1999-01〜1999-04記事

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00(Medical Tribuneなどの記事)【はじめに】今まで 一般(どなたでも)参照可能であったMedical Tribuneの記事が2000年9月28日から、メディプロという会員制(ID+パスワードが必要)サイト内に移行してしまいました。
情報公開IT革命という世の中に於て、残念でなりません。そこで乳癌に関連したニュース (一般雑誌より参考になり得る情報)をここにセレクトし、upしました。  尚、ここに転記したり転載したる責任の所在は吉利です。 Medical Tribune誌関連の方、もし転載に問題がございましたら、 webmaster@prodr.com(吉利)までお願いします。

☆(Medical Tribune Vol.31, No.10,)【心理療法で乳癌患者の予後が改善】
米国放射線療法・腫瘍学会の年次集会での研究、スタンフォード大学精神科のDavid Spiegel教授らは、 乳癌患者に心理療法が有用であることを示唆する報告をした。教授らは、1年間の集団心理療法を受けた 転移性乳癌患者と受けなかった症例について、集団心理サポート療法が患者に及ぼす生理的効果を分析し 両群の生存率とクォリティオブライフ因子を比較した。

結果:集団心理療法を受けた症例群は受けなかった症例群と比較し平均して18ヶ月も長く生存した。

注記:このことは、乳癌というホルモンの関係する腫瘍では、心理的なサポートが重要に思われる。 この逆の反論報告は2000-11/5現在報告されていない。故にHANAさんBBSのポリシーが正しいと思う。
Spiegel教授の報告をサポートしている本:HANAさん推薦のこの一冊; ディーン・オーニッシュ著「愛は寿命をのばす - からだを癒すラブ・パワーの実証的研究 - 」 光文社
キーワード 【乳癌・心理的サポート】このDavid Spiegel教授の記事を元に、雑誌より転載しています。

(Medical Tribune Vol.32, No.01, )【正確な乳房X線検査にはタイミングが重要】
月経周期前半が精度高い
〔ニューヨーク〕 フレッドハッチンソン癌研究センター(ワシントン州シアトル)のEmily White博士は,乳房の密度がホルモンに依存し,月経周期中に変動することをJournal of the National Cancer Institute(90:906-910,1998)に報告。40歳代の女性の乳房X線検査で正確な結果を得るためには,月経周期の前半に検査を行うほうがよいと主張している。

後半は乳房密度が高い
 White博士らは,外因性のホルモンを使用していない40〜49歳の閉経前女性2,591例を対象に試験を行い,月経周期の後半に乳房X線検査を受けた女性は,前半に同検査を受けた女性よりも,乳房の密度が高い傾向があった。  また,月経周期の 1 週目と 2 週目に乳房X線検査を受けた女性では,乳房の密度が非常に高い割合はそれぞれ24%と23%であったが,3週目と 4 週目に受けた女性では28%であった。  女性が月経周期の卵胞期であるか黄体期であるかは,最終月経と月経周期についての自己報告から判断したという。

 同博士は「今後の研究でこれらの結果を確認できれば,乳房X線検査を月経周期の前半に行うことによって,40歳代女性の同検査の精度は向上するだろう」と報告し,会見では「われわれは,月経周期の前半に乳房X線検査を行うことで精度が向上することを示した。これには恩恵はあるが,損なわれるものは何もない」と語った。  同誌の論評によると,この差はわずか約 4 %であるが重要であるという。

密度には個人差も
 トロント大学(カナダ・トロント)のCornelia J. Baines博士は「何百万という女性が40歳代に乳房X線検査によるスクリーニングを受けるよう奨励されているので,わずかとはいえ効果があることは重要である」と述べた。  同博士は昨年,40歳代初めの女性は,月経周期の後半に乳房X線検査を受けると,偽陽性となる確率が 2 倍となることを示す知見を発表した。
 米国対がん協会(ACS,ジョージア州アトランタ)は40〜49歳の女性には年 1 回の乳房X線検査を推奨しているが,米国立癌研究所(NCI,メリーランド州ベセズダ)は 1 年か 2 年ごとに乳房の検査を行うことを勧めている。

 今回の研究では,乳房密度の差はすべての女性で同等ではないため,White博士らは,被験女性をBMI(body mass index)によって 2 群に分けた。乳房X線検査を行った時期によって乳房の密度に有意な差が出たのは,比較的やせた女性だけであった。
 アラバマ大学(アラバマ州バーミングハム)放射線学のPeter Dempsey教授は,今回の研究知見に納得していない。同教授は「乳房の密度によって,どの程度乳房X線検査像が変化するかについては,科学界で意見の一致が得られていない」と述べた。  しかし,長期統計から,乳房X線検査によって40歳代女性の癌死亡を減少させうることが明らかにされたのは確かである。
 同教授は「40歳代の女性は,年 1 回の乳房X線検査を受けることが必要だ」と忠告した。
キーワード 【正確な乳房X線検査・タイミング】

[1999年1月14日]
(Medical Tribune Vol.32, No.2, )【乳房切除術後の放射線療法で死亡率が低下】
〔米アリゾナ州フェニックス〕 当地で開かれた米国放射線療法・腫瘍学会(ASTRO)の第40回年次集会でオーフス大学病院(デンマーク・オーフス)の腫瘍学者Marie Overgaard博士は,乳癌患者に対して乳房切除術後に放射線療法を実施すると再発率が低下し10年生存率が向上する,と報告した。

早期癌患者に有用
 Overgaard博士は「乳房切除術を行った患者には,心疾患,肺損傷,腕の腫脹を含む副作用のほうが治療効果を上回るとの考えから放射線療法が行われないことが多い」と述べた。  実際に,いくつかの研究の解析結果から,乳房切除術後に放射線療法を実施した患者群のほうが非実施群よりも乳癌が原因の死亡率は低いが,心不全による死亡率は高いことが示された。  しかし,同博士がデンマーク人の女性乳癌患者3,000例を対象として長期試験を行ったところ,乳房近傍に癌を再発しなかったのは化学療法のみを実施した単独療法群では56%だったのに対して,化学療法と放射線療法との併用群では88%だった。

 同博士は「ほとんどの患者で最低10年間以上のフォローアップを行ったところ,単独療法群よりも併用療法群のほうが乳癌による死亡率は約45%,全死亡率は26%低かった」とし,「試験対象の大部分は高リスク女性,すなわち腫瘍直径が 5 cmを超えるもの,または癌が浸潤していると思われるものだが,放射線療法が最も有用なのは早期癌の患者であると思われる」と述べた。

米国内では議論も
 Brigham and Women's病院(ボストン)放射線腫瘍学のJay R. Harris部長は「この試験によって乳房切除術後の放射線療法が生存率の向上に有用であることがはっきりと示された」としたうえで,「注目すべきことに,この試験で米国内に大きな議論が起こった」と述べた。しかし,その議論は多くの放射線腫瘍学者にとってそれほど驚くべきことではなく,彼らは「臨床試験によると,米国人女性は欧米人女性よりも原発部位の近傍に新たな癌を発症する確率がずっと低いと思われる」と指摘している。
 フォックス・チェイス癌センター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)放射線腫瘍学のBarbara Fowble臨床部長は「癌再発に対する局所的管理がケアには必要だという方針を疑ってはいない」としながらも,「当センターの局所再発率はもっと低い。おそらく,より良い手術を実施しているためだろう。局所再発の全リスクが低いほど放射線療法の有用性は低く,リスクのほうが有用性を上回る可能性がある」と指摘,「おそらく乳房切除術後の放射線療法は,癌が非常に大きい,または乳房下の筋組織まで浸潤しているとの理由で放射線療法を既に実施している患者に対してのみ有用だろう」と述べた。
 米国では乳房切除術後の放射線療法をより詳細に検討する臨床試験が計画されている。
キーワード 【乳房切除術後の放射線療法】

[1999年1月21日]
(Medical Tribune Vol.32, No.3, )【乳癌の早期診断に乳房触診も有用】
〔ベルリン〕 早期健診によって発見された癌は予後が良い─。アーヘン腫瘍センターのAngela Spelsberg博士らは,大腸癌や直腸癌,乳癌などについて実施した調査結果を,第23回ドイツ癌学会で報告。乳房触診も有用であることなどを明らかにした。

診断方法による違いを認めず
 アーヘン腫瘍センターでは,1991年から95年までに診断が確定した結腸癌,直腸癌,乳癌の全症例について解析を行った。法律で定められた早期健診で発見されたのは,結腸直腸癌の約 3 %,乳癌の約16%にすぎなかったが,これらの群においては,予後的にも有利な早期癌の占める割合が有意に高かったことが判明した。  アーヘン工科大学病理学研究所が,1995年からアーヘン腫瘍センターと共同で行った,癌の新発症例に対するプロスペクティブ研究でも,早期健診によって早期癌が発見される傾向が大きくなるという結果が得られた。乳房X線撮影を含む医師のスクリーニングによって,ステージT1で発見される癌の割合はほぼ倍増したという。

 ドイツでは,まだ乳房X線撮影は法的早期健診のプログラムに入っていないが,精密検査を必要とする所見が得られていない健常女性に対してまで乳房X線撮影が実施されているのが実情である。  しかし,今回の研究によると,診断方法によって,発見された乳癌のステージ分布が異なることはないという。触診による診断精度が乳房X線撮影と比べて劣るというデータは得られていない。また,乳癌と診断される 5 年前から定期的に早期健診を利用していても,発見時の癌が 2 cm以下である割合は50%以下であった。一方,オランダでは,欧州ガイドラインに準拠して,乳房X線撮影スクリーニング・プログラムが実施されているが,発見された乳癌の76%が早期癌であったという。
キーワード 【乳癌の早期診断に乳房触診】

[1999年1月28日]
(Medical Tribune Vol.32, No.4, )【乳癌と遺伝子の関係はそれほど強くない】
〔ニューヨーク〕 一般通念に反して,ある種の遺伝子変異を有する女性の乳癌リスクはそれほど高くない可能性が報告された。アイスランド癌協会分子・細胞生物学研究所(アイスランド・レイキャビク)のJorunn E. Eyfjord博士らは,これまでの研究には欠陥がありBRCA1およびBRCA2遺伝子は乳癌のリスクには無関係かもしれないことをThe Lancet(352:1337-1339,1998)に発表した。

発症率は37%
 最近の数件の研究から,これら遺伝子に変異がある女性の90%が最終的に乳癌を発症することが示されている。しかし,Eyfjord博士らは,BRCA2遺伝子に変異を有する者のうち,乳癌を発症するのはわずか37%にすぎないことを示した。  同博士は「これまでのところ,BRAC1およびBRAC2の遺伝子変異保有者の乳癌リスクの大部分は,高リスク家族に基づいて推定されたものである」としている。  米国立癌研究所(NCI,メリーランド州ベセズダ)のスポークスマンMike Miller氏は「米国の女性に関しては,乳癌発症のリスクは約 8人に 1 人である」とコメント。米食品医薬品局(FDA)は先ごろ,高リスクの女性に対する乳癌予防薬としてタモキシフェンを承認した。

 Eyfjord博士らは575例の乳癌患者および近親者を調査した。このうち女性は541例であった。541例の女性を検査したところ,10%にBRCA2遺伝子に癌にかかわる変異があった。男性の乳癌患者では38%に同じ変異があった。  遺伝子変異を有する男女の乳癌リスクは,50歳までで17%,70歳までで37%と判明した。女性だけに限ると,乳癌リスクは50歳までで15%,70歳までで35%であった。  同博士は「70歳までのリスクが37%というのは依然として高い。特に,各症例の家族歴を調査することは非常に重要である。しかし,遺伝子変異の保有者である,というだけではカウンセリングする理由として十分ではない」と説明した。

予防法がないことが問題
 ピッツバーグ大学医療センター/マクギー女性病院(ペンシルベニア州ピッツバーグ)総合乳腺プログラムのVictor Vogel局長は「乳癌の遺伝的原因を発見しようとしている研究者にとって,この新たなデータは非常に重要であるが,女性個人にとってはほとんど影響がないだろう。今回の研究はBRCA2遺伝子の 1 つの変異に注目したもので,その結果は必ずしも他の変異に対して適用できない」と述べた。  しかし,Shaare Zedek医療センター(イスラエル・エルサレム)のJonathan Halevy院長は「ある女性に,“あなたには遺伝子変異があるので,乳癌リスクが高くなります”と告げることはできても,実証された予防法を提示することはできない。15歳の少女,あるいはその両親に,50歳までに乳癌を発症する確率は15%である,と告げることができても,医師はこれに対して何ができるだろうか。6 か月ごとに乳房撮影を行うのか。これは高価で,このような若年者には効果があることが証明されていない」と述べた。
キーワード 【乳癌と遺伝子の関係】

[1999年1月28日]
(Medical Tribune Vol.32, No.4, )【医師の乳癌診断・治療技術が向上】
〔ニューヨーク〕 米国ではこの10年間に,乳癌の診断・治療に対する医師の技術が向上しているとの報告が,ブラウン大学およびロードアイランド病院(ロードアイランド州プロビデンス)外科のKirby I. Bland博士らによって,Cancer(83:1262-1273,1998)に発表された。

0期の10年生存率は95%
 Bland博士らが,1985〜95年にかけて約2,000の病院で治療を受けた乳癌患者24万例以上について,データを詳しく調査した結果,95年には乳癌患者の約50%が初期の 0 期および 1 期の段階で診断されていること,またこれら乳癌患者の58%が乳房温存療法による治療を受けていることが明らかになった。  データによると,最も初期の段階である 0 期の乳癌と診断された患者の10年生存率は95%,1 期の乳癌患者では88%だった。
 この報告は,米国外科医学会の癌委員会と米国対がん協会によって編集されたもので,同博士は「乳癌治療を行っている他病院の基準となるものだ」と付記している。
キーワード 【乳癌診断・治療技術】

[1999年2月4日]
(Medical Tribune Vol.32, No.5, )【HRTは乳癌の生存率に影響を及ぼさない】
〔ニューヨーク〕 フォックスチェイス癌センター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)放射線腫瘍学のBarbara Fowble臨床部長によると,ホルモン補充療法(HRT)による治療歴は,乳癌の 5 年および10年生存率に影響を及ぼさない。また,実際にはHRT治療歴のある閉経後の女性は,HRT未治療の女性よりも転移癌が少ないようだ。同部長は「これらの差は,腫瘍診断の経緯,サイズおよび悪性度,またはそれまでに受けた治療の種類などの他のファクターが原因ではなかった」と言う。

癌発見にも支障ない
 Fowble部長が追跡調査した閉経後の女性485例のうち,141例はHRTを実施中または治療歴(乳癌の診断後はHRTを中止)があった。  同部長は「HRT治療を受けていると,乳房撮影法による癌の発見がより困難になるとする研究結果も報告されているが,われわれの検討では,両群とも同様であった。これは,HRTが癌発見の妨げにはならないことを意味している」と発表した。
 しかし,同部長は「HRT治療歴のある女性はHRT未治療の女性に比べ,同じ乳房における癌再発が若干多く報告されている。10年後の再発率がHRT治療群では 8 %であったのに対し,非治療群ではわずか 2 %にとどまった」と指摘。しかし,「HRT治療群における再発率の上昇はわずかなので,同群の患者に治療としての乳房切除術を勧めることはない」と述べた。

 さらに,同部長は「更年期症状の軽減,心疾患および骨粗鬆症のリスク低下など,HRTの恩恵を受けるために同治療法を受けることを選択した女性たちは,乳房撮影法で癌を発見することが可能で,乳房温存療法も可能なことを知っておくべきだ」と付け加えた。
キーワード 【ホルモン補充療法(HRT)による治療歴】

[1999年2月11日]
(Medical Tribune Vol.32, No.6, )【早期乳癌にも化学療法の多用を】
めまぐるしく変わる治療法
〔ニューヨーク〕 欧州腫瘍研究所(伊ミラノ)のAron Goldhirsch博士の率いる国際的な専門家委員会は,1998年 2 月にスイスのザンクトガレンで開催された乳癌会議で発表された知見に基づいて,早期乳癌の治療方針を定めた新ガイドラインをJournal of the National Cancer Institute(90:1601-1608,1998)に発表した。同ガイドラインの推奨項目に従えば,再発防止を目的とした化学療法がさらに広く用いられるようになるかもしれない。
 しかし,2 月の会議に出席したアラバマ大学(アラバマ州バーミングハム)総合癌センターの血液学・腫瘍学部門の上級科学者であるJohn T. Carpenter, Jr.教授は「1998年に乳癌治療が大きく発展したことを考えると,新ガイドラインは既に時代遅れのものだ」と述べた。

再発率基準に化学療法を推奨
 1995年に発表された旧ガイドラインでは,10年間の死亡リスクが10%を上回る乳癌患者に化学療法を推奨していた。しかし,今回の新しいガイドラインでは,癌再発のリスクが10%を上回る乳癌患者に化学療法を行うように勧めている。  米国立癌研究所(NCI)によると,これは一見したところわずかな変更だが,大きな影響を及ぼすかもしれないという。たとえ癌で死亡するリスクが低くても,再発のリスクが10%を上回ることがしばしばあるからだ。  今回のガイドラインでは,化学療法を推奨するほかに,タモキシフェンおよび死亡・再発のリスクを予測する技術など,癌の治療および発見に関して多くの分野についても取り上げている。

 NCIのJoAnne Zujewski博士およびEdison T. Liu博士によると,化学療法のガイドラインの変更は,乳癌の治療には癌による死亡の防止以上の意味があるとの認識に基づいて行われた。  両博士は,今回の論文の付随論評で「癌からの解放が,治療の目的として認識されつつある」と指摘。「委員会の推奨法は理にかなっているが,今後乳癌に関する研究者たちの理解が深まるにつれ,変更せざるをえなくなるだろう」と述べた。

1998年は乳癌研究飛躍の年
 しかし,別の乳癌の専門家は,このガイドライン自体が既に古いものだと指摘している。Carpenter教授は「会議が開催された1998年 2 月の時点では,今回の論文は素晴らしいものだったが,乳癌研究では,その後多くの進展があった」とコメント。「その好個の例がタモキシフェンだ。会議以降に発表された研究では,タモキシフェンがだれも予測できなかったほど有効なことが明らかにされており,癌の治療に多大な影響を及ぼしている」と説明した。
 さらに,同教授は「新しいガイドラインよりも,それらの知見のほうが,タモキシフェンの使用が患者に適切かどうかを決定するうえで,大きな役割を果たすだろう」と述べた。ちなみに,米食品医薬品局は,タモキシフェンの乳癌予防を目的とした使用を1998年10月に承認した。  さらに1998年には,化学療法の理解において大きな発展があった。例えば,同年に発表された研究結果は,化学療法によって最も恩恵を受けるのがどのような患者かをさらに理解するうえで役立っている。

 同教授は「1998年は,この分野でいろいろな研究成果が目白押しで発表されたため,そのたびに対応していたら,3 か月ごとにガイドラインを改訂することになっていただろう」と述べた。
キーワード 【早期乳癌にも化学療法】

[1999年2月18日]
(Medical Tribune Vol.32, No.7, )【よく焼いた肉で乳癌リスクが高まる】
〔ニューヨーク〕 よく焼いた牛肉やベーコンは乳癌発症のリスクを高めるかもしれないという研究が,サウスカロライナ大学公衆衛生学部(サウスカロライナ州コロンビア)のWei Zheng博士らによってJournal of the National Cancer Institute(90:1687-1689,1724-1729,1998)に報告された。この研究によると,ウェルダンの肉を食べる人は,ミディアムまたはレアの肉を食べる人に比べて約 5 倍も乳癌のリスクが高くなるという。この研究に関係していない研究者は「非常に刺激的な内容だ」と述べた。

焼き具合は写真で確認
 報告では273例の女性乳癌患者と657例の健常女性に,肉の摂取と調理ならびに肉をどの程度に焼くのが好きかを調査した。以前の研究では,高温で肉を調理するとできる複素環式アミンと癌との関連性が示唆されていた。論文の筆頭著者であるZheng博士によると,ありふれた複素環式アミンをラットに食べさせると乳腺組織に腫瘍が発生することが,他の研究で明らかにされているという。
 今回の研究の被験女性は,さまざまにカットされた牛肉,豚肉,鶏肉,七面鳥肉,魚および鹿肉の摂取状況について尋ねられた。カットされた肉の焼き具合についての一致を確認するために,研究者はハンバーガーやビーフステーキでは 4 種類,ベーコンでは 3 種類の焼き具合を示すカラー写真を提示している。
 同博士らは,非常によく焼いたハンバーガーやビーフステーキ,ベーコンを食べる女性は,より生に近い肉を食べる女性よりも4.6倍乳癌になりやすいことが分かったと述べた。
 研究者らはまた,乳癌を発症した女性は健康な女性に比べて,平均するとより多くの肉を摂取していたことも明らかにしている。一方で,今回の報告では,従来の説とは反対に,高脂肪食や高カロリー食の女性では癌のリスクは増加しないことも指摘した。
キーワード 【よく焼いた肉】

[1999年3月4日]
(Medical Tribune Vol.32, No.9, )【レーザーで瘢痕を残さず乳腺腫瘍を切除】
新技術により10分で癌組織を焼灼
〔シカゴ〕 従来の乳癌切除術には瘢痕を伴うが,アーカンソー大学(アーカンソー州リトルロック)放射線医学のSteven Harms教授らは当地で開かれた北米放射線学会(RSNA)の第84回年次集会で,実験的レーザー・アブレーション法を用いて瘢痕を残さず乳腺腫瘍を根絶することに成功したと報告した。

MRIガイド下でレーザー照射
 Harms教授らの新しい方法は,rotating delivery of excitation off-resonance(RODEO)法と呼ばれる特殊な磁気共鳴画像法を使用している。RODEO法は腫瘍を乳腺組織と明瞭に区別することができ,癌組織アブレーションのモニタリングも行うことができる。  同教授らは局所麻酔下で腫瘍に18G針を留置して光ファイバー・フィラメントを挿入し,レーザーを約10分間照 射。RODEO法で腫瘍アブレーション中の画像をモニタリングした。  同教授は乳癌女性15例を対象として,従来の切除術に先立って外来でレーザー・アブレーションを実施した。手術後に乳腺組織サンプルを検査してレーザー療法の有効性を検討したところ,RODEO法により同定されレーザーを照射した組織はすべて破壊されていた。ほとんどの患者はレーザー療法の翌日には回復した。同教授は「 1 例はレーザー療法後直ちに仕事に復帰した。乳癌切除術とは隔世の感がある」と述べた。

 同教授は「1999年には試験を開始し,レーザー療法が乳房温存術に代わる有効な方法かどうかを検討したい」と述べた。乳癌の再発予防に関して,レーザー療法は乳房温存術に比べてどの程度有効かを検討するのが重要な研究目的となる予定。 同教授によると,従来の治療法では,乳癌患者の 5 年後の再発率は 5 〜10%であるという。

重要だが未知の問題も
 Brigham and Women's病院(ボストン)総合乳房保健センターのCarolyn Kaelin所長はこの方法を称賛し,「現在の方法をより良くしうることは何でも試す価値がある」と述べた。  しかし,この研究は予備的なもので,死滅した腫瘍組織はどうなるのかといった,重要だが未知の部分がある。同所長は「硬結となる場合,その硬結がレーザー療法により遺残したものか再発腫瘍かを,乳房の触診または乳房撮影法で鑑別できるかどうか明らかではない」と述べた。
 Harms教授は「われわれが 3 年間で乳腺の線維腺腫24例に対してレーザー療法を実施したところ,焼灼組織は数週間で吸収されることが分かった。乳癌組織でも同様だろう」と述べた。
 Kaelin所長によると,この治療法では瘢痕を生じないが,腫瘍切除部に空洞形成が懸念される。空洞が形成されれば,周囲組織が潰れて乳房の輪郭が変形し,美容上望ましくない結果を招く可能性がある。  同所長は,化学療法またはタモキシフェン処方の是非を決める要因である腫瘍サイズの確認に対するRODEO法の信頼性についても疑問を投げかけている。一般にいずれの治療法も,1 cmを超える乳腺腫瘍の場合,またはそれより小さくても腋窩リンパ節に腫瘍細胞を認める場合に行われる。
 同所長は「もう 1 つの疑問は,ほとんどの乳癌患者で乳房温存術後には放射線療法の実施が望ましいが,レーザー療法後の放射線療法は有用かどうかということだ」と述べた。  Harms教授は「補助療法はすべて,腫瘍を外科的に切除した場合と同様に実施されるべきである」と述べた。
キーワード 【レーザーで乳腺腫瘍を切除する方法】

[1999年4月1日]
(Medical Tribune Vol.32, No.13, )【乳電図による癌検査に期待】
皮膚表面からの診断が可能に
〔ロンドン〕 乳癌を心筋梗塞と同様に“電気的に”診断するというエレガントな方法が間もなく実用化されるかもしれない。英国癌研究財団(ロンドン)数学・統計学・疫学部門のJack Cuzick博士は「正常乳房細胞の場合と違って,乳癌細胞では細胞膜が脱分極するため,電位差測定を実施すれば皮膚表面から病変部位の診断が可能となりそうだ」とThe Lancet(352:359-363,1998)で報告している。

“脱分極スコア”を算出
 医師または患者自身が乳房にしこりを触れたり,乳房X線撮影で疑わしい部位が発見されると,一連の乳癌検査が開始される。超音波検査に始まって穿刺吸引細胞診,切開生検に至るまで,行わなければならない検査は多く,患者の精神的苦痛やコストも無視できない。
 しかし,Cuzick博士は,乳房実質の癌細胞は脱分極するが,その模様は上部の皮膚面から検知できることに着目。乳房切開生検が予定されている661例を対象に,電位測定を実施した。乳癌が疑われる部位の皮膚面に 1 個のセンサーを取り付け,さらに 7 個をその周囲に,1個を腋窩部に取り付けた。また,てのひらにもコントロール用のセンサーを 1 個取り付けた。患側の測定が終わると,健側に対しても全く同じ手順で測定を繰り返した。次に,乳房誘導で測定した電位をコントロール用センサーの電位と比較して電位差を求め,脱分極スコアを算出した。
 その結果,異型−上皮内癌−浸潤癌と乳房細胞の病変の度合いが大きくなるにつれて電位差も大きくなることが判明。電位差測定によって,病変巣の種類に関する情報を得ることができた。とりわけ,触診でしこりを触れる場合に最も有効で,年齢を加味した評価では感度90%,特異度55%という成績が得られた。
 今後,乳癌患者の割合の低い集団を対象に,電位差測定を実施してみる必要があるが,もしこの検査法の有用性が実証されれば,非侵襲的で放射線被曝も伴わないことから,その恩恵は計り知れないほど大きいと言える。
キーワード 【乳電図による癌検査の事】

[1999年4月1日]
(Medical Tribune Vol.32, No.13, )【殺虫剤のディルドリンが乳癌リスクを増大】
〔ニューヨーク〕 有機塩素系殺虫剤であるディルドリン(日本では1971年以降使用禁止)などが乳癌の発症リスクを高めることを,コペンハーゲンプロスペクティブ人口研究センター(デンマーク)のAnnette P. Hoyer博士らがThe Lancet(352:1816-1820,1998)に発表した。

デンマークでリスクが2.25倍
 今回の研究では乳癌に罹患したデンマーク女性240例と非罹患女性477例を検討した結果,乳癌女性では使用禁止となった殺虫剤ディルドリンに曝露されてきた割合が有意に高いことが判明した。  ディルドリンの血清濃度が最も高い群の乳癌発症リスクは,同濃度が最も低い群の2.25倍だった。今回の研究では,ポリ塩化ビフェニル(PCB)や殺虫剤のジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)など他の化学物質についても検討したが,乳癌リスクへの影響が見られたのはディルドリンのみだった。

 米国立環境衛生科学研究所(ノースカロライナ州リサーチトライアングルパーク)乳癌研究プログラムのGwen Collman部長は「乳癌のリスクファクターとして知られるものは数多く,環境因子が乳癌発症のきっかけとして大きな役割を担う可能性はある」としたうえで,「これらの化学物質に起因したリスクについて,過去の研究では相反する結果が示されていた。しかし,最近のほとんどの研究では,これらの化学物質への曝露と乳癌との関係はほとんど,あるいは全くないとの結果が得られている」と述べた。なお,これら化学物質の使用は既に禁止されており,女性がこれらにさらされる機会も年々減ってきている,と同部長は見ている。
キーワード 【 有機塩素系殺虫剤】







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