査の実施が不可欠である。Dr.-Horst-Schmidt病院(ウィースバーデン)婦人科のKarsten Gnauert博士は,自らが体験したきわめて印象的な症例について報告を寄せている。

典型的な膿瘍性乳腺炎の病像

 左乳房に膿瘍性の非産褥性乳腺炎を認める46歳の女性患者は,開業医による抗菌薬投与のかいもなく炎症が進行したため,膿瘍切除のために同病院を受診した。昨年 5 月の入院検査では,皮膚発赤,浮腫,熱感を伴っており,自然排膿に至る直前の乳房膿瘍に見られる典型的な病像と考えられた。腺実質は硬く圧痛を認めたが,大まかな乳房診では疑わしい抵抗は触れず,リンパ液排出路の異常も触診では認められなかった。超音波検査では,32mm大の膿瘍腔と不安定な周囲組織が描出された。患者が疼痛を訴えていたため,乳房X線撮影は実施できなかった。
 皮切による当該部の膿瘍切除を行うと同時に,術創を利用した検査のための切除を実施した。組織検査所見は腺組織,脂肪組織ともに正常で,悪性を示唆するものではなかった。過酸化水素水による術創の洗浄を毎日行い,抗菌薬flucloxacillinを投与した結果,炎症は消退し,患者は術後 5 日目に退院することができた。同年 8 月に再び膿瘍化が始まったため,別の病院で膿瘍切除の治療を受けた。このときにも検査のための切除が行われたが,悪性を示唆する所見は得られなかった。

乳房X線所見で腫瘍を確認

 一時的な治癒の後,同年12月には左乳房の持続的炎症が再発したため,患者は開業医を受診した。急性症状の消失を確認してから,乳房X線撮影を行った結果,胸部の腺実質との境界部の左上外側に,組織構造の破壊を伴う直径38mmの放射状の陰影を認めた。悪性タイプと判定され,患者は精密検査のため,再びDr.-Horst-Schmidt病院を受診した。視診では,左乳房の乳首周囲の皮膚が発赤して浮腫状になっていることが確認された。手術による瘢痕部位に異常は認められなかった。触診では,病変部が熱感を帯びており,圧痛を認めた。腺実質はかなり硬くなっていたが,疑わしい孤立性病巣は確認できなかった。右乳房には何の異常も認められず,両側乳房とも,リンパ液排出の異常は認められなかった。
 超音波検査でも,乳房X線検査の場合と同様に38×30mm大の悪性タイプの固形腫瘍が描出されたが,リンパ液排出路には病巣は認められなかった。超音波ガイド下で実施された生検の結果,左乳房の炎症性・浸潤性の腺管癌と確定診断された。この患者の場合,遠隔転移は認められなかった。

腋窩部も含めて乳房切除

 腫瘍の大きさと炎症を勘案して,まずエピルビシン(90mg/m2)とシクロホスファミド(600mg/m2)を用いたネオ・アジュバント化学治療を 4 クール実施した。その後の超音波検査で,腫瘍は35×17mmにまで縮小したことが確認された。
 しかし,原発巣が依然として大きく,臨床的には炎症の持続を認めたことから,腋窩部の切除を含む乳房切除術の実施は不可避であった。患者の心肺負荷能力がかなり制限されていたことから,一次的再建術は見合わされた。
 この患者の場合,膿瘍性の非産褥性乳腺炎の疾患像が乳癌の診断を 6 か月以上遅らせてしまった。今回の経過は,超音波検査および乳房X線検査による徹底的解明がいかに重要であるかを物語っている。非産褥性乳腺炎では,悪性病巣が存在する懸念が常につきまとうからである。なお,今回紹介された症例では組織検査所見は陰性であったとはいえ,膿瘍切除時における診査切除の実施は必須である。
キーワード 【膿瘍性乳腺炎の影に潜む癌】

[2001年9月13日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.37 p.02)

ジョンズホプキンス大学がデジタル
乳房撮影の初の大規模研究に参加

〔ニューヨーク〕 ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)放射線医学のLaurie Fajardo教授らは,標準の乳房撮影に対するデジタル乳房撮影の有用性を評価する,初の大規模研究への参加を決めた。この研究は米国放射線学会画像ネットワーク(ACRIN)研究と呼ばれ,米国立癌研究所(NCI)から2,500万ドルの助成を受けている。

スクリーニングへの応用に期待

 この研究は,合計 4 万9,500例の米国およびカナダの女性を対象として,デジタル乳房撮影を標準のフィルム乳房撮影と比較し,新しいデジタル技術が従来の乳癌スクリーニング法と同等またはそれ以上かどうかを判定するもの。フィルムを用いる乳房撮影とは異なり,デジタル乳房撮影はコンピュータ制御の導体を用いてX線を光に変換したのち,光をデジタル記号に変換し,最終的にコンピュータのモニターに乳房内部の画像を表示する。
 この研究には同大学のほかに,米国およびカナダの18の研究機関が参加し,初回の乳房撮影実施後15か月まで,患者をフォローアップする。
 Fajardo教授は「多くの専門家が,デジタル乳房撮影は従来の乳房撮影よりも優れていると考えており,この大規模研究から確定的な答が出るであろう」とし,「デジタル乳房撮影は,特に緻密な組織を有し従来の乳房撮影では限界がある女性において,乳癌をより早期に検出できる可能性がある。これまで,デジタル乳房撮影は,乳房生検が必要な疾患を有すると見られる女性にしか勧められていなかった。しかし,この臨床試験により,ルーチンのスクリーニング目的の乳房撮影を受診する無症状の女性にも,デジタル乳房撮影の利点を提供できる可能性がある」と述べている。
キーワード 【デジタル乳房撮影】

[2001年9月13日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.37 p.29)

HER2乳癌の検査率がきわめて低い

〔ロンドン〕 英国の進行性乳癌女性で,自分の乳癌がHER2を有するタイプであるかどうかを知っているのはわずか19%という。一方,米国では乳癌女性のHER2認知率は98%,欧州の平均は48%で,英国の認知率と比べてきわめて高い。癌の専門家は乳癌と診断された女性は全例,蛋白質の一種で癌の進行を早めて予後を悪化させると考えられているHER2の検査を受けるべきだと勧めている。
 HER2は特殊な癌発現遺伝子の産物である蛋白質の一種で,血液中を循環する各種成長因子の受容体となり,細胞の増殖や分化に影響する。通常の環境下ではHER2産生遺伝子は 2 コピー存在する。研究者らは,この遺伝子が時に増幅し,その結果必要以上に複製されてしまうことを発見した。増幅するとHER2の過剰産生,すなわち過剰発現が誘発される。HER2が過剰に発現すると,細胞増殖に歯止めが利かなくなり癌となる。

5年生存率も低い

 Guyユs and St. Thomas病院(ロンドン)の顧問腫瘍研究者であるPaul Ellis博士は,先ごろロンドンで開かれた「乳癌の効果的管理に関する重要な進歩」会議で,「HER2の状態を確認することは女性が受ける治療に大きく影響する可能性が高く,英国では再発リスクの高い全患者に検査を受けさせることが適切であろう」と述べた。
 欧州のなかでも英国の乳癌生存率はきわめて低く,診断から 5 年以上生存する確率は67%で,フランスの80%と比較しても低い。近年,英国政府は癌治療を優先させる方針を示し,英国と欧州諸国に見られるケア基準のギャップを埋める決定を下した。HER2検査により英国の女性は最善の治療を確実に受けられるような方向に向かうであろう。
 現在の検査率は米国の98%を筆頭に,スペイン57%,ドイツ55%,イタリア48%,フランス32%となっている。
 同病院のDavid Miles博士は「現在,HER2検査は無料で行えるため,医師は乳癌患者全例を検査することを強く主張する」と同会議で述べた。
 世界的に見ても,女性では乳癌は最も一般的な癌である。英国だけでも,毎年新たに 3 万5,000例が乳癌と診断され,毎月1,000例以上が乳癌のために死亡している。
キーワード 【HER2乳癌の検査率】

[2001年9月13日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.37 p.36)

ドセタキセルの週1回投与が高齢進行乳癌患者に有効

〔米テネシー州ナッシュビル〕 サラキャノン癌センター(ナッシュビル)のJohn D. Hainsworth臨床研究部長らは,同センターの第 II 相癌研究の結果をJournal of Clinical Oncology(19:3500-3505)に発表,「進行乳癌で併用化学療法が難しい患者や高齢患者に対し,抗癌薬ドセタキセルの週 1 回投与が有効で,患者も耐容性を示した」と述べた。高齢の進行癌患者の薬物療法は難しいが,同薬のこうした用法が新しい選択肢になるかもしれない。

7割以上の患者で反応を確認

 研究は多施設試験の形で行われ,対象となった41例は,65歳以上の高齢進行乳癌患者および併存疾患があり以前の薬物療法で耐容性が弱かった乳癌患者(年齢の中央値74歳)である。
 Taxane(タキソイド系薬剤)による転移癌の治療を受けたことのある患者は除外したが,補助療法としてtaxane投与を受け,治療終了後 6 か月を経過してから再発した患者は対象に含めた。41例中36例が評価可能で,東部共同腫瘍学グループ(EC OG)の全身状態指標で 0 〜 2,正常肝機能,血清クレアチニン1.5mg/dL以下であった。放射線治療は試験開始の 4 週間前に終了するようにし,他の治療による副作用から回復していることを条件とした。
 その結果,36例中13例(36%)が治療に対し他覚的反応を示した。さらに,13例(36%)が反応は弱いが病状の安定を見せた。反応あるいは安定した患者の病勢進行までの期間(T TP)の中央値は 7 か月である。全体の生存期間の中央値は13か月で,予後統計の生存率では,1 年が61%, 2 年が29%であった。
 研究を主導したHainsworth部長は「高齢者や全身状態の思わしくない進行乳癌患者の治療は困難なことが多い」とし,「今回の研究で,ドセタキセルの週 1 回投与が,こうした難治性の患者群の治療にとって新たな選択肢となることがわかった」と述べた。

患者の耐容性も良好

 患者の75%には主要治療としてドセタキセルを週 1 回投与し,残りの25%には補助的治療として投与した。投与はすべて36mg/m2の 1 時間点滴静注により,6 週連続で行ってから 2 週間治療を中断した。末梢の浮腫を最小限に抑えるため,ドセタキセルの投与ごとにコルチコステロイドを予防的に投与した。つまり,ドセタキセル投与12時間前,投与時,投与12時間後にそれぞれデキサメタゾン 8 mgを経口投与した。治療後 8 週間にわたり患者の反応を再評価した。
 他覚的な腫瘍反応または病状の安定を示した患者全例に,同一の方法でドセタキセルの週 1 回投与を継続し,最高で 8 週間のコースを 4 回(32週)実施した。進行癌患者はこの試験から除外した。
 患者は治療に良好な耐容性を示した。重度の好中球減少症が見られたのは期間中わずか0.4%であった。血小板減少症は起こらず,赤血球の輸血が必要な貧血を呈した患者はわずか 2 例であった。重度の白血球減少はまれで,この副作用のために投与量の低減が必要であった患者は 2 例のみであった。血液関連以外の毒性で最も多かったのは,グレード 3 の疲労で,20%が訴えたが,治療が要因の死亡はなかった。
 乳癌は女性では皮膚癌に次いで多い癌で,米国では癌による女性の死亡原因の 2 位となっている。米国癌協会(ACS)の推算では,2001年中に米国で乳癌により 4 万600人が死亡すると見られている。米国立癌研究所(NCI)によると,乳癌の死亡率は1995〜98年の間に減少し,年間3.4%になった。こうした減少はおそらく早期発見と治療の進歩によると見られている。
キーワード 【ドセタキセル】

[2001年10月11日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.41 p.23)【タモキシフェンとER陰性乳癌】

タモキシフェン
ER陰性乳癌リスクを高める

〔米ワシントン州シアトル〕 ワシントン大学(シアトル)公衆衛生および地域医療学部門のポストドクトラルフェローで,フレッドハッチンソン癌研究センター(シアトル)疫学および公衆衛生学部門のChristopher Li博士らは,「タモキシフェンを使用すると,最初の腫瘍とは逆,すなわち反対側の乳房に続発乳癌が生じるリスクは低下するが,治療の困難なエストロゲン受容体(ER)陰性乳癌リスクは 5 倍になることも確認された」とする新しい研究をJournal of the National Cancer Institute(93:1008-1013)に発表した。

ER陽性乳癌リスクは20%低下

 この研究は,タモキシフェンが乳癌女性患者の生存率を向上させ,再発リスクを低下させることを示した最近の研究について追跡調査を行ったもの。
 Li博士らは,タモキシフェンの投与を受けた患者を同薬の投与を受けなかった患者と比較し,同薬により,反対側の乳房に一般的なタイプのER陽性乳癌リスクは20%低下するが,死亡率の高いER陰性腫瘍のリスクはほぼ500%に増大すると思われることを見出した。
 同博士らのデータを解析したところ,タモキシフェン使用者では反対側の乳房に発生した乳癌のうち27%がER陰性であったのに対し,非使用者ではER陰性であったものは 4 %にすぎなかったことが示された。

現在の手順変更は不要

 Li博士は「今回の研究結果は,これらの患者に対する医師の勧告を変更しなければならないということを示すわけではない」と付言した。
 さらに,同博士は「今回の結果が他の研究により確認されれば,タモキシフェンの作用に関する知見に付け加えられるものであるが,タモキシフェンが再発のリスクを低下させ,乳癌と診断された女性患者の生存率を向上させることは明確に示されていることから,これによって現在の臨床現場での手順を変更しなければならないということはないと考えている」と述べた。
 乳癌は最初に診断されたもののうちの約 3 分の 2 がER陽性であり,これは,乳癌の増殖にはホルモンのエストロゲンが必要なことを意味している。こうした乳癌は,エストロゲンが結合する受容体,すなわち結合部位を遮断して癌細胞の増殖を抑制するタモキシフェンなどの抗エストロゲン薬に対する応答性が高い。一方,ER陰性腫瘍はエストロゲンがなくても増殖するため,タモキシフェンなどのエストロゲンに対して不応性である。
 ER陰性腫瘍は,治療が困難なばかりか死亡率も高い。このタイプの乳癌女性患者は,ER陽性乳癌患者に比べて 5 年生存率が 8 〜35%低くなっている。

機序は今後の検討課題

 今回の研究の対象となった患者群は,ワシントン州西部の女性約9,000例であり,1990〜98年に片側の乳房に限局性または局所性の原発性乳癌と診断されていた。年齢50歳以上の女性患者では,もう一方の乳房への発癌,患者の死亡について,今回の研究を完了するまで,追跡調査を行った。全般的に,反対側の乳房に発癌したのは,タモキシフェン使用者では89%,非使用者では100%であった。
 研究データは,ワシントン州西部での患者群をベースとした癌発生率登録システムである,フレッドハッチンソン癌研究センターの癌サーベイランスシステムから得た。
 今回の論文の監修著者であり,フレッドハッチンソン癌研究センター公衆衛生学部門の会員でもあるワシントン大学公衆衛生および地域医療学部門疫学科のJanet Daling教授は「この研究は,患者群をベースとして,乳癌の治療のためにタモキシフェンの投与を受けた女性患者で,反対側の乳房の乳癌のエストロゲン受容体の状態を取り扱ったものとしては,最初の研究である」と述べた。
 さらに,同教授は「関連する機序についての理解を深めるためには,今後の研究で,タモキシフェン療法を受けた患者と受けなかった患者で反対側の乳房の腫瘍の性質をさらに検討する必要がある」と述べた。
 タモキシフェン使用に伴うリスクには,子宮内膜癌,深部静脈血栓症,肺塞栓および白内障のリスクの増大がある。タモキシフェンの使用に伴う利点には,乳癌再発のリスクの低下および生存率の向上,骨折のリスクの低下,およびLDLコレステロール値の低下がある。
キーワード 【タモキシフェンとER陰性乳癌】

[2001年10月25日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.43 p.03)

糖尿病女性の乳房結節は良性の可能性

〔スイス・アーラウ〕 アールガウ州立アーラウ病院のLukas Zimmerli博士らは「若い糖尿病女性患者に対する触診の際,乳房に痛みを伴わない硬結を認めても必ずしも心配する必要はなく,糖尿病性乳腺症である可能性が高い」とLancet(357:1670) で報告している。
 患者が若い女性の場合,まずルーチンに乳房を診察する必要がある。なぜなら,糖尿病は乳房にも悪影響を与える可能性があるからだ。糖尿病性乳腺症は,とりわけ長年にわたって 1 型糖尿病と闘ってきた閉経前の女性に発現するとされているが,例外もある。
 今回報告された36歳のトルコ人女性患者がその好例で,この患者は 1 年前から左の乳房に生じた結節が肥大していることに気付き,それを切除するために来院した。手術直前に 1 型糖尿病であることが判明。結節は 5 cm大にまで達していたが,組織学的検査の結果,線維症ならびにリンパ細胞浸潤と判明し,B細胞がやや優勢であることから,1 型糖尿病における糖尿病性乳腺症と診断された。
 同疾患に典型的な石のように硬い良性の可動性結節は,乳房の四分円のすべてにおいて同様の頻度で発現し,超音波検査では特徴的な陰影が認められる。胸部単純X線撮影では,悪性徴候を伴わない高密度の乳房組織が描出される。同博士は「糖尿病女性患者では,この種の乳腺症を念頭に置くことが重要であり,それだけで患者はたび重なる生検や美容上不利な外科的手術を免れることができる」と主張している。
キーワード 【糖尿病女性の乳房結節】

[2001年11月15日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.46 p.27)

適切に報告されていない乳癌治療の副作用

〔ロンドン〕 癌研究キャンペーンの筆頭研究者である王立自由大学(ロンドン)のLesley Fallowfield教授らは,「乳癌治療の副作用は適切に記録されていない。実際に,癌治療の副作用について十分にわかっていないとすると,治療法の選択について,患者にどのような情報を与えたうえで決断させることが可能なのかという専門家からの疑問が生じている」とBreast Cancer Research and Treatment(66:73-81)に発表した。

面接調査とカルテを比較


 タモキシフェンやゴセレリンなどのホルモン療法は,患者にとって負担の少ない方法であると考えられている。しかし,今回の研究では,副作用を経験した女性患者の数とその種類が多岐にわたることが示されている。
 Fallowfield教授らは,乳癌のアジュバント療法としてのタモキシフェンおよびゴセレリンに関する広範囲にわたる試験の一環として,これらの治療法のうちの一方または両方を受けている乳癌患者75例に面接調査を行い,これらの患者から報告された症状を,カルテの記録と比較した。
 同教授は「その結果,カルテに記載されている症状は,患者が述べたものとは著しく異なっていることが多いことがわかった。89%の女性は,カルテに記載されているなんらかの副作用を生じていたが,面接調査では99%の女性が治療後に副作用症状を経験したと報告した」と述べている。
 さらに,同教授は「一部の副作用が見落とされていることは明らかである。多忙な癌専門医には,単に患者がどのように感じているかについて十分な聞き取りを行う時間がないということは考えうることである」と付け加えた。

 自己報告による症状と臨床医の報告した症状との間には,その頻度に有意差が認められた。91%もの女性患者が,治療により顔面紅潮が引き起こされたと考えていたが,それが記録されているカルテは47%にすぎなかった。女性患者の80%は体重が増加したと報告していたが,それが記録されているカルテは21%にすぎなかった。

統一概念が必要

 副作用について発表している文献を再検討したところ,Fallowfield教授の研究グループの所見が裏づけられた。 複数の研究では,広範囲にわたる患者群のあらゆる副作用を取り扱うことよりも,特定個人の女性患者で認められた特別な症状に焦点が当てられる傾向があった。
 同時に,症状の重症度が完全に無視されることが多かった。同教授は,こうした問題は部分的には,専門用語に起因している可能性があると考えている。「一部の患者は,何を副作用とするかについて,明確な概念を持っていない。面接調査のうちの少なくとも 1 例では,被面接者は自分には副作用はなかったと述べたが,この患者に一般症状のリストを見せたところ,患者はそのうちの複数を認めた。
さらに,患者が『涙もろい』または『過敏である』と述べた場合に,おそらく医師がこれを『不安』または『抑うつ症』と記述しているのではないかと思われる。これが,混乱を招いている可能性がある」と同教授は述べている。
 同教授は「さらに,腟乾燥や性欲喪失などのまれな副作用では,患者は自ら言いたがらないという要因があると考えられる。医師はあまり一般的ではない症状については質問しない傾向があり,患者は質問された場合以外はこれらについて言及しない。副作用の報告は,実体に比べて少ないと思われる。医師の意思疎通技能を訓練し,癌患者が黙して耐え忍ぶようなことのないようにする必要がある」と結論付けている。
 今回の癌研究キャンペーンの啓蒙資金調達担当責任者であるJean King氏は,「毎年,全世界で数十万人の女性乳癌患者が治療を目的としたホルモン療法を受けている。そのため,医師および患者が副作用についての明確かつ統合的な概要を知ることがきわめて重要である。
今回の研究所見は,あらゆる癌の治療法についての示唆を含むものであり,すべての薬物療法の副作用を正確にモニタリングすることがきわめて重要である。もしこうした作業が行われないとすると,臨床試験で新薬を既存の治療法と比較することが難しくなり,癌患者に自分に最も適した治療法に関して,情報を与えたうえでの選択を行わせることも困難となる」と述べている。
キーワード 【乳癌治療の副作用 報告】

[2001年12月6日]
(Medical Tribune VOL.34 NO49. p.42)

ブロッコリーが発癌抑制に有効
〜米国ブラシカ基金セミナー〜

 このほど,米国ブラシカ基金主催のセミナー「ガン予防と機能性野菜」が都内で開かれ,ジョンズホプキンス大学のPaul Talalay特別教授は,癌予防物質として食用野菜のブロッコリーが有用であると報告した。
 同教授によると,発癌の抑制は,体内で発癌を活性化させるフェーズ 1 酵素と発癌物質を解毒化させて防御するフェーズ 2 酵素のバランスによって成り立ち,フェーズ 2 酵素の働きを高めることが癌予防につながるとしている。
 フェーズ 2 酵素を高める因子として,食物に含まれるスルフォラファンという物質が挙げられ,食用野菜のアブラナ科植物群(ブラシカ)にはスルフォラファンの含有率が高い。ブラシカにはカリフラワーやキャベツなどがあるが,調査の結果,ブロッコリーがフェーズ2 酵素の働きを最も高めることがわかった。
 ブロッコリーに含まれる物質について分析したところ,スルフォランの含有率が高く,そのなかでも,食用として市販されている,発芽 3 日後の新芽であるブロッコリースプラウトは含有率が最も高いことがわかった。ブロッコリースプラウト 5 gを摂取した場合のフェーズ 2 酵素の誘導活性は,成熟ブロッコリー150gの摂取分に相当するという。
 同基金は,日常の食生活により癌予防を促進する研究を支援する目的で1997年に設立され,同大学の癌予防研究に援助を行っている。
キーワード 【ブロッコリー 発癌抑制に有効】

[2001年12月20日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.51 p.18)

非ホルモン療法で乳癌生存者ののぼせを軽減

〔米ルイジアナ州ニューオーリンズ〕 乳癌生存者でも乳癌に罹患したことのない女性と同様に,閉経期にはのぼせが生じるが,乳癌療法後にはこうした症状を寛解するためのホルモン補充療法を行うことによりリスクを生じるのではないかとの懸念が存在する。メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)内科腫瘍学のCharles Loprinzi博士は,当地で開かれた北米更年期学会の年次集会で,こうした懸念を除く代替療法について報告した。

SSRIやビタミンEにも効果


 Loprinzi博士は「のぼせは多くの乳癌生存者で問題となっているが,心配する必要はない。乳癌が再発するのではないかとの恐れのため,のぼせの治療にエストロゲンが利用されることは少ないが,臨床試験で有用性が示されているエストロゲン以外の複数の代替療法が存在する」と示唆し,「まず,黄体ホルモンの酢酸megestrolはのぼせを約75〜80%低減させるが,この減少率はエストロゲンと同等である。しかし,やはり多数の人々はこのホルモン剤を乳癌生存者に利用することに反対している」と述べた。
 その結果,のぼせを軽減するための非ホルモン療法についての研究が行われ,こうした非ホルモン療法には現在,降圧薬や抗うつ薬,副作用がほとんどまたは全くないビタミンE療法とリラクセーショントレーニングなどの方法がある。
 同博士によると,2 件のプラセボ対照試験から,降圧薬であるクロニジンによるのぼせの軽減は約45%であったのに対し,プラセボでは25%であった。ビタミンEは 1 日用量800IUで,平均してのぼせを 1 日当たり 1 回以上減少させ,副作用はほとんど認められなかった。 また,ランダム化試験で,新しい抗うつ薬venlafaxineの 1 日75mgまたは150mgの投与でのぼせが61%軽減したのに対し,プラセボ投与 群では27%であった。さらに,パロキセチンおよびfluoxetineなどの他の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)についての試験でものぼせの軽減が認められている。なお,venlafaxineの治験では,女性患者はタモキシフェン,raloxifeneまたはaromatase阻害薬の投与を受けることは可能であったが,化学療法を受けることはできなかったという。
 同博士は「SSRIやビタミンEがのぼせを軽減する機序については明らかになっていないが,降圧薬のクロニジンについては同薬の抗アドレナリン作用が,酢酸megestrolについてはプロゲスチン作用が関与していると思われる」と述べた。
 のぼせの治療に利用されるその他の薬剤には,大豆をベースとしたものがあり,これはこうした目的で使用するには効果が一定しておらず,さらにエストロゲン様作用のためにやはり禁忌となる可能性があり,また,種々の生薬についても同様の問題がありそうだ。
 同博士は「完全に毒性の認められない処方の 1 つにリラクセーショントレーニングがあり,これは一部の女性患者で,交感神経系の興奮を抑制することにより,のぼせの回数および重症度の双方を軽減する」と指摘した。
キーワード 【非ホルモン療法 のぼせ症状軽減】








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2001-05〜2001-12記事