2001-01〜2001-05記事

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00(Medical Tribuneなどの記事)【はじめに】
今まで一般公開されていたMedical Tribune「週間医学雑誌記事」が2000年9月28日から
ID+パスワードが必要になってしまいました。情報公開の時代に残念な出来事でなりません。
そこで乳癌に関連したニュース(一般雑誌より参考になり得る情報)をここにセレクトし
転記します。転載した責任の所在は吉利です。Medical Tribune誌関連の方、もし転載に
問題がございましたら、webmaster@prodr.com(吉利)までメールをお願いします。

[2001年1月4日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.01 p.05 )【短期間の半身照射で転移性乳癌の疼痛を緩和】

より短期間の半身照射で転移性乳癌の疼痛を緩和

〔ボストン〕 放射線の半身照射(HBI)は,広範囲にわたる症候性転移性腫瘍患者に対する非常に迅速な疼痛緩和治療である。これは 1 日 1 回, 5 日間の分割照射法で成功しており,前投薬や入院の必要もないが,先ごろ当地で開かれた米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)の第42回年次集会で,オークウッド癌センターの所長でオークウッド医療保健システム(ともにミシガン州ディアボーン)放射線腫瘍学のOmar M. Salazar所長ら 6 か国の国際研究チームが国際原子力機関(IAEA,ウィーン)を代表して「さらに短期で毒性が同等の方法が,特に乳癌患者に有望である」と発表した。

1日2回,2日間で従来と同等

 Salazar所長らは多発性骨転移を生じている患者156例を対象に第III相試験を行った。13例は内臓転移も伴っていた。癌の原発巣は乳房,前立腺,肺その他とさまざまであった。
 同所長らは,この試験で患者をランダムに割り付けた。対照群(A群)は51例で15Gyを 5 日間に分割( 1 日 1 回 3 Gy)して照射した。B群56例は 8 Gyを 1 日( 4 Gyを 2 回)で照射した。対照群に比べて短期間照射のC群は49例で12Gyを 2 日間に分割( 1 日に 3 Gyを 2 回)して照射した。
 治療後の総体的正味疼痛緩和率(治療を受けずに疼痛なしの余命)はA群が72%,B群が65%,C群が75%だった。総体的生存日数は平均でA群が206日,B群が146日,C群が171日だった。
 生存日数はA群とC群とは同等であったがB群は異なり,同所長らはこれを組織学的な作用だとした。同所長は「癌の原発巣が乳房だった患者では,前立腺原発の患者よりも生存日数がやや長いと思われた。前立腺癌は乳癌よりも長い治療期間が必要だと思われる」と述べた。
 なんらかの疼痛緩和が得られるまでの平均日数は 3 日,最大の疼痛緩和が得られるまでの平均日数は 8 日だった。
 同所長らは「乳癌患者については 1 日 2 回,2 日間連続というより短期間の多分割照射で,標準的なスケジュールの方法と同等の結果がより速く,同程度の毒性で得られる」と結論付けた。
キーワード 【短期間の多分割照射】

[2001年1月11日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.02 p.26)【進行癌患者が完全寛解】

新たなパクリタキセル類似化合物で進行癌患者が完全寛解に

〔アムステルダム〕 フォックスチェイス癌センター(米ペンシルベニア州フィラデルフィア)の乳腺評価センターのLori Goldstein所長らは,当地で開催された米国立癌研究所,欧州癌研究・治療機構,米国癌研究協会(NCI-EORTC-AACR)の新薬療法に関する合同シンポジウムで「第 I 相臨床試験から,パクリタキセル類似化合物であるBMS-188797は進行癌患者に対して臨床的有効性が認められ,臨床試験に参加した患者のうち 2 例以上で腫瘍が完全寛解となった」と報告した。

毒性も低い

 報告によると,最初にBMS-188797の投与を受けた患者14例中 2 例が完全応答を示した。うち 1 例は進行性再発性乳癌で,もう 1 例は胆嚢癌に罹患していた。胆嚢癌を含めて,腫瘍はいずれも完全応答を示した。
 腫瘍の退縮は,同薬の毒性を検討し治療用量を確立するためにデザインされた治験の段階で認められた。
 Goldstein所長は「他の研究者からはBMS-188797を投与すると重篤な下痢を生じると報告されていたが,毒性はほとんど認められなかった。今回の試験では,本薬について用量を減らさなければならないほどの毒性はまだ認められていない」と述べた。さらに,同所長は「本薬は研究室での試験できわめて活性が高いと思われた。そのため,タキソイド系薬剤を服用しているにもかかわらず疾患が進行している患者ですら,本薬が奏効したということについてはそれほど驚いてはいない」と述べた。
 南フロリダ大学(米フロリダ州タンパ)腫瘍学のDan Sullivan准教授は「パクリタキセルとBMS-188797との間には実際にはほとんど構造的な相違はない。実際,分子の置換基にごくわずかな変更があるだけである」としている。
 同准教授らはH. Lee Moffitt癌研究センター(タンパ)で51例を対象にBMS-188797を検討しているが,「本薬はパクリタキセルに比べて毒性が低く,有害な副作用が少ないと思われる」と述べた。
 51例中 5 例が部分応答を示し,乳癌 2 例,腎癌・肺癌・食道癌各 1 例で腫瘍が退縮した。試験に参加した患者はさまざまな治療を受けた後も疾患が進行していた。14例中 9 例は既に放射線療法を受けており,8 例はタキゾイド系薬剤による治療を受けていた。
 しかし,Goldstein所長らは「BMS-188797は初期の試験では有望である結果が得られたが,どのような癌に有効か,また寛解の持続期間がどの程度であるかなどについて,さらに研究が必要である」と述べた。
 寛解を示した患者は現在も,同薬の投与を受けている。
キーワード 【進行性再発性乳癌にBMS-188797の投与】

[2001年1月25日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.04 p.02)【乳房撮影で乳癌による死亡率が低下】

乳房撮影で50〜69歳の女性の乳癌による死亡率が低下

〔ニューヨーク〕 カナダなど22か国は,乳房撮影による乳癌スクリーニングで50〜69歳の女性の乳癌による死亡率が40%低下することがランダム化試験で示されたのを受けて,全人口を対象としたスクリーニングプログラムを1998年までに確立したが,カナダ慢性疾患予防・管理センターのFrancoise Bouchard博士らはCanadian Medical Association Journal(163:1133-1138,2000 )に,7 つのスクリーニングプログラムの1996年時点での結果を報告した。

組織的な検査増加を勧告

 Bouchard博士らの報告によると,初回および次回スクリーニング後の再診率はそれぞれ9.5%および4.6%で,癌の検出率はそれぞれ1,000例当たり6.9例および3.8例だった。同博士らは「乳癌スクリーニングの実績指標の解析では,ランダム化試験で示されたスクリーニングの有用性は住民対象の地域プログラムでも同等であることを示している」と述べており,より総合的なモニタリングをカナダ国内で実施できるように,組織的なスクリーニングプログラムを増やすよう勧告している。
 Anthony Miller博士は同誌の論評で,スクリーニング検査の妥当性および容認性,進行性疾患の早期診断,有効な治療および有リスク人口のコンプライアンスの高さといった,有効なスクリーニングプログラムに必要なその他の要因について考察している。
キーワード 【スクリーニングプログラム】

[2001年2月8日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.06 p.01)【Raloxifeneの乳癌予防効果】

〜Raloxifeneの乳癌予防効果〜
血中エストラジオール値が高い女性で大きい

〔ニューヨーク〕 過去に行われたraloxifeneに関する複数のプラセボ対照ランダム化試験(被験者総数約 1 万2,000例,追跡期間中央値29か月)によって,raloxifeneが高齢女性の乳癌発症率を74%低下させたことが示されて以来,同薬が奏効する患者と奏功しない患者がいる理由を多くの研究者が追求していた。そうしたなか,カリフォルニア大学サンフランシスコ校(サンフランシスコ)のSteven Cummings博士らは「raloxifeneから最も大きな恩恵を受けるのは,血中エストラジオール値の高い女性と思われる」という研究成績を明らかにした。米国ではraloxifeneは骨粗鬆症による骨損失の予防薬として処方されている。

タモキシフェン服用者全員の子宮内膜癌スクリーニングは不要

〔ニューヨーク〕 乳癌再発予防のためのタモキシフェン(TAM)投与は子宮内膜癌の発症に関与していることが知られているが,スローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク)婦人科のRichard Barakat副部長らは「TAMを服用している乳癌患者の全症例を対象にした子宮内膜癌のルーチンなスクリーニングには有用性が見られない」とJournal of Clinical Oncology(18:3459-3463,2000)に報告した。同副部長らが同センターで行った 8 年間にわたる試験で,乳癌患者111例を対象に同薬投与開始時から最長 5 年間にわたって子宮内膜生検(EMB)によるスクリーニングを行った結果,明らかになったもの。

不正出血と同程度

 Barakat副部長は「子宮内膜癌を発見するためのルーチンのEMBには不正腟出血の存在と同等程度の有用性しかないことを,TAM服用中の乳癌患者に説明すべきである。そうすれば,現在服用中の数十万人の女性と,新たに服用を開始する年間 8 万人の女性が,このまれにしか発生しない子宮内膜癌の発見のために不必要な侵襲的検査を受けることはなくなるであろう」と述べた。
 TAMによる子宮内膜癌の発症率は年間1,000人当たり 2 人で,死亡率は15%であると報告されている。同副部長らは同薬の投与を受けている乳癌患者をスクリーニングするための最も優れた方法を探していた。同副部長は「TAMによる子宮内膜癌発症リスクは小さく,この癌は早期に発見すれば治癒率が高いので,われわれは効果的なスクリーニングによってその率をさらに低下できるかどうか観察を試みた。その結果,子宮内膜癌が実際に発症しているときは,出血によって患者自身が発見できることがわかった。生検によるスクリーニングは発見率を改善しなかった」と述べた。

出血あれば生検を

 Barakat副部長らは1991年10月〜98年 9 月に同センターで,EMBが最も有効なスクリーニング法であるか否かを評価するためのプロスペクティブ試験を行った。対象は乳房と腋窩リンパ節に限局する乳癌に対してTAM治療を開始している女性159例で,年齢の中央値は50歳であった。TAMの投与開始から 2 年間にわたり 6 か月間隔で外来でEMBサンプルを採取,その後 3 年間にわたって年 1 回EMBを採取し,最長 5 年間の観察とした。最終的に評価対象となった被験者は111例,EMBの数は延べ635例,観察期間の中央値は36か月であった。その結果,14例(12.6%)がEMBの異常のために子宮内膜掻爬術(D&C)を受けていたが,癌を有していた患者はいなかった。
 共同著者である同センター乳腺疾患科のTeresa Gilewski博士は「子宮内膜癌の発症率は低いが,TAMによってそのリスクが上昇することを乳癌患者は知っており,最善のスクリーニング法に関心を持っている。医師はTAMを服用している患者を十分観察し続け,異常腟出血があれば直ちに報告するように指導すべきである。出血が見られた場合は,必要に応じて生検を行う。しかし,症状を呈していない患者までも対象に含めたEMBスクリーニングを支持する明確な証拠はない」と述べた。
 乳癌の専門家の意見は,年間0.2%の子宮内膜癌発症リスクを恐れるためにTAMの服用を控えるべきではないとの点で一致している。同センター乳腺疾患科のClifford Hudis部長は「今回の研究によって,子宮内膜癌のようなまれな癌に関するスクリーニングの有用性が低いことが再確認された。TAMは長年使用され,これまでに数十万人の生命を救っている。TAM服用中の乳癌患者は,子宮内膜癌に関する過剰な検査を受けなければならないと考えるべきではない」と述べた。
キーワード 【TAMの服用と子宮内膜癌】

[2001年2月8日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.06 p.02)【Raloxifeneの乳癌予防効果】

Raloxifeneの乳癌予防効果
血中エストラジオール値が高い女性で3倍に

〔ニューヨーク〕 raloxifeneの乳癌予防効果について,カリフォルニア大学サンフランシスコ校(サンフランシスコ)のSteven Cummings博士らが閉経後女性約7,700例を対象に行ったraloxifeneのプラセボ対照ランダム化試験(MORE,Multiple Outcomes of raloxifene Evaluation trial)と他の小規模ランダム化試験から収集されたデータベースに基づく試験の結果,同薬の骨に対する有効性が予想通り示されただけでなく,予想外に乳癌の予防効果も大きいことが示された。同博士は,MORE試験でraloxifeneまたはプラセボにランダムに割り付けられた閉経後女性7,290例を追跡して分析。「エストラジオール値が検出可能レベルにある女性は,同値が低い女性に比べて乳癌リスクが有意に高いことがわかった。しかし,エストラジオール値が高い女性では,raloxifeneによる乳癌予防効果が約 3 倍高かった」と報告した。 (前項目参照)

1,000例につき4.8例のリスク低減

 Cummings博士によると,乳癌リスクが最も高かったのはエストラジオール値≧ 5 pmol/Lでプラセボを投与した女性であった。しかし,raloxifeneの投与によって,1,000例につき4.8例の割合でリスクが低減された( 1 ページの図)。また,raloxi-feneの乳癌リスク低減効果は,エストラジオール値が検出限界以下の女性よりも,検出限界以上の女性でより高かった。被験者の約 3 分の 1 は,エストラジオール値が検出限界以下であった。
 しかし,raloxifeneが脊椎以外の骨折,死亡率,LDLコレステロール値などに及ぼす効果は,被験者のエストラジオール値とは無関係だった。今回の研究の被験者は,初回スクリーニング後 4 年間追跡された。
 Cummings博士らは,エストラジオールの欠乏は閉経後女性の乳癌リスクの低減に関与している可能性があり,したがって,raloxifene療法はエストラジオール値が低い女性では乳癌リスクの低下に大きく寄与しなかったのであろうと考えている。これに対して,エストラジオール値が検出限界以上の女性では,raloxifeneが乳房組織における内因性エストラジオールのエストロゲン作用を抑制することによって,より大きな乳癌予防効果を発揮するのかもしれない。

エストラジオール値の測定を

 同博士は「このタイプのホルモン療法によって乳癌予防効果の恩恵を受けると思われる女性を同定するには,従来から用いられている家族歴などの因子による癌リスクの判定を行う代わりに,エストラジオール値を測定すべきである」と述べた。
 米国骨代謝学会会長でロイヤル・ビクトリア病院カルシウム研究所(モントリオール)のDavid Goltzman博士も同様の意見で,「今回の研究は,閉経後女性のなかでraloxifeneによる乳癌予防効果の恩恵が最も大きいと思われる集団を同定するために行うべき簡便な試験を明示している」と述べた。

タモキシフェンと比較

 もう 1 つの選択的エストロゲン受容体モデュレータであるタモキシフェンが,乳癌リスクを低減させることは既に示されている。1992年に開始された乳癌予防試験では,6 年後に実薬群と対照群の間に乳癌発症率の著しい差が生じたため,試験は中止されてオープン試験に替わった。しかし,タモキシフェンはraloxifeneと異なり,子宮内膜癌の増加に関連があることが示唆されている。また,深部静脈血栓症,脳卒中,肺塞栓症などの副作用もある。
 タモキシフェンがこれまで20年以上にわたって使用されてきたのに対して,raloxifeneは比較的最近使用されるようになった薬剤で,MORE試験では長期的効果を評価するために被験者を引き続き追跡する予定である。1999年 5 月に開かれた米国臨床腫瘍学会年次集会の時点(追跡期間中央値40か月)では,raloxifene群における乳癌発症数は22例,プラセボ群では32例で,raloxifene群では乳癌の発症が66%低下した。
キーワード 【raloxifene 長期的効果を評価】

[2001年2月8日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.06 p.27)【肝転移を生じた乳癌の記事】

〜肝への転移を生じた乳癌患者〜
転移巣が孤立性なら治癒的切除術を

〔ベルリン〕 肝臓への転移を認める乳癌女性患者の場合,平均余命はわずか 6 か月にすぎない。しかし,ケルン大学病院(ケルン)外科のMarkus Selzner博士は,第117回ドイツ外科学会で「肝転移巣の治癒切除に成功すれば,予後は著しく改善する」と報告した。
 同博士によると,乳癌の転移が孤立性で肝以外に転移腫瘍を認めない場合には,肝転移巣の切除が有効であるという。同院では,12年間に17例の女性患者に対してこうした切除術を実施。うち10例には,術前に骨髄幹細胞移植と高用量の化学療法を併せて実施した。

5年生存率も22%に

 その結果,全例で治癒切除術に成功したという。術後の平均生存期間は27か月で,5 年生存率も22%に達していた。1 例では術後既に 6 年が経過しており,12年生存者も 1 例あった。ゲッティンゲン大学病院(ゲッティンゲン)外科センターのTorsten Liersch博士は「こうした肝転移巣切除術の適応となるのは,ごく一部の乳癌患者だけである」と指摘。「同センターで,ここ 4 年半のうちに,肝への転移だけが認められた乳癌女性患者は23例であったが,治癒が可能との予測のもとに実際に手術に踏み切ることができたのは 5 例のみであった」と述べた。
キーワード 【肝転移乳癌患者の肝臓への外科的切除】

[2001年3月15日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.11 p.03)【18歳未満の乳癌遺伝子検査】

18歳未満の乳癌遺伝子検査は不要

〔独イエナ〕 イエナ大学第二内科のH. Maacke博士は「乳癌は18歳未満では発症しないため,乳癌リスクの高い家族歴を認める場合でも,小児の段階から遺伝子検査をする必要はない」とPadiatrische Praxis(57:541-542,2000)で報告している。

BRCA1やBRCA2に突然変異

 同博士によると,遺伝的素因による乳癌は 5 〜10%にすぎない。家族歴を有する患者の一部では,BRCA1やBRCA2遺伝子に突然変異が認められ,これがリスクを高める要因となっている。しかし,この突然変異が認められないからといって,乳癌リスクを高める家族性の要因を排除することはできない。
 乳癌発症のかなり以前に,分子生物学的な方法を用いて,突然変異遺伝子の有無を確認することはできるが,こうした検査の有用性については疑問の声も上がっている。乳癌を発症した母親に突然変異が認められる場合,その娘の検査所見が陰性であっても,せいぜい一時的安心感を与えるくらいで,逆に陽性所見が得られると,大きな精神的苦痛を与えてしまうことになるからだ。
 ただし,検査で陽性の女性に対しては,予防的な乳房切除術が有効であることも事実である。このため,同博士は「予測診断に踏み切る前に,こと細かに助言を与えて話し合うことが不可欠だ。しかし18歳に達する前に,こうした助言をしたり,分子生物学的検査を行うことは,必要でも適切でもない」と強調している。
キーワード 【分子生物学的検査】

[2001年3月22,29日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.12,13 p.48)【】

運動は早期乳癌患者の治療にプラスの効果

〔米バージニア州アレクサンドリア〕 乳癌治療のもたらす疲労には「休息が最善の薬」だというこれまでの医療助言とは反対に,運動が多数の患者の身体機能と体重管理を向上させたという研究結果を,オタワ地域癌センター(カナダ・オタワ)腫瘍リハビリテーションプログラムのRoanne Segal部長らが,Journal of Clinical Oncology(19:657-665)に発表した。

心機能などが著明に改善

 早期乳癌の治療分野では過去最大の規模となった研究の結果,治療を受けている患者が週に 3 〜 5 回 1 時間程度の歩行運動を定期的に 6 か月継続した場合,心機能と全般的な機能に著明な改善が見られた。
 123例を対象としたランダム化試験で女性患者の身体機能の改善度を見ると,自己管理プログラムに基づいて運動した群は100点満点で5.7点,集団で指導を受けて運動した群は2.2点,それぞれ向上した。それに対し,従来の医療助言に従って癌の治療中に運動をほとんどまたは全くしなかった対照群では,患者の状態は悪化し,身体機能の得点は平均4.1点減少した。
 この所見は化学療法,ホルモン療法,放射線療法のいずれを受けたかに関係なく,患者全体に共通して見られた。Segal部長は「化学療法をはじめとする補助療法を受けている乳癌患者は,運動に参加することに積極的で体力もあった。運動が中等度でも結果は有意で,機能を改善し,患者は自立を実感した」と述べた。
 研究で意外だったのは,集団の指導者付き運動プログラムに参加した群より自己流で運動した群で呼吸機能改善効果が高かったことだ。この違いは医療施設で指導を受けた群では,自宅で自分の思い通りに運動した群に比べると,抑制が働いたためであろう,と同部長は見ている。
 また,体重を増やす作用のあるタモキシフェンによるホルモン療法を受けた患者では,運動後の体重減少が患者全体で最も著しく,平均で約 1 〜3.6kgの減量を記録した,と同部長は指摘した。
キーワード 【運動は早期乳癌患者の治療にプラス】

[2001年4月12日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.15 p.02)【capecitabineが進行乳癌患者に有望】

経口抗癌薬capecitabineが進行乳癌患者に有望

〔米オハイオ州マイアミズバーグ〕 癌治療の専門医向けのピアレビュー誌であるOncologist( 6 ( 1 ):56-64)で,静注抗癌薬(フルオロウラシル,5-FU)に類似する経口抗癌薬capecitabine(Xeloda,Hoffmann-La Roche社)の開発と臨床経験の概要が特集された。U.S. Oncology(テキサス州ダラス)のJoanne L. Blum博士は,同薬の乳癌患者に対する治療の選択肢としての可能性について,『転移性乳癌の治療における経口・酵素活性化フルオロピリミジン,capecitabineの役割』と題した原著論文で考察している。

副作用少なく在宅治療にも期待

 乳癌の専門医であるBlum博士によると,米国では毎年約17万5,000例が新たに乳癌と診断され,そのうち根治を目的として治療を受けた患者の約半数が転移性乳癌を発症し,転移癌の診断後の生存期間中央値は18〜30か月であるという。
 以前にアントラサイクリンおよびタキサン系抗癌薬で治療を受けた転移性乳癌患者の多くは,これらの化学療法薬に耐性を有するようになる。230例を超える患者を対象とした 2 つの大規模多施設臨床第 II 相試験では,これらの 2 剤による治療が失敗に終わった患者で,capecitabineは20〜25%の奏効率を示した。同博士は「現在進行中の他の臨床試験の成績が,capecitabineの単剤および他剤との併用効果を判定するのにさらに役立つはずだ」と述べている。
 同博士は「経口剤であるcapecitabineは患者,看護婦および医師にとって,これまで以上に使いやすく,在宅での治療に比重を置くことができる」としている。capecitabineは静注用の5-FUに類似しているが,正常組織よりも腫瘍部での活性が高い酵素により活性化されるという利点がある。つまり,より多くの抗癌物質5-FUを腫瘍に対して直接産生でき,脱毛や骨髄抑制などの副作用を減らすことができる。
 同誌にはそのほか,結腸直腸癌に対するイリノテカンの投与について,肝臓癌のラジオ波アブレーション,腫瘍に対するインターフェロンの効果,マサチューセッツ総合病院(ボストン)Schwartz Center Roundsによる『医療過誤:個人的見地についての作業部会』,標的毒素の分子透視,ヒトゲノム入門,米食品医薬品局(FDA)医薬品承認概要などが取り上げられている。
キーワード 【経口剤capecitabineと進行乳癌】

[2001年4月19日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.16 p.02)【raloxifene投与成績】

乳癌リスクを継続して低減
4年間のraloxifene投与成績を発表

〔カナダ・トロント〕 MORE(Multiple Outcomes of Raloxifene Evaluation)試験の研究者でピッツバーグ大学(米ペンシルベニア州ピッツバーグ)のJane Cauley博士らは,塩酸raloxifene(Eli Lilly)を服用した閉経後の骨粗鬆症女性では,乳癌リスクが 4 年間の治療期間中,継続して有意に低下した,とBreast Cancer Research and Treatment(65:125-134)に発表した。

乳癌発症リスクを72%低減

 選択的エストロゲン受容体モデュレータ(SERM)であるraloxifeneは,閉経後女性の骨粗鬆症予防・治療薬として米国で承認されている唯一の薬剤で,現在,その乳癌予防効果も検討されている。
 Eli Lilly社が実施した骨粗鬆症の多施設試験,MORE試験の48か月間のデータから,raloxifeneは浸潤性乳癌の新規発症リスクを72%,エストロゲン受容体陽性浸潤性乳癌(閉経後女性に最も頻度の高い型)の新規発症リスクを84%低減させることが示された。このデータはMORE試験の乳癌に関する最終的知見である。同試験では乳癌予防効果が副次エンドポイントとして設定され,登録された女性は,試験参加資格に乳癌リスクが高いことを求められなかった。
 米国Eli Lilly社,女性の健康部門の医学責任者Leo Plouffe博士は「 4 年間にわたって,raloxifeneのきわめて有意な乳癌予防効果が持続して認められた。これは,昨年JAMAに発表された 3 年間の成績をさらに支持するものである。これらの有望な知見を元に,現在進行中の大規模試験からraloxifeneのデータをさらに収集し,乳癌予防効果の適応申請につなげたい」と述べた。
 MORE試験では,2,557例の女性にraloxifene 60mg/日,2,572例に同120mg/日,2,576例にプラセボが投与された。試験期間中,被験者はルーチンの乳房撮影を受け,第三者機関である腫瘍審査委員会が報告のあった乳癌を確認した。試験終了時の主要知見は次の通り。
・浸潤性乳癌と報告・確認されたのは,プラセボ群で2,576例中39例であったのに対し,raloxifene群では5,129例中22例であった。すなわち,プラセボ群と比べて,raloxifene群は浸潤性乳癌リスクが72%低下した。
・エストロゲン受容体陽性浸潤性乳癌と報告・確認されたのは,プラセボ群で31例,raloxifene群全体で10例であった。すなわち,プラセボ群と比べて,raloxifene群はエストロゲン受容体陽性浸潤性乳癌リスクが84%低下した。
 今回の報告の筆頭著者であるCauley博士は「米国では年間18万人以上の女性が新たに乳癌に罹患しており,患者の約半数は65歳以上である。浸潤性乳癌は女性で 2 番目に死亡率の高い癌であり,エストロゲン受容体陽性乳癌は閉経後女性に最も頻度の高い型の癌である」と述べた。

乳房密度を高めない

 MORE試験は閉経後骨粗鬆症女性7,705例を対象に行われた長期プロスペクティブプラセボ対照ランダム化比較試験で,1999年に終了した。同試験からraloxifeneの骨折予防効果,良好な脂質プロフィール,乳房・子宮に対する持続的安全性などを示す重要なデータが得られた。
 Journal of the National Cancer Instituteに発表された新たなデータでは,raloxifeneを 2 年間服用しても乳房密度(乳房の張り)を高めないことが示されている。Cauley博士らによると,同薬が乳房撮影による新規乳癌の検出を損なわず,むしろ検出を助けていると考えられることから,この知見は重要である。
 Raloxifeneは妊娠中もしくはその可能性のある女性,授乳中の女性,重度の肝障害の女性,治療を要する血栓症の既往歴のある女性には投与できない。頻度は低いが重篤な副作用に静脈血栓症がある。長時間,静止状態でいると血栓症のリスクが上昇する。最も頻度の高い副作用は,顔面潮紅と下肢痙攣であるが,通常,軽度で,大半の患者は服用を中止するに至っていない。
 白人,アジア系,やせ型,運動不足,骨粗鬆症の家族歴は骨粗鬆症リスクを上昇させる。食事から十分量のカルシウムやビタミンDを取れない場合,栄養補助剤を服用すべきである。
キーワード 【4年間のraloxifene投与成績】

[2001年4月19日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.16 p.22)【上皮成長因子受容体による識別】

上皮成長因子受容体は乳癌患者サブグループ識別に有用

〔米ジョージア州アトランタ〕 ペンシルベニア大学医療センター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のMelinda E. Sanders博士らは,当地で開かれた米国およびカナダ病理学会の年次集会で「乳癌患者での上皮成長因子受容体(EGFR)発現量の増加は,腫瘍サイズとは正の相関を示し,エストロゲン受容体(ER)の発現量とは逆相関を示す」とする所見を発表した。

乳癌患者の細分化に有用

 Sanders博士らの所見は,EGFRが陽性で抗EGFR療法に応答する可能性がある乳癌患者の識別が重要であることを示すものである。 同博士らは「EGFRに対する抗体(C225)は最近,ある種の進行性結腸癌の治療に有効であることが証明されている。C225は,Her2/neu遺伝子を発現している乳癌を標的とする抗体であるtrastuzumab(Herceptin)と同様の方法で作用するのではないかと期待している」と述べている。
 同博士らは,浸潤性乳癌患者(89例)でEGFRに対するモノクローナル抗体を用いて,ERの対プロゲステロン受容体発現量比およびHer2/neuを,EGFRの発現量と比較した。さらに,腫瘍のタイプ(腺管癌対小葉癌),大きさ,患者の年齢および診断時の結節の状態に関しても,EGFR発現量を検討した。
 同博士は「ERおよびプロゲステロン受容体は,予後良好な癌を識別するための 2 つのマーカーである。その逆に,Her2/neuを発現している癌は一般的に,高グレードであり,予後不良の癌であると考えられている」と説明した。同博士の研究チームは,乳癌の20%以上は,Her2/neuの過剰発現とは無関係に,EGFRを過剰発現していることを見出した。EGFRの過剰発現は,腫瘍サイズと正の相関関係を示し,ER発現量とは逆相関を示していることから,一部の乳癌ではEGFRの過剰発現が疾患進行になんらかの役割を果たしている可能性がある。
 同博士らは「Her2/neuが陰性の進行性乳癌患者では,腫瘍がEGFRを過剰発現している場合にはC225療法を考慮できるだろう。さらに,EGFRの発現により,高グレードの腫瘍の特徴を有するがHer2陰性となっている有意な一部の乳癌群の存在が明らかとなった。つまり,これによって,アジュバント療法が可能と思われる別の女性患者群が新たに識別されるようになるだろう」と述べた。
キーワード 【EGFRに対する抗体(C225)アジュバント療法】

[2001年4月26日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.17 p.02)【ドセタキセルとエピルビシン】

転移性乳癌にドセタキセルとエピルビシンの併用が有効

〔スイス・ザンクトガレン〕 当地で開催された第 7 回原発性乳癌アジュバント療法(ATPBC)国際会議で,香港大学とプリンスオブウェールズ病院(ともに香港)のW. Yeo博士らは,転移性/局所性の再発性乳癌にはドセタキセルとエピルビシンの併用療法が良く奏効すると報告した。
 同博士によると,この併用療法による全体的な奏効率は78%,生存期間中央値は19.6か月に達した。
 今回の第II相試験では,患者46例にエピルビシン(75mg/m2)を静脈内投与した 1 時間後にドセタキセル(75mg/m2)を 1 時間かけて静脈内に点滴注入する 1 週間の化学療法を 3 サイクル試みた。標準的な前投薬も行った。
  3 サイクル終了後,奏効した患者にはさらに同用量のドセタキセル単独投与 3 サイクル,計 6 サイクルを投与した。
 毒性のために,この投与を早期に中止した患者はわずか 3 例であった。残りの患者で最も多かった毒性はグレード 3 〜 4 の好中球減少症(96%),同 3 〜 4 の貧血(31%),同 3 〜 4 の血小板減少症( 7 %),発熱を伴う同 3 〜 4 の好中球減少症(39%)であった。
 今回の試験に参加した患者の平均年齢は49歳。37%が以前にアジュバント化学療法を受けており,従来の化学療法は受けていなかった。
キーワード 【第 7 回(ATPBC)国際会議】

[2001年4月26日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.17 p.16)【遺伝子と薬剤との相互作用】

乳癌遺伝子変異が化学療法効果に影響

〔米ペンシルベニア州フィラデルフィア〕 ジェファーソン医科大学(フィラデルフィア)放射線腫瘍学およびキンメル癌センターのBruce Turner助教授と,バーナム研究所(カリフォルニア州ラホヤ)のJohn C. Reed科学局長らは,ルイジアナ州ニューオーリンズで開かれた米国癌研究協会の年次集会で,乳癌遺伝子の変異が抗乳癌薬の効果に影響を及ぼすと発表した。Turner助教授らの発見は,ヒトゲノム解析により最近重要視され,癌治療の進歩につながると期待されている新分野「薬理ゲノム治療」に光を当てるもの。

bcl-2蛋白レベルがかぎ

 Turner助教授とReed局長らの研究チームは,BRCA1と呼ばれる遺伝子の変異を伴う乳癌細胞が,特定の化学療法薬および放射線には反応するが,抗乳癌薬として広く用いられているタキソール,タキソテールなどには,耐性を持つことを発見した。
 Turner助教授らは,BRCA1変異乳癌患者を診察し,これらの患者の癌細胞ではBcl-2遺伝子蛋白質が不足していることを突き止めた。この蛋白質は,タキソールの作用およびアポトーシスの阻害に関連している。
 研究によると,正常なBRCA1は分子レベルでBcl-2遺伝子の発現を調節しており,DNAを傷害するシスプラチン,アドリアマイシン,タキソールなどの投与や放射線照射がこの調節機能に作用し,乳癌細胞に細胞死をもたらすが,BRCA1変異を伴う遺伝性乳癌患者は,Bcl-2蛋白質のレベルが低い。同助教授は「BRCA1変異を伴う乳癌には,タキソールの効果が現れなかったが,Bcl-2蛋白質のレベルの低さが要因かもしれない」と話している。

投与薬の見直しが必要

 タキソールやタキソテールなどの抗癌薬は,若年の乳癌患者または進行癌患者では,他の化学療法薬と併用されることが多いが,Turner助教授らの新発見により,BRCA1変異乳癌患者では,投与薬剤の見直しを迫られそうだ。
 同助教授は「この新発見は乳癌治療に影響を及ぼす」とし,「BRCA1変異患者にはタキソールなどの薬剤は適しておらず,アドリアマイシンやシスプラチン,あるいは他の新薬を投与するほうが効果的だ」と指摘した。これらの薬剤はタキソールとは異なり,DNAに直接作用するのでBcl-2蛋白質のレベルは関係ない。
 同助教授は「taxaneで治療されてきた癌に効果が現れなかったことも,これで説明が付く」としている。さらに,「BRCA1変異乳癌では,癌細胞は細胞死阻害要因として働くBcl-2蛋白質の発現を誘発できない。Bcl-2の不足した細胞はDNA作用薬に反応するはずであり,Bcl-2が不足していることによってタキソールに耐性を示すはずである。研究の結果,その通りであることがわかった。Bcl-2遺伝子発現の制御にはBRCA1が大きくかかわっているので,こうした結果はすべてBRCA1変異が原因と考えられる」と付け加えた。
 同助教授らは,この研究が「特定の薬剤に反応する特定の遺伝子変異を持つ患者の小集団を同定して薬理ゲノム治療を行える可能性を示唆していると考える。こうした遺伝子と薬剤との相互作用が,将来的には薬剤に対する患者の反応を高め,生存率を向上させる」と述べた。
キーワード 【遺伝子と薬剤との相互作用】

[2001年4月26日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.17 p.16)【術前dose-dense併用投与】

術前dose-dense併用投与は乳癌に有効

〔スイス・ザンクトガレン〕 当地で開かれた第 7 回原発性乳癌アジュバント療法(ATPBC)国際会議で,フランクフルト大学(独フランクフルト)女性病院のG. von Minckwitz博士らは,アドリアマイシンとドセタキセルの術前のdose-dense併用投与は,原発性の手術可能な乳癌の術前に行われてきた従来の一連の化学療法と実行可能性,耐容性,有効性が同等であることを報告した。

AC-DOCと比較して同等のpCR

 Minckwitz博士らは,ドイツ術前アドリアマイシン・ドセタキセル研究(GEPARDO)の一部として,術前のdose-dense併用投与が乳癌に対して非常に効果が高いことを証明する中間結果を発表した。
 同博士らは自身の以前の第IIb相試験の結果が良かったことを受けて 8 週間の試験を行った。
 以前の試験では,特定のdose-dense化学療法を行った結果,9.9%で病理学的完全奏効(pCR)が得られたことが示された。この臨床試験で用いられた化学療法はADOC,すなわちアドリアマイシン(50mg/m2)+ドセタキセル(75 mg/m2,14日ごとに 4 サイクル)+G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)+タモキシフェンである。
 ここで議論されたランダム化試験では,今回の同用量の投与スケジュールにより従来のAC-DOC,つまり,手術前にアドリアマイシン(60mg/m2)+シクロホスファミド(600mg/m2,21日ごとに 4 サイクル)を投与後に,ドセタキセル(100mg/m2,21日ごとに 4 サイクル)を投与するという連続投与スケジュールと同等のpCRが得られることが示されている。
 タモキシフェン( 1 日20mg,5 年間)はADOC群とAC-DOC群の両方ですべての患者に同時に投与された。
 ADOC群(251例),AC-DOC群(251例)への振り分けは腫瘍の特徴が均等となるように割り付けた。おおよその腫瘍直径の中央値はそれぞれ 4 cmと2.9cm,年齢の中央値は53歳であった。
 いずれの群においてもグレード 3〜 4 の体液貯留や心事故が報告された例はなかった。
 各群13例の患者で試験終了前に投薬が中止された。理由は毒性(14例),疾患の進行( 5 例),死亡( 1 例),その他の原因( 2 例),コンプライアンスの欠如( 4 例)であった。
キーワード 【術前dose-dense併用投与】

[2001年5月3日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.18 p.22)【ミッシング・リンク】

希少疾患と遺伝性乳癌間の“ミッシング・リンク”を発見

〔ボストン〕 ダナ・ファーバー癌研究所(ボストン)のAlan D'Andrea博士は,世界で最もまれな疾患の 1 つについて遺伝子の働きが全く予想されていなかったBRCA1に関係することを,Molecular Cell(7:241-248)に発表した。BRCA1の異常は遺伝性乳癌の原因として最もよく知られているものである。

BRCA1活性化経路を検討

 D'Andrea博士は,ファンコーニ貧血( 5 歳までに骨髄異常を発症する遺伝的異常であり,赤血球が産生されない)と呼ばれる病態で,同疾患に関与する遺伝子がどのようにBRCA1を活性化する経路を形成するかを示した。BRCA1あるいはファンコーニ遺伝子のいずれかが異常であれば,癌のリスクは劇的に上昇する。
 同博士は「正常な状態ではBRCA1が細胞内に生じたDNA損傷の修復を助けて細胞の癌化を防ぐことを示す強力な証拠は存在するが,今のところBRCA1を活性化する機序についてはほとんどわかっていない。今回の新研究では全米で500家族のみの発症がわかっている疾患を調べることで,BRCA1の活性化につながる経路を示した」と述べた。
 今回の知見は,患者の遺伝性乳癌のリスクを判定する新たなツールを,医師が間もなく手に入れられることを意味している。ファンコーニ遺伝子のいずれかが変異するとBRCA1の活性化が遮断されてDNA修復を行うことができなくなるため,これらの遺伝子検査は女性が乳癌を発症しやすいかどうかを同定する方法となる。
 遺伝性の乳癌は全乳癌の約 5 %を占めるにすぎないが,ファンコーニ遺伝子の突然変異を検査することはBRCA1遺伝子が正常でも乳癌のリスクが高い女性を同定する助けとなる。

遺伝性乳癌治療の新戦略に

 今回の新研究は,D'Andrea博士のファンコーニ貧血に関する研究の副産物である。この異常は骨髄移植によって治療できるが,患者の多くは若年で癌(多くは白血病だが脳,頭頸部,食道,他組織の癌のことも)を発症する。
 ヒトの細胞は 7 つの遺伝子のいずれかに突然変異が生じるとファンコーニ貧血が発症する。以前の研究で同博士らは,これらの遺伝子の 5 つから産生される蛋白質が 6 番目の遺伝子を活性化する酵素を形成することを示した。今回発表した論文の第 1 報目で,同博士とオレゴン保健科学大学(オレゴン州ポートランド)のMarkus Grompe博士はFANCD2と名付けたその 6 番目の遺伝子の同定・クローニングについて報告し, 2 報目の論文ではFANCD2が活性化されるとBRCA1のスイッチをオンにする蛋白質が産生されることを示した。
 D'Andrea博士は「FANCD2がファンコーニ貧血の酵素とBRCA1のスイッチとの間を結ぶミッシング・リンク(失われた環)であることが明らかになった。FANCD2が活性化されるとFANCD2蛋白をBRCA1に送る“郵便番号”として働く。FANCD2とBRCA1が結合すると,これらの蛋白質は協同してDNAを修復する」と説明した。
 大多数の人はすべてのファンコーニ遺伝子とBRCA1遺伝子が正常であり,このような一連の反応の結果,細胞内で損傷DNAが修復される。この経路にかかわる遺伝子のいずれかに欠陥があればBRCA1が活性化されず,細胞内で遺伝子損傷が積み重なって癌が発症する土台がつくられる。
 今回の発見は遺伝性乳癌のリスクが高い患者を判定する新たな検査につながると考えられるが,一方で新たな治療法が生まれる可能性もある。同博士は「この修復経路を増強しBRCA1による修復を促進することで,遺伝的なリスクがある患者の乳癌発症リスクを低下させる薬物をデザインすることが可能になるかもしれない。しかしそのような治療を現実のものにするためには,やるべき仕事が多く残っている」と述べた。
キーワード 【ミッシング・リンク(失われた環)】

[2001年5月24,31日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.21,22 p.02)【統計値の誤解】

統計値の誤解で乳癌リスクを過大評価

〔ワシントンD.C.〕 カリフォルニア州公衆衛生研究所付属カリフォルニア癌登録(サクラメント)のCyllene Morris博士とカリフォルニア州保健福祉局(エメリービル)の研究者らは,平均的な50歳の女性が今後20年間に乳癌を発症する確率は約18分の1で,しばしば言及される統計値である9分の 1(実は新生女児の生涯リスク)の半分のリスクであると,American Journal of Preventive Medicine(20:214-218)に発表した。

生涯リスクを短期の確率と誤解

 多くの女性は自分のリスクを高く見積もり過ぎている。数字を誤って解釈しているためで,リスクを人種や民族別に分析すると正確度が向上する。この研究は,5 〜20年の短期予測のほうが,生涯リスク統計値よりも有意義であるかもしれないことも示している。
 Morris博士は「生涯リスクとは,新生女児が一生の間に乳癌を発症する確率である。9 分の 1 という統計値は,あらゆる年齢の女性に当てはまるわけではない」と説明する。
 乳癌は若年女性よりも高齢女性に多く見られるが,実のところ高齢女性の余命における乳癌発症リスクは新生児のリスクよりも低い。
 同博士は「高齢女性は乳癌を発症することなく,既に数十年を生きているのに対して,新生児は特定の年齢に達するまでに乳癌を発症するリスク(またはその他の原因で死亡するリスク)がまだある」と同誌で述べている。
 一般に女性は自分の乳癌発症リスクを大きく見積もり過ぎていることを,いくつかの研究が示している。乳癌に対するカウンセリングや教育を受けた女性でも,9 分の 1 という統計値を,新生女児の生涯リスクではなく短期の確率として誤って解釈することがある。
 同博士らは,1993〜97年の間に乳癌と診断された米国人女性10万9,165例の登録データを集計した結果,50歳の女性が以降の 5 年間に乳癌を発症する平均リスクは86分の 1 であることを発見した。ほとんどのガイドラインは,50歳くらいから定期的にスクリーニングを受けるよう女性に呼びかけており,同博士らはこの勧告には異議を唱えていない。
 これに対して,平均的な40歳の女性が同期間中に乳癌を発症するリスクは189分の 1 で,20年以内の発症リスクは26分の 1 である。60歳の女性でも,5 年間の発症リスクは61分の 1,20年間の発症リスクは14分の 1 にすぎない。これらの数字は,女性がまだ乳癌と診断されていないと仮定した場合のものである。

長期リスクは非現実的

 50歳の時点で以降の20年間に乳癌を発症するリスクは,白人女性では15分の 1 であるのに対して,アフリカ系米国人女性では20分の 1,アジアおよび太平洋諸島系米国人女性では26分の 1,スペイン系米国人女性では27分の 1 である。
 また,50歳の白人女性が以降の 5 年間に乳癌を発症するリスクは75分の 1 である。これに対して,アフリカ系米国人女性のリスクは98分の 1,アジアおよび太平洋諸島系米国人女性のリスクは107分の 1,スペイン系米国人女性のリスクは133分の 1 である。
 Morris博士は「リスク推定値は,現在の確率を将来に当てはめるものなので,その確率が一定期間にわたって安定している場合にのみ有効である。短期間の場合はこのような仮定が正しいかもしれないが,長期間の場合は現実的ではない。スクリーニング技術の進歩により早期に検出される腫瘍が増え,予防法の改良により乳癌を発症する女性の数が減るため,乳癌の発生率が長期にわたって一定であることはまずないだろう」と見ている。
 一方,「現在の年齢を基準として以降の10〜20年間について計算したリスク推定値は,より正確で誤解を与えにくいため,一般の人々にとっていっそう有意義であろう」とし,「乳癌は依然としてよくわかっておらず,年齢および人種/民族のみでは女性個人の発癌リスクを予測できない」と付け加えた。
キーワード 【統計値、計算したリスク推定値】

[2001年5月24,31日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.21,22 p.25)【色素の乳輪下注入】

色素の乳輪下注入
乳癌のセンチネルリンパ節マッピングを簡略化

〔ワシントンD.C.〕 当地で開かれた外科腫瘍学会の第54回年次癌シンポジウムで,ペンシルベニア大学(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のTodd W. Bauer博士らは「乳癌のセンチネルリンパ節(SLN)の同定における青色色素の乳輪下(SA)注入の有効性は,腫瘍周囲(PT)注入と同等だが,他のいくつかの点で優れている」と発表した。

超音波ガイドが不要

 Bauer博士によると,触知不可能な病変のSA注入は,注入時に超音波ガイドが不要なため,PT注入よりも簡単,安価,迅速であるという。同博士は「術前の生検による空隙を乳房に生じずにすみ,手術野を青染する必要がなくなる」と述べ,「乳房全体のマッピングを 1 回のSA注入で行うことができるが,これは多病巣性または発生源が多数の腫瘍(多発癌)が考えられる場合に行うのが妥当である」とも指摘した。
 また,ほとんどの癌は乳房の上外側部に発生するので,腋窩にガンマプローブを用いる際に,SA注入では背景の染色による影響が少なくてすむ。   2 種類の方法を評価するため同博士らは,乳癌SLNの生検を受けた患者332例において,放射性トレーサーのPT注入を併用した青色色素のPTおよびSA注入結果を比較した。
 合計で83例( I 群)に青色色素のPT注入,249例( II 群)にSA注入を実施した。全例にフィルタTc-99mイオウコロイドのPT注入を行い,さらに65%にはリンパ管シンチグラフィを施行した。両群は年齢の中央値,腫瘍の大きさ,位置および組織学的所見,以前の生検歴がほぼ同等だった。
 SLNの平均同定数は,I 群が2.4(範囲:0 〜 9 ),II群が2.5(範囲:0 〜11)だった。そのほかの有効性判断基準も両群でほぼ同等で,放射性同位元素と青色色素の一致率(シンチグラム上で陽性描出された青染結節を 1 個以上認める)は I 群が87%,II 群が90%だった。

摘出生検例ではPT注入を

 Bauer博士は「われわれの研究や他の研究から,SA注入は,そのあらゆる利点に加えて,結節の発見成功率と一致率がPT注入と同等であることが示された」と述べた。
 しかし,同博士は「上外側に大きな空隙を伴う摘出生検を受けた患者には,従来通りPT注入を用いるべきだ。この患者では,SAマッピングからの病変位置の特定は,より困難な可能性がある。放射性トレーサーや青色色素が,生検により生じた空隙を通過できない可能性があるためだ」と説明し,さらに「乳房リンパ管の解剖からすれば,SAのほうが優れているのは当然で,われわれが研究に着手したのはそのためだ。いずれの方法も有効性が同等だとわかってうれしく思ったが,驚きはしなかった」と述べた。
キーワード 【第54回年次癌シンポ・センチネルリンパ節マッピング】

[2001年5月24,31日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.21,22 p.25)【COX-2阻害薬HER2/Neu陽性】

COX-2発現と乳癌予後に関連
HER2/Neu陽性乳癌で過剰発現

〔米ルイジアナ州ニューオーリンズ〕 当地で開催された米国癌研究協会(AACR)の年次集会で,Pharma-cia社のJanet Harmon博士は「シクロオキシゲナーゼ(COX)-2の過剰発現とチロシンキナーゼ受容体蛋白HER2/Neuとの間に直接的関係がある」と報告した。HER2/Neuは乳癌女性の予後不良と関連している。
 研究は,25例の女性を対象とした小規模なもので,HER2/Neu陽性は15例,陰性は10例であったが,この知見は,結腸および婦人科癌を含む多くの癌において,COX-2発現の重要性を新たに示すものである。

COX-2阻害薬の研究へ道

 この研究結果から,COX-2の過剰発現が,HER2/Neu仲介性腫瘍形成のいわゆる“下流標的”である可能性が示された。つまり,HER2/Neu陽性乳癌を有する女性では(全乳癌のうち約30%がこの蛋白を過剰発現する),COX-2も同様に過剰発現している可能性がある。
 この知見により,COX-2阻害薬による治療が腫瘍の悪化になんらかの影響を及ぼすかどうかを決定する研究への道が開かれた。
 AACRで発表された研究では,浸潤性乳管癌あるいは小葉癌のいずれかを有する女性の 3 分の 2 は,COX- 2 およびHER2/Neuの双方を過剰発現していたことがわかった。
 コロイド腺癌を有する女性の80%はHER2/Neu陰性およびCOX-2陰性であり,20%がHER2/Neu陰性,COX-2過剰発現であった。
 同時に,エストロゲン受容体(ER)陽性の浸潤性乳管癌の女性のわずか16%がCOX-2を発現しており,一方,小葉癌を有する女性の 4 分の 3 がER陽性で,COX-2を過剰発現していた。
 症例数は少なかったが,これは乳管癌,小葉癌,浸潤癌のいずれかの女性12例中10例がCOX-2およびHER2/Neuの双方を過剰発現していたことを意味している。

ERとCOX-2発現との相関は不明

 研究主任であるHarmon博士は「腫瘍のタイプにかかわらず,COX-2はHER2/Neu陽性癌において過剰発現する。さらに,HER2/Neu陰性癌は,HER2/Neu陽性癌に比べCOX-2を発現する頻度が低いようである」と結論した。ERの状態とCOX-2発現との相関は不明であるが,ERの状態とHER2/Neu発現との間には相関関係がある。
 同博士らは,HER2/Neu蛋白が存在する細胞でCOX-2が発現しているため,一方を発現し他方を発現しない細胞があるということではない,と指摘した。
 今回の研究は,WCP Pathology社およびニューヨーク長老派教会病院(ともにニューヨーク)の研究者らと共同で行われた。
キーワード 【HER2/Neu蛋白】

[2001年5月24,31日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.21,22 p.25)【センチネルリンパ節生検施行率が急上昇】

乳癌のセンチネルリンパ節生検施行率が急上昇

〔ニューヨーク〕 ダナ・ファーバー癌研究所とハーバード大学(ともにボストン)のJane Weeks准教授によると,3 年ほど前から,全米癌総合ネットワーク(NCCN)加盟病院の外科医らは,乳癌の手術では患者にどのような術後処置が適しているのかを判断する補助的手段として,センチネルリンパ節(SLN)生検を取り入れ,乳癌が 2 cm以下の患者への同生検の施行率は,1997年中ごろの 2 %から2000年末には20%に跳ね上がった。診療ガイドラインを作成し腫瘍学の実験データを蓄積しているNC CNの年次集会で,同准教授は「これは大変注目すべき新技術である」と述べた。

治療計画がより正確に

 Weeks准教授らが調査を行ったSLN生検のデータは,18のNCCN加盟医療機関のうち 5 施設で治療を受けた女性の情報をまとめたもの。
 ロズウェルパーク癌研究所(ニューヨーク州バッファロー)の乳癌部門主任であるStephen Edge博士は「乳癌におけるSLN生検実施の最初の報告がなされたときに,どのように患者を治療するのかを垣間見ることができて幸運である。この技術がわれわれの医療センターにこんなに早く採用されていたとは驚きである」と述べた。
 同博士は,SLN生検を行うことによって,医師は乳癌患者に対して,より正確な治療計画を立てることができると見ており,「SLN生検陰性は,腋窩の完全な摘出といった侵襲的な処置を結果的に取らないですむことがしばしばあり,患者に対して化学療法あるいは放射線治療といった副作用を伴う治療も少なくてすむかもしれない」と述べた。
 データ内容は広範に及び,全体として,8 医療機関から5,003例の女性に関する情報,すなわち腫瘍のステージ,治療の選択,ケアパターン,さらにこれら医療センターで治療を受けている女性の就業状態も組み込まれている。Weeks准教授は「他の医療センターからのデータもデータベースに加えており,データが十分まとまれば,他の癌も分析する予定である」と述べた。
 また,同准教授は 8 医療機関での I 期と II 期の癌に対しての乳房温存術,すなわち乳腺腫瘤摘出術の実施に関しても報告した。NCCN加盟施設の外科医は,I 期癌の女性1,782例のうち1,212例(約68%)に腫瘤摘出術を行っていた。
 ちなみに,Edge博士によると,米国全体での腫瘤摘出術の施行率は55%である。
 Weeks准教授は「NCCN加盟施設ではII期の癌患者の47%に乳房温存術が行われた」と述べた。しかし同准教授は,加盟病院間で I 期の癌患者における乳房温存術の実施に,56%から81%という大きなばらつきがあることを認めた。具体的な施設名は未確認であった。
キーワード 【センチネルリンパ節生検・正確な治療計画】

[2001年5月24,31日]
(Medical Tribune VOL.34 NO.21,22 p.28)【乳管内視鏡の話題】

乳頭の異常分泌に乳管内視鏡
診断精度が向上し病変範囲の断定も容易に

〔米テキサス州サンアントニオ〕 当地で開催されたサンアントニオ乳癌シンポジウム年次集会において,クリーブランド・クリニック外科のJill Dietz博士は「乳頭からの異常分泌がある患者に対し,新しい検査法である乳管内の内視鏡検査を行うと診断精度が向上し,病変部の範囲を断定しやすくなる。さらに,切除が必要な場合も,手術操作のガイドとして有用」と発表した。

51例中48例で病変部を視認

 Dietz博士らは,乳頭から血性,水性,漿液血液状などの分泌物が見られる患者51例を対象に乳管内視鏡検査を施行した。その結果,48例で病変部を視認できた。同博士は「患者にはまず静脈内プロポフォール投与で鎮静し,その後乳頭の 4 か所に 1 %リドカインの局注を行った。これらの処置により患者は乳管内視鏡検査に耐容できたが,3 例では乳管の閉塞や偽腔により,病変部の同定が困難であった」と述べ,さらに「プロポフォールを使用したおもな理由は,リドカイン注射を円滑に行うためであった。ほとんどの患者は乳管内視鏡検査施行中も覚醒していた。症状の見られる乳管への挿入は,径1.2 mmもしくは0.9mmの乳管内視鏡を用いることにより全例で成功した。このような患者の乳管は拡張しており,どちらかのサイズで十分であった」と説明した。
 今回の治験では36例(70%)の患者に管内乳頭腫が確認され,良性の増殖性変化を伴うものもあった。非浸潤性乳管癌(DCIS)は 5 例(10%)に見られた。7 例は管内上皮の過形成が唯一の所見であった。事前に病変の存在が疑われていなかった乳管の奥深くにも,6 か所の病変が見つかった。

正常組織への侵襲少ない

 Dietz博士は「現在まで約70例にこの検査法を用いたが,高い確率で病変部を検出でき,乳管の病変領域を識別できるため正常組織を不必要に切除しなくてすむなどの効果が得られた」とコメントした。
 乳管内視鏡で所見を有する患者のうち35例の組織を調べると,25例が乳頭腫,4 例がDCIS,2 例が過形成,4 例が良性であった。これらの患者の大半は,病変部を切除するだけで根治的治癒が得られた。しかし,同博士によると,癌と診断された場合は乳腺腫瘤摘出術や乳房部分切除術など,結局は侵襲性の高い手術を受けることになる。
 今回の治験はランダム化割り付けを行っていないが,同博士らは乳管内視鏡の所見を乳管造影での診断結果と比較した。乳管造影は造影剤を乳管内に注入し乳房X線像を撮影するものである。同博士は「結果は,病変部位の確認において,乳管造影よりも,乳管内を直接見ることができる乳管内視鏡が優れていた」と主張した。

若干の熟練を要する

 合併症は,病変部を乳管内視鏡で切除する場合と同程度で,例えば,今回の治験では,感染症,血腫が各 1 例見られたにすぎない。Dietz博士は「乳管内視鏡の操作には若干の熟練を必要とする。私は摘出標本約1,000例を用いて練習した。しかし,実際の患者に乳管内視鏡を施行するのは意外に簡単である」と述べた。
 さらに,同博士は「今回の第 I 相試験での成功を元に,乳管内視鏡のさらに高度な利用法を試行中で,既に乳癌と診断されているが乳頭の異常分泌のない患者に対する治験を開始したところだ」と言う。
 こうした患者で治療効果が上がるかどうかについて,同博士は「まだなんとも言えない」としながらも,「乳腺腫瘤摘出術や乳房部分切除術を受ける患者において,その切除範囲が乳管内視鏡の所見によって変わるかどうかに注目している」と語った。また「バイオマーカーに関する知見が増えるにつれて,乳管の内皮細胞を生理食塩水で洗い流す乳管洗浄などとともに,治療効果や予後の判定には,乳管内視鏡がますます重要になるだろう」との見解を示した。
 同博士は「クリーブランド・クリニックでは,診療所レベルにおける乳管内視鏡の実用性や安全性について検討している。乳管内視鏡では乳管上皮の検体採取を低侵襲で施行できるため,高リスク患者のスクリーニングに適用できる可能性がある」としている。

他の検査法の欠点を補う

 シンポジウムでは,ほかにも上海のグループが,診療所レベルの施設で乳管内視鏡を約200例に施行したと報告した。Dietz博士は「上海の報告では病変部の検出率が30%にすぎず,正診率は低い。しかし,乳管内視鏡が診療所レベルで施行可能であるだけでなく,鎮静や麻酔なしでも行えることも実証された」とコメントした。
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校ジョンソン総合癌センター(ロサンゼルス)のSusan Love博士およびSanford Barsky博士らは以前,乳癌は 1 本の乳管の細胞から生じることを報告した。乳管内視鏡を用いた場合,早期発見のみならず,より局所的な治療が可能で,Love博士らの説が正しければ,乳癌をごく初期の段階で治療できる。しかし,乳頭の異常分泌が見られる女性における癌の早期発見を目的に,乳管内視鏡を使用することが最良の選択肢と言えるかどうかは疑問が残る。
 Dietz博士は「乳癌を予測する検査として価値の低い細胞診が推奨されているが,この細胞診も含め,乳頭からの異常分泌にどう対処すべきかは論議の的である。乳管造影などでも偽陽性が報告されており,異論のある検査である。乳管内の病変を直視できる乳管内視鏡は,他の検査法の欠点を補うものである」とコメントした。
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2001-01〜2001-05記事