2000-01〜2000-06記事

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00(Medical Tribuneなどの記事)【はじめに】今まで 一般(どなたでも)参照可能であったMedical Tribuneの記事が2000年9月28日から、メディプロという会員制(ID+パスワードが必要)サイト内に移行してしまいました。
情報公開IT革命という世の中に於て、残念でなりません。そこで乳癌に関連したニュース (一般雑誌より参考になり得る情報)をここにセレクトし、upしました。  尚、ここに転記したり転載したる責任の所在は吉利です。 Medical Tribune誌関連の方、もし転載に問題がございましたら、 webmaster@prodr.com(吉利)までお願いします。

☆(Medical Tribune Vol.31, No.10,)【心理療法で乳癌患者の予後が改善】
米国放射線療法・腫瘍学会の年次集会での研究、スタンフォード大学精神科のDavid Spiegel教授らは、 乳癌患者に心理療法が有用であることを示唆する報告をした。教授らは、1年間の集団心理療法を受けた 転移性乳癌患者と受けなかった症例について、集団心理サポート療法が患者に及ぼす生理的効果を分析し 両群の生存率とクォリティオブライフ因子を比較した。

結果:集団心理療法を受けた症例群は受けなかった症例群と比較し平均して18ヶ月も長く生存した。

注記:このことは、乳癌というホルモンの関係する腫瘍では、心理的なサポートが重要に思われる。 この逆の反論報告は2000-11/5現在報告されていない。故にHANAさんBBSのポリシーが正しいと思う。
Spiegel教授の報告をサポートしている本:HANAさん推薦のこの一冊;ディーン・オーニッシュ著「愛は寿命をのばす - からだを癒すラブ・パワーの実証的研究 - 」 光文社
キーワード 【乳癌・心理的サポート】このDavid Spiegel教授の記事を元に、雑誌より転載しています。

[2000年2月17日]
(Medical TribuneVOL.33 NO.7)【乳癌:手術時期が長期予後を左右】月経3〜12日目では成績悪い
〔ニューヨーク〕 Guy's 病院(ロンドン)Hedley Atkins乳腺診療部のIan Fentiman博士らは,月経 3 〜12日目に乳癌手術を受けた患者の長期予後は他の月経周期に手術を受けた患者よりも悪いことを突き止め,Cancer(86:2053-2058,1999)に発表した。

女性ホルモン受容体が関与?
Fentiman博士らは,1975〜85年に乳癌の手術を受けた閉経前の女性患者112例について検討した。まず,各患者の手術日が月経周期のいつに当たるかを記録。乳癌摘出後は各腫瘍を分析し,エストロゲンおよびプロゲステロン受容体が癌細胞内に存在するかどうかを調べた。
いずれの患者も手術から10年以上は追跡調査を行った。月経 3 〜12日目(おもに卵胞期)に手術を受けた患者のうち10年以上生存できた症例は45%であったのに対し,月経初日〜 2 日目および13〜32日目に手術を受けた患者で10年以上生存した率は有意に高く,75%であった。
エストロゲンあるいはプロゲステロン受容体が腫瘍に存在しているかどうかは,それのみでは長期生存率に影響しなかった。腫瘍の63%はエストロゲン受容体陽性,61%はプロゲステロン受容体陽性であった。しかし,卵胞期以外の周期に手術を施行した症例に限り,腫瘍内の受容体の有無は生存率に有意な影響を及ぼした。月経初日〜 2 日目および13〜32日目に手術が施行された症例で10年間生存した率は,エストロゲン受容体陽性腫瘍例で80%,プロゲステロン受容体陽性腫瘍例で88%であった。一方,エストロゲン受容体陰性腫瘍例では60%,プロゲステロン受容体陰性腫瘍例では56%と,10年生存率は有意に低かった。

メカニズムは不明
Fentiman博士らは「ER(エストロゲン受容体)およびPR(プロゲステロン受容体)の有無によりグループ分けした場合,卵胞期に手術を施行した患者に関しては,生存率にグループ間の有意差はなかった」とし,さらに「卵胞期に手術を行うと,ホルモンの状態にかかわらず予後が悪いと考えられる」とコメントしている。 1989年以来,多くの研究者が乳癌手術における月経周期の影響を調べてきた。月経周期と手術の時期に関連性を見出した者もいたが,大半は関連性なしとした。
同博士は「今回得られた知見は,手術の時期が関与する機序を解明したわけではない。しかし,手術可能乳癌が閉経前に診断された患者では手術時期を選べば,予後が向上する可能性がある」と述べている。
キーワード 【手術時期が長期予後を左右】

[2000年2月24日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.8)【プラスαのインターネット活用術】(4)他の患者の体験を知る
ソニーコミュニケーションネットワーク(株) 医学博士 鈴木吉彦氏記事より抜粋

現段階ではインターネットで個別的な治療は行えないから,インターネットは利用価値が低いか,というと,そうではありません。患者は,インターネットで患者同士の交流の場,あるいは医師が患者のために設けた情報交換の場を利用して,多くの他の患者の体験を間接的に知ることができます。また,患者が健康書では理解できなかったことでも,他の多くの患者たちの実体験を知れば,いろいろな重症度があり,いろいろな治療があることがわかり,診断や治療はケースバイケースであることを実感することができるわけです。
 それによって,病気で悩むのは自分だけではない,同じようなケースの人もいる,自分より病気が重い人も軽い人もいる,ということも実感できます。つまり,病気と戦うということに対し,より客観的に考えられるようになるのです。
その結果,患者が陥りやすい,迷信のようなウワサにも巻き込まれにくくなるでしょう。自分だけの思い込みで信じていたことが,非科学的であることを知ったりして,反省したり,判断を変えるきっかけになるかもしれません。そして,さらに多くの情報のなかから,より自分に合った情報を探しに行こうという意欲も出てくることでしょう。
つまり,インターネットでは,医師が患者 1 人 1 人に合った個別的な治療指針をつくり出し,提供することはできませんが,患者自身は,自分に合った治療の可能性を探り,客観的な判断材料を探し求めることができる,いう点では,メリットが非常に大きいのです。
また,医師も,インターネットのホームページから自分の専門分野以外の患者に触れ,その実態を知ることができます。ケーススタディとして勉強になることも多いのです。

特殊なオピニオン「インターネット・オピニオン」
 インターネットによって患者が得る知識や意見は,医師からもらう「診察による診断や意見」,「セカンド・オピニオン」と異なります。つまり,会ったこともない医師からの助言をもらうわけですから,時には全く的を射ていない回答であることもしばしばです。
 患者にとって,助言をもらえるのはありがたいとしても,その助言者がどのような地位や立場の人かわからない人ばかりですから,不安はいっぱいです。仮に親切な回答であっても,実は,そのアドバイスは,治療にとって効果がないものだったり,時には害になる情報だったりするかもしれません。早く病院に行って治療が必要なのに,間違った情報によって,とんでもない療法を勧められ病状を悪化させてしまうということも,ないとは言えないでしょう。

 とんでもない宗教や信仰を持つカルト的な団体が,診療所をつくり,その院長が独善的な治療を勧めているかもしれません。「○○は癌に効く!」などといった詐欺まがいの情報を流されて,信じたが最後,その信仰団体への加入のきっかけにされてしまうかもしれない,などの危険もあります。  ですから,インターネットから得られるオピニオンというのは,いわゆる「セカンド・オピニオン」とは別種のものと考えるべきものです。これまでの社会ではあまり見かけなかった,特殊なオピニオンを得る場なのです。
キーワード 【プラスαのインターネット・特殊なオピニオン】
附記 この鈴木吉彦氏の記事に 99番目オピニオンと名乗る自分(吉利=洋彰庵)の考えていたことが凝縮されていました。

[2000年2月24日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.8)【乳癌患者;治療方針決定への関与でQOLが向上】
〔ニューヨーク〕 フレッドハッチンソン癌研究センター(ワシントン州シアトル)公衆衛生学部門のNicole Urban,M. Robyn Andersenの両氏はAnnals of Behavioral Medicine(21:201-209,1999)に,乳癌患者で自分自身のフォローアップケア方針の決定に関与した症例はQOLが向上したと述べている,と発表した。

根拠のない検査より有用
Andersen氏は「乳房切除術と乳房温存術のいずれにするかの決定と同様に,フォローアップケアは自分にとって何が最良であると考えているかを患者に述べさせる良い機会だ」と述べた。
乳癌生存例に対するフォローアップケアは通常,乳房撮影と乳房の診察によって癌が再発していないかどうかを判断する。しかし,なかには生存率が向上するという根拠がないにもかかわらず,骨スキャン,血液検査およびX線検査を実施して癌の有無を判断する医師もいる。
同氏らによると,検討対象とした50〜85歳の乳癌生存例292例中71%が癌再発の有無を評価するため血液検査,骨スキャンまたはX線検査を 1 年に 1 回以上受けていた。これらの検査は癌再発に対する患者の不安を軽減するとは思われなかったが,自分自身の治療方針の決定に関与した患者は関与しなかった患者よりも,概して感情的および身体的に調子が良いと感じていることがわかった。
対象患者の半数以上(52%)が外科的治療方針の決定に「おおいに関与した」と述べ,48%が癌再発の検査方針の決定に「おおいに関与した」と述べた。
同氏は「フォローアップ検査方針の決定に患者自身が関与することの効果が,これほど大きいとは驚いた」と述べた。なお,患者が乳癌の手術方針の決定に関与することでQOLが向上することは,これまでの研究で明らかにされているという。早期乳癌生存例の治療後10年以内の再発率は10〜18%であるとされている。

前向きな考え方が重要
Andersen氏らによると,対象患者ではリスクに関する意識レベルが高かった。患者の 3 分の 1 以上(38%)は,自分が乳癌になる可能性に関して大げさに考えていると思われた。同氏は「そこにはより説得力のある結果が期待された」とし,「これらの研究結果を受けて,医師が患者にフォローアップ検査について話し,骨スキャンや血液検査など癌の再発の有無を評価するさらに複雑な検査のなかには,QOLの向上にはつながらないものがあることを知らせるようになれば」と期待している。
乳癌患者に対しては「必ずしも医師任せにする必要はないということに気付いて欲しい。ある乳癌生存例について,あの患者は数年間治療から遠ざかっていると話すころには,その患者のQOLはかなり良くなっていると思われる。こうした女性は癌が再発していないと考えているため良い状態にある」と述べた。
同氏は過去に喘息患者の治療方針決定とQOLに関する研究も行っている。今後の研究として卵巣癌生存例のQOLに関する研究と,乳癌生存例に対して,患者自身が管理および治療方針決定へ強く関与したいという意欲を持つように,特に計画された治療の効果に関する研究を予定している。

キーワード 【治療方針決定への関与】根拠のない検査より有用・前向きな考え方が重要

[2000年3月23,30日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.12,13)【良性乳腺疾患でも乳癌リスクが上昇】TGF-β受容体がリスクマーカーに
〔ニューヨーク〕 バンダービルト大学(テネシー州ナッシュビル)予防医学のWilliam Dupont教授らは「良性乳腺疾患(EHLA,異型を伴わない上皮過形成病変)を有する女性でトランスフォーミング成長因子(TGF-β)受容体が少ないケースでは,乳癌発症リスクが高い」とJournal of the National Cancer Institute(91:2096-2101,1999)に報告。「今回われわれは初めて,良性の乳腺疾患を有する女性において乳癌リスクの上昇を示す信頼性の高い生物学的マーカーを発見した」と述べた。

TGF-β受容体の存在が重要
Dupont教授らは,ナッシュビル乳腺研究コホートから,生検でEHLAの診断を受け,のちに浸潤性乳癌を発症した女性54例と,EHLAを有していたが乳癌を発症しなかった115例(対照群)とを抽出した。
同教授らが注目したのは,細胞分裂を調節する化学伝達物質であるTGF-β。正常な状態では,TGF-βは乳腺細胞表面のTGF-β受容体に結合し,細胞に分裂の停止を指令する。しかし,細胞に同受容体が存在しないとTGF-βは結合できず,分裂の停止を指示できない。したがって,細胞は分裂し続け,乳腺組織の増殖が起こる。
全被験者(169例)を観察した結果,TGF-β受容体が全乳腺細胞の25%以下にしか存在しない患者の浸潤癌発症リスクは,75%以上の細胞に同受容体が存在する患者に比べて 3 倍以上高かった。被験者の約 3 分の 2 (104例)は,乳腺細胞の75%以上に同受容体を有していた。
ナッシュビル乳腺研究コホートでは,30年以上にわたる約 1 万例の女性のデータと組織検体が集積されている。今回の研究の被験者は,1965年から78年まで観察された。
テキサス大学サウスウエスタン医療センター(テキサス州ダラス)外科腫瘍学のDavid Euhus助教授は「これは,細胞がどのように増殖停止のブレーキを解除するのかを示した重要な研究である。この研究のデータベースと組織検体の源は膨大なものであり,ほかでは行えないような研究である」とコメントした。

乳癌高リスク群の染色体に欠損
Dupont教授は「自己の信号を受信できない病変があるならば,それが増殖を続けて最終的に乳癌に至ると考えることは妥当であろう」と付け加えた。Euhus助教授らはまた「乳癌リスクが高い女性は,リスクが低い女性に比べて,染色体の特定の部位により多くの欠損を有することを発見した」と述べた。この研究は,これらの染色体に何が欠損しているのかを同定する第一段階となる。Dupont教授は「これは非常に有望な知見であるが,他の研究による追認が必要である」と強調。Euhus助教授は「高リスク群が 8 例の患者だけを対象としたものであったため,結果の解釈は慎重にすべきだと考えている」と付け加えた。Dupont教授は「他の研究によって追認されるならば,乳癌予防への適応に大きな期待が持てるであろう」と述べた。
キーワード 【TGF-β受容体の存在・染色体と乳癌発症リスク】

[2000年4月20日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.16)【乳癌転移の指標となる蛋白を発見】
〔ニューヨーク〕 シカゴ大学医療センター(シカゴ)放射線・細胞腫瘍科のRuth Heimann助教授らはCancer Research(60:298-304)で「乳癌患者における新たな生物マーカーが発見された」と報告している。早期乳癌において,さまざまな濃度で存在する複数の蛋白は生物マーカーであり,癌の転移を予測するうえでの指標となる。なかでも,細胞同士の結合を助ける蛋白が低濃度だと転移リスクが高く,手術後に化学療法が必要となる早期乳癌患者を予測するうえで,最も重要な単独因子であると考えられる。

Eカドヘリンが予後予測に有効
Heimann助教授らは,乳房撮影によって小さい早期腫瘍と判断されたリンパ節転移陰性の乳癌患者を対象に研究を実施。Eカドヘリンと呼ばれる蛋白を生物マーカーに追加したところ,長期生存率90%の患者群と44%の患者群とを区別できたという。

同助教授は「リンパ節に転移していない女性では,Eカドヘリンは不良な長期成績を示す最も強力な予後予測因子である。われわれの分析では,Eカドヘリンのような生物マーカーは,腫瘍のサイズやグレード,エストロゲン受容体の存在,患者の年齢などより重要であることが示された」と説明している。
患者を死に至らしめるのは,元の乳癌ではなく,他の部位への転移であり,リンパ節転移陰性の乳癌患者で転移を生じるのは20〜30%である。同助教授は「腫瘍のサイズやグレード,エストロゲン受容体の有無,分裂細胞の比率など転移リスクの評価に用いられている標準的方法は,治療指針の決定には不十分である」と述べている。
外科的に原発巣を切除することは可能である。また,放射線療法を用いれば,隣接リンパ節にまで達した腫瘍を効果的に治療することができ,遠隔転移のリスクも低減できる。しかし,化学療法には副作用があり,その適用が常に有効であるとは限らない。
今回の研究は,特定の蛋白が予後の予測に役立つことを示す研究の 1 つである。この研究の共著者でもある同科のSamuel Hellman教授は「Eカドヘリン,nm23,微小血管数などの腫瘍生物マーカーから得られる追加情報によって,個人の腫瘍タイプに合わせたテーラーメードの治療が可能となるだろう」と見ている。
キーワード 【乳癌転移の指標となる蛋白-Eカドヘリン,nm23追加情報】

[2000年5月4日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.18)【乳癌に対する大量化学療法の効果】標準療法と変わらない
〔ニューヨーク〕 テキサス大学MDアンダーソン癌センター(テキサス州ヒューストン)乳房腫瘍部のGabriel Hortobagyi部長らはJournal of the National Cancer Institute(92:225-233)に「高リスクの乳癌患者に対して,大量化学療法は標準化学療法と効果が同等で,標準療法を上回る効果がないうえに有害な副作用を生じやすいことがわかった」と発表した。

生存率・再発率は同等
Hortobagyi部長らは,初回手術後にリンパ節転移が10個以上,または初回化学療法後にリンパ節転移が 4 個以上あるものを高リスク乳癌と定義し,高リスクの乳癌と診断された女性78例を対象として研究を実施した。78例のうち,48例が初回手術を受け,30例が初回化学療法を受けた。
研究期間中,同部長らは全例に 8 サイクルの標準化学療法を実施した。さらに,半数を無作為に割り当て,標準化学療法に加えて 2 サイクルの大量化学療法を実施した。大量化学療法群には,その副作用を軽減するため,自身の骨髄または血液から採取した幹細胞の移植も実施した。
平均フォローアップ期間の6.5年後,乳癌の再発を標準療法群では19例,大量療法群では22例に認めた。さらに,標準療法群では14例,大量療法群では17例が乳癌の転移により死亡した。
3 年生存率は標準療法群で77%,大量療法群で58%だった。その結果,同部長らは「総体的な生存率の向上という点では,大量化学療法には標準化学療法を上回る効果はない」との結論に達した。

大量療法は控えるべきと警告
Hortobagyi部長らによると,癌が周辺部のリンパ節に広がった患者の予後は比較的不良だという。これまでの研究から,リンパ節転移が10個以上ある患者の60〜100%,初回化学療法後にリンパ節転移が 4 個以上ある患者の80%は,再発が予想されることが示されている。
この研究における大量化学療法の副作用の発現は従来の報告よりも少なかったが,1 例は治療薬の毒性により死亡した。全体として,標準療法よりも大量療法のほうが副作用を引き起こすことが多かった。
同部長らは「再発なしの生存率または総体的生存率という点で,高リスク乳癌に対して標準化学療法後に大量化学療法を 2 サイクル続けて実施することに実質的な利点があるという証拠はなかった」と報告。
3 年間再発なしの生存率は標準化学療法群で62%,大量化学療法群で48%と推定しており,「無作為試験で確実に有用であることが示されるまで,初発乳癌に対する大量化学療法の実施は臨床試験にとどめておくべきだ。現時点では,臨床現場においてルーチンで実施するだけの正当な有用性を示す証拠は不十分だ」としている。
キーワード 【乳癌に対する大量化学療法の検討】

[2000年5月25日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.21)【患者は医師に対してもっと積極的に意見を】
〔ニューヨーク〕 ベス・イスラエル・ディコネス医療センター実験医学主任を兼任するハーバード大学(ともにボストン)のJerome Groopman教授は,その新著『セカンドオピニオン』のなかで“患者の直感”を重要なテーマとして取り上げ,医療上の決定を行ううえで,患者の直感が患者および医師の双方にとってどれほど役立つかを論じている。

“セカンドオピニオン”を求めてもよい
同書第 1 章には,Groopman教授自身の子息が幼少時に救急治療室に搬送されたとき,担当のレジデントが過労のため睡眠不足の解消を優先させようとして,危うく手遅れになるところだったという衝撃的な逸話が詳述されている。そのレジデントは同教授と教授夫人(医師)に,腸閉塞の手術は「翌朝で間に合う」と断言したが,子息の症状が重篤であると感じた教授は専門医を呼んだ。手術はその夜のうちに行われ,子息は一命を取り止めた。同教授は,患者や両親が医師でなくても,自分の直感に従って別の医師によるセカンドオピニオンを求めてよい,と強調する。
同教授によると,「良い患者は受動的な患者である」という通念は全くの誤解であるという。「最良の医師は患者からの情報を求め,歓迎する。それによって医療を最善の形で行うことが可能になるからである」と同教授は述べる。
同書では,患者が医療に関して必ずセカンドオピニオンを求めるべき状況が概説されている。例えば,生命に危険が及ぶ恐れがある疾患,毒性の強い治療,不明瞭な診断,実験的治療などである。

同教授は「患者が自分の感情やニーズを礼儀正しく率直に表現し,セカンドオピニオンを求めたいと言ったとき,医師が怒ったり否定的な態度で対応したならば,それはその医師になんらかの問題があることを示す危険信号である」と述べている。 同書では随所に,教授が診療した症例とともに,教授自身の個人的な経験−医師が話を聞いてくれなかったとか,誤った決定を下したことなど−が記載されている。同教授は「私の母に関する話も書いた。母はアルツハイマー病であった自分の父親(私の祖父)を施設へ入所させるかどうかについて非常に悩んだ。そして,祖父や家族のニーズよりも自分の研究データへの関心を優先させる専門医の思いやりのなさが,意思決定の過程における苦しみを倍加させた」と述べている。

誤まった“直感”でも意味がある
同書では,医療において,もっと個々の患者に合わせたきめ細かなアプローチを行い,患者の参加を積極的に促すべきであることが強く主張されている。Groopman教授は「医師は,患者の直感に耳を傾けることによって,患者とパートナーの関係を築くことを目指すべきである。患者の直感がもし誤っていたとしても,医師に伝えることには意味がある。医師はそれについて考慮する機会を得るので,診断や治療選択に役立つこともある。医師が患者の直感の誤りを説明できないときは,患者はその直感を抱き続け,不安を感じて,医師の勧告に従わなくなることもあるかもしれない」と述べた。
同書で注目されるのは,同教授自身の腰部手術に関する治療選択の失敗が記述されていることである。教授は数人の専門医から,手術よりもっと時間を掛けてリハビリテーションによる非侵襲的治療を行うことを勧められたが,それを拒否して手術を選択した。その結果,現在でも合併症に苦しんでいる。「若いころ,私は医学的な問題にはすべて医学的な治療方法があると考えていた。このとき私は,最も劇的で一見効率的に見える物事のやり方には隠れた危険が内在しているということを学んだ」と述べている。

同書はViking Penguin社(ニューヨーク)から出版されている。243ページ。価格は24.95ドル。
キーワード 【患者・医師・積極的に意見交換を】Viking Penguin社新著『セカンドオピニオン』

[2000年6月8日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.23)【医療過誤増加を食い止める6段階のアプローチ】
〔ニューヨーク〕 医療過誤は起きてはならないことだが,これを減少させる方法としてはミスを犯した医療従事者個人を責めるのではなく,システムを改善して医療ミスが起こりにくい環境をつくることが肝要である。テキサス大学(テキサス州オースティン)心理学のRobert L. Helmreich教授らはBritish Medical Journalの論評(BMJ,320:781-785)のなかでこのように主張した。

個人を責めても再発を防げない
BMJに今回記載された一連の論文ではさまざまな角度から医療過誤問題に取り組んでいる。Hel-mreich教授の主張はこれらの研究の統一見解でもある。論文のなかで検討されている対策のうち,話題となっている方法はベッドサイドでの処方をコンピュータ化すること,救急医によるX線写真読影を改善すること,航空会社が使用しているエラー報告システムを採用することであった。同教授は航空業界と医療業界とを比較し,パイロットと医師の両者が「チームとテクノロジーとが相互に影響し合う複雑な環境のなかで仕事をしている」状況を検討し,パイロットと医師は「対人関係の問題点が共通で,プロを養成する方法も似ている」と概説した。さらに同教授は「航空も医療も安全性が最優先事項であるが,“コスト上の問題が安全追求の方針に影響することがある”」と述べている。
同教授が例示した数件の医療事故症例では,当初は 1 人の医療従事者によるミスとされたが,その後詳細に調査したところ,システム上の欠陥がいくつも重なったせいであると判明した。同教授はこのような背景に潜む問題点への取り組み方として,エラー管理における 6 段階のアプローチ法を提唱している。

6 段階の第 1 段階に含まれるものはヒストリーと検証であり,その後に診断が続く。同教授は「ヒストリーにはその組織や組織の典型的行動様式,スタッフに関する詳細な情報も含まれていなくてはならない」とし,第 2 段階は「検出された潜在性因子に対処すること,組織文化および職業的文化を変えること,明確な行動規準を設けること,エラーに対して懲罰を課さないこと(ただし,安全上の規範に反する行為は例外)である」としている。残りの 4 段階は,
(1)チームワークにおける正式な訓練を行い,エラーの質,人間の行動の限界を知らしめること
(2)対人関係および技術面の補強とフィードバックを行うこと
(3)エラー対策を講じること
(4)再訓練およびデータ収集を通じ,組織的関与を継続すること である。

同教授は「組織文化および職業的文化がエラーが避けられないということ,およびエラー対処に関する信頼しうるデータの重要性を受け入れるならば,安全性を向上させようとする系統的な努力により,有害事象の発生頻度および重症度を軽減できると信じている」とコメントしている。

責任は監督者・管理者に
同誌の付随論評(320:730)の著者の 1 人,ケアグループおよびベス・イスラエル・ディコネス医療センター(ボストン)の最高経営責任者(CEO)James L. Reinertsen氏は「入院患者が不運にも害を受ける確率は 3 %以上で,おそらくはずっと多いだろう。患者に危害をもたらす原因のうち,最も一般的で予防可能な単一の原因は投薬ミス−つまり,薬剤の種類の間違い,投与量の誤り,投与経路のミス,違う患者への処方,投与時間の間違い−である」としている。
同氏は「医療過誤発生の責任を負う立場にある不運な個人を責めるのではなく,その個人が働いているプロセスやシステムの安全性に関して,その医療システムの監督者や管理者が個人的責任を負うべきだ」としている。同氏は医療過誤再発防止に必要なアプローチ法として,「エラーが発生したとき,だれかを責めたりもみ消そうとするのではなく,学習し予防することを考えなくてはならない」と結論付けた。
キーワード 【医療過誤増加を食い止めるアプローチ】

[2000年6月8日]
(Medical Tribune VOL.33 NO.23)【乳房撮影検査は乳癌による死亡を抑制しない】
〔ニューヨーク〕 ノルディック・コクランセンター(デンマーク・コペンハーゲン)のPeter Gotzsch博士およびOle Olsen博士は,The Lancet(8:80-85,129-130)に,乳癌スクリーニングのためのルーチンの乳房撮影検査では命を救うことはできないと報告した。両博士によると「乳房撮影検査による乳癌のスクリーニングは正当化されない」が,この報告については米国癌学会(ACS,ジョージア州アトランタ)から異議が出されている。

8件の研究のデータを再分析
Gotzsch博士らは,1999年にスウェーデンの全国乳癌スクリーニングプログラムが,同国の乳癌死亡率に対して効果がなかったことを報告。その後,以前実施された 8 件の乳癌スクリーニング研究のデータを再分析した。
再分析した研究 8 件のうち,参加者のリスクファクターの数と種類を一致させ,2 群(乳癌についてスクリーニングを受けた女性と受けていない女性)に適切に無作為化したものはわずか 2 件であった。これら 2 件の研究はカナダとスウェーデン・マルモで実施されたもので,スクリーニング群と非スクリーニング群について,乳癌の家族歴,乳房腫瘍の既往歴,妊娠,年齢,閉経,教育などの因子を一致させていた。しかし,残る 6 件の研究では,乳癌のリスクファクターに関して,スクリーニング群と非スクリーニング群でバランスが取れていなかったため,同博士らは,これら 2 組の研究を別個に分析した。カナダとスウェーデンの研究から,乳房撮影検査は,乳癌で死亡する女性の数に対して何の効果も持たないことが示された。
これに対し,無作為化が不適切だった 6 件の試験では,乳癌死亡率は25%減少したが,乳癌のスクリーニングを受けた女性では全死亡リスクも増加した。同博士らは,これらの研究のなかには「12年間でスクリーニングした女性1,000例につき,乳癌による死亡が回避されたのは 1 例であったが,死亡総数は 6 倍になったものもあった。スクリーニングプログラムの影響というものがあるなら,それは小さく,恩恵効果と有害作用のバランスは非常に微妙である」と結論している。

“同意できない”の反論も
米国癌学会のRobert Smith癌スクリーニング部長は「この新しい研究は,乳房撮影検査の有効性に疑問を呈しているのだろうか。私の答は強いノーである。これらの試験は,このような議論のなか,何年間も分析・再分析され,詳細に調査されてきた。乳房撮影検査で生命が救われることに何の疑いもない。症状が発生する前に乳癌が発見された場合,治療の成功率は高くなる。この結果には全く同意できない」とコメントした。

付随論説のなかで,ロッテルダム公衆衛生局(オランダ)のHarry de Koning博士は「癌のスクリーニング試験およびプログラムを設計し,実施して評価することは大変な作業である。また,データの評価や発表はできるだけ正確でなければならない」としている。しかし,de Koning博士は,6 件の試験の無作為化の過程は,両博士らが主張するほど欠点があるわけではなく,乳房撮影によるスクリーニングは,両博士らが報告しているよりも大きな影響を持つ可能性があると反論している。
キーワード 【乳房撮影検査と乳癌死亡率】







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