1998-01〜1998-05記事

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00(Medical Tribuneなどの記事)【はじめに】今まで 一般(どなたでも)参照可能であったMedical Tribuneの記事が2000年9月28日から、メディプロという会員制(ID+パスワードが必要)サイト内に移行してしまいました。
情報公開IT革命という世の中に於て、残念でなりません。そこで乳癌に関連したニュース (一般雑誌より参考になり得る情報)をここにセレクトし、upしました。  尚、ここに転記したり転載したる責任の所在は吉利です。 Medical Tribune誌関連の方、もし転載に問題がございましたら、 webmaster@prodr.com(吉利)までお願いします。

☆(Medical Tribune Vol.31, No.10,)【心理療法で乳癌患者の予後が改善】
米国放射線療法・腫瘍学会の年次集会での研究、スタンフォード大学精神科のDavid Spiegel教授らは、 乳癌患者に心理療法が有用であることを示唆する報告をした。教授らは、1年間の集団心理療法を受けた 転移性乳癌患者と受けなかった症例について、集団心理サポート療法が患者に及ぼす生理的効果を分析し 両群の生存率とクォリティオブライフ因子を比較した。

結果:集団心理療法を受けた症例群は受けなかった症例群と比較し平均して18ヶ月も長く生存した。

注記:このことは、乳癌というホルモンの関係する腫瘍では、心理的なサポートが重要に思われる。 この逆の反論報告は2000-11/5現在報告されていない。故にHANAさんBBSのポリシーが正しいと思う。
Spiegel教授の報告をサポートしている本:HANAさん推薦のこの一冊;ディーン・オーニッシュ著「愛は寿命をのばす - からだを癒すラブ・パワーの実証的研究 - 」 光文社
キーワード 【乳癌・心理的サポート】このDavid Spiegel教授の記事を元に、雑誌より転載しています。

(Medical Tribune Vol.31, No.03, 1998)【長期HRTの乳癌リスク論争に終止符か】
〔ニューヨーク〕 王立癌基金研究所(英オックスフォード)疫学部門のValerie Beral博士らは『Lancet』(350:1047-1059,1997)に「長期間に及ぶホルモン補充療法(HRT)により,閉経後の女性における乳癌のリスクが増大することが明らかになった」と発表。両者の関係については現在盛んに論議されているが,今回の解析結果により一応の終止符が打たれたことになりそうだ。

1年延長でリスクは2.3%増大
同博士らが,16万1,000人以上の女性を対象とした51件の試験データを解析したところ,現在HRTを受けている女性または 1 〜 4 年前に同療法を中止した女性では,使用期間が 1 年長くなるごとに癌と診断されるリスクが2.3%ずつ増大することが明らかになった。さらに,5年以上HRTを受けた女性の乳癌のリスクは他の患者に比べ35%も高かった。
通常,HRTを受けたことのない50〜70歳の女性では,1,000人当たり約45人が将来乳癌になると見込まれているが,同博士らは,HRTを継続すると,これが 5 年間で1,000人当たりさらに 2 人,10年間で 6 人,15年間で12人もその数が増加すると推定している。
しかし,同博士らは「乳癌のリスクはHRT中止後に低減し,中止後 5 年で影響はなくなる」と述べたうえで,「閉経時の年齢が高いほどリスクが増大し,1 歳の差が2.8%のリスク増大につながる。例えば,閉経後 5 年を経過した55歳の女性が癌になるリスクは,前年閉経したばかりの同年齢の女性に比べると低い」と報告している。

フレッド・ハッチンソン癌研究センター(ワシントン州シアトル)疫学のAndrea Z. LaCroix教授は「今回の知見は,ホルモン補充と乳癌のリスクに関してこれまでのなかでは最も優れたデータである」と評価。しかし「ホルモン補充との関連性は生物学的にも十分信頼性があるものの,過剰なリスクについては,確実に癌になると考えるのではなく,その可能性があると捉えるべきだ」とコメントしている。
今回の論文に対する付随論評を執筆した同教授は「医師には,5 年以上のHRT使用者における癌リスクの増大を示す疫学データの報告が相次いでいることを患者に忠告する倫理的責任がある」と指摘。さらに「骨折,心疾患および乳癌などを含め,ホルモン補充により影響されるあらゆる疾患について,女性たち自身もリスクを考えるべきだ」と述べている。

ハーバード大学(ボストン)のGraham A. Colditz准教授もこれに同意したうえで,「今回の試験でほぼ最終結論に達した」と述べ,「今後の課題は,エストロゲンの使用において,明らかにリスクを上回る効果が得られる患者群をいかにして明確にするかということだ。おそらく,骨粗鬆症や心疾患のリスクが高い女性がターゲットとなるだろう。ただし,心疾患についてはエストロゲンは二次的な予防法と考えるべきだ」と指摘している。
キーワード 【長期HRTの乳癌リスク論争】

(Medical Tribune Vol.31, No.04, )【術前化学療法で乳癌が縮小】乳房温存術実施率を高める
〔ニューヨーク〕 乳癌研究の草分けで,米国立癌研究所(NCI)National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)B-18臨床試験の科学主任を務めるピッツバーグ大学のBernard Fisher教授は『Clinical Oncology』(1997年 7 月15日号)で「術前化学療法を行えば乳癌の80%で縮小が認められる」と報告。腫瘍の大きさが 5 cm以上で,乳房切除術の典型的な候補である女性乳癌患者に術前化学療法(ドキソルビシン+シクロフォスファミド投与)を行ったところ,腫瘍サイズは多くの患者で縮小し,乳房温存術で十分なほどにまでなったという。事実,被験群での乳房温存術実施率は175%増加していた。

“明確で大規模な”研究
Fisher教授は「今回の研究からは局所反応に関する非常に優れたデータが得られたが,次のステップが非常に重要だ」と説明し,「従来のプロトコールを変更するのは時機尚早だ」と述べた。術前化学療法と乳房温存術の実施によって好ましくない結果が生じないことを確かめるため,長期臨床成績のデータと患者を分類してのさらなる研究が必要とされている。今後 6 〜 8 か月以内には,長期臨床成績のデータも入手できそうである。
B-18治験では,触知可能な原発性乳癌患者1,523例を無作為に 2 群に分け,術前化学療法または術後化学療法に割り付けた。また,50歳以上の患者全例を対象にタモキシフェン投与を行った。Fisher教授によると,化学療法の適用期間を術前か術後かのいずれか一方に特化させた“明確で大規模な”研究は他には類を見ないという。
同教授は「術前化学療法によって腫瘍が縮小するだけでなく,術前レジメンは腫瘍の薬剤への応答を判断するのに役立ち,悪性細胞が治療に対して感受性を示すのか耐性を示すのかの手がかりとなる」と指摘。「術後化学療法では,治療に対する反応を得るまで 5 〜10年待たねばならないが,術前化学療法を行えば腫瘍の反応をより早く得ることができる」と述べている。

サブグループ対象治験に期待
ハーバード大学共同放射線センター(ボストン)放射線腫瘍部のAbram Recht准教授は,付随論評で「今回のFisher教授らの報告を含めていくつかの報告をレビューした結果,単なる研究目的ではなく,実際の治療への適用を正当化する十分なデータがそろった」と評価している。
しかし,Recht准教授は「サブグループを対象とした分析がさらに必要だ」と指摘。「今回のレジメンが好ましくない結果に終わらないことを確認するには,長期フォローアップが不可欠だ」と述べている。
NCIのJeffrey Abrams上級研究員は「今回の研究は,腫瘍サイズの大きい女性にとって朗報であり,さらに個個の女性で化学療法がどのように作用するのかを研究するための土壌を提供するものだ」と述べた。しかし,同研究員は術前化学療法の有望性を手放しで称賛しているわけではない。昨年 5 月に開催された米国癌治療学会(ASCO)の年次集会で,Fisher教授らが発表した他の研究によると「 5 年間のフォローアップデータからは術前化学療法群における完全寛解生存率の改善は示されておらず,5 年生存率は両群ともに80%であった」という。同研究員は「今回のデータは実際の臨床に変更を迫るものではないが,サブグループを対象に現在実施されているNSABPのB-27治験は,将来の治療法を変える可能性がある」と付け加えた。
キーワード 【術前化学療法で乳癌が縮小】

(Medical Tribune Vol.31, No.06, )【放射線が乳癌患者の治療を補強】
〔ニューヨーク〕 乳房切除後に放射線療法を追加すると,閉経前女性乳癌患者の生存率が劇的に改善することがデンマークとカナダの 2つの研究によって示され,『New England Journal of Medicine』(337:949-955,956-962,1997)に報告された。これまでは,このような患者に対しては化学療法のみを行うのが一般的な方法とされている。

化学療法との併用で死亡率低下
デンマークの治験は閉経前の女性1,708人を対象としたもので,放射線に抗癌薬を併用投与した患者では10年後に54%が生存していたのに対して,化学療法治療だけを行った患者の生存率は45%だった。
これよりも小規模なカナダの研究は,ブリティッシュ・コロンビア州癌対策局(バンクーバー)のJoseph Ragaz博士を中心とする研究チームが,乳房を切除した乳癌患者318例を対象として行ったもので,放射線と化学療法を併用した患者は15年後に54%が生存したのに対して,化学療法のみを行った患者の生存率は46%だった。
デンマークの研究で,10年後に癌が全く見られなかった者は,放射線と化学療法の両方を行った女性では48%だったのに対して,化学療法のみの女性は34%だった。カナダの治験で,15年後に生存していて癌の見られない者のパーセンテージは,それぞれ50%と33%だった。

テキサス大学保健科学センター(サンアントニオ)医腫瘍学主任のC. Kent Osborne博士は「これらの研究結果は,化学療法またはホルモン療法を選択する乳癌患者にも放射線療法が良い効果を与えるだろうと思わせる」と述べている。
同博士によると,乳癌患者の約20〜25%は乳房切除以上の治療は必要としない。しかし,その癌の再発の可能性が大きいため,大抵の患者は化学療法かまたはホルモン療法を受ける。また,乳腺腫瘤切除を受けた女性の多くは再発の危険があるため,放射線療法を受けている。
カナダの研究チームによると,「それでも放射線療法をルーチンに用いることは乳癌の治療を大きく変えることになる」という。


心臓傷害性は認められず
以前の研究で,放射線療法は乳癌の再発率を低下させるが,死亡率は放射線療法を行っても行わなくても変わらないことが認められている。おそらく,胸部に対する放射線照射が心臓の問題を起こさせるためではないかと考えられていた。
今回の 2 つの研究では,いずれの場合も心臓傷害性は認められなかった。また,放射線療法は元の癌発生部位の近くに新たな癌が発生する可能性を有意に低下させることも確認された。
デンマークの研究では,化学療法のみを行った女性では,元の癌の近く,例えば胸壁や近くのリンパ節に癌が発生してくる可能性が 4 倍近く高かったが,癌再発の最初の徴候として遠く離れた部位の癌が発生する可能性は20%低かった。
キーワード 【放射線が乳癌患者の治療を補強】

(Medical Tribune Vol.31, No.07, )【乳癌リスクの低減に大豆製品,薬用人参が有効】
〔米テキサス州サンアントニオ〕 ニューヨーク整骨医科大学(ニューヨーク州オールドウェストバリ)生化学・遺伝学のDonna Dixon Shanies助教授は,米国整骨医協会の年次集会において「予備的研究の結果,豆腐などの大豆製品や,おそらく薬用人参も乳癌回避に役立つかもしれない」と発表した。

ヒト乳癌細胞の増殖を阻害
同助教授は「ヒトの乳癌細胞を用いた実験室での研究において,大豆製品に多く含まれる成分,イソフラボン類が高用量で癌細胞の増殖を30%も阻害した」と報告。さらに,2 回目の実験では,人参やvitex berryの抽出物など中国漢方もヒト乳癌細胞の増殖を阻害することを明らかにした。
同助教授は「これらの植物には植物性エストロゲンが含まれているため,イソフラボン類は体内のエストロゲンのレベルを下げることで乳癌予防に一役買っているのではないか。あるいはイソフラボン類には腫瘍発生を抑制する抗酸化作用があるのかもしれない」と説明。
「将来,植物性エストロゲンが,乳癌および前立腺癌などの他のホルモン依存性の癌のリスクを軽減する有望な薬剤であることが証明されるだろう」と期待を寄せている。
さらに,同助教授は「日常の食生活にどの程度の大豆製品を摂取すべきかという推奨量は特にないが,女性が大豆製品の摂取量を増やすことは賢明なことである」と述べている。
同助教授らは,3 種の主要イソフラボンbiochanin A,daidzeinおよびgenisteinのヒト乳癌細胞株に対する作用を検討。さらに人参,black cohosh root,当帰,ホップの花,vitex berryおよびshiu chu ginseng rootについても同作用を評価した。

Kirksville整骨医科大学(ミズーリ州カークスビル)生化学科のRichard J. Cenedella学部長は,今回の研究を「将来に向けて,有望な第一歩を踏み出した」と評価。「この知見は,食事と乳癌との関係について現在明らかにされていることにさらに新たな次元を加えた」としている。
同学部長は「低脂肪食の(乳癌リスクに対する)有効性は周知の事実であり,ある種の食物に含まれている微量の植物ホルモンがリスク低減に役割を果たしているのかもしれない」と考察している。
キーワード 【乳癌リスクの低減に大豆製品,薬用人参が有効】

(Medical Tribune Vol.31, No.07, )【出産後2年未満の乳癌で死亡率高い】5年以上の症例に比べ約1.6倍高まる
〔ニューヨーク〕 ヒレロッド病院(デンマーク・ヒレロッド)の疫学者Niels Kroman博士らは,最後に出産してから 2 年未満で乳癌と診断された女性は,最後の出産から 5 年以上たってから診断された女性と比較して,乳癌で死亡する確率が約1.6倍高いことを『British Medical Journal』(315:851-855,1997)に報告した。このリスクの差は,診断時の年齢,腫瘍の大きさ,疾患の進行度とは無関係だった。したがって,同博士らは術後の乳癌治療をどの程度積極的に行うかを決める際に,最近の妊娠について考慮すべきであるとしている。

5年後死亡率は41%に
試験は45歳以下で乳癌と診断された5,652例のデンマーク人女性を対象とした。全体的に,最後に出産してから 2 年未満で乳癌と診断された女性の 5 年後死亡率は41%,10年後死亡率は54%であったのに対し,最後の出産から 2 年以上たっていた女性の 5 年後死亡率は22%,10年後死亡率は34%であった。
過去の試験では,初産年齢が若ければ若いほど,また妊娠回数が多ければ多いほど乳癌になる確率が低いことが分かっている。これは妊娠中と妊娠後のホルモン変化によるものだと考えられている。
しかし,Kroman博士らの研究チームは,既に乳癌が存在していれば,これらのホルモン変化は最も悪性の癌細胞の成長に拍車をかけるかもしれないと考えた。

Brigham and Women's病院(ボストン)の疫学者であるCelia Byrne博士は「これは興味深い示唆であり,乳癌の発生とその予後との関係についてより多くの洞察を提供してくれる」とし,最近では非常に若い女性が出産することが多く,なぜこれらの女性の予後が非常に悪い傾向を示すのかを説明しているかもしれないと語った。

また,乳癌を経験し,これから妊娠を考えている女性は,再発の可能性を考慮すべきであることも示唆されていると指摘した。

試験対象となったほとんどの女性は,乳房切除術または乳房温存術を受けた。ハイリスク患者,すなわち腫瘍が大きい患者または癌が広く転移する徴候がある患者には,化学療法または放射線療法を追加的に施行した。リスクの低い患者にはこれらの追加治療は行わなかったが,乳房温存術を受けた全女性には放射線療法を施行した。
キーワード 【出産後2年未満の乳癌】

(Medical Tribune Vol.31, No.10, )【乳癌,卵巣癌の遺伝的素因に新たな知見】
〔ニューヨーク〕 Myriad Genetics社(ユタ州ソルトレークシティ)のプ ロジェクト責任者であるDonna Shattuck-Eidens博士は,『Journal of the American Medical Association』(JAMA,278:1242 -1250, 1997)で「50歳までに乳癌を発症した血縁者,または卵巣癌になった血縁者が 1 人でもいる女性は,このどちらかの癌になるリスクが高い」と発表した。これまでは,家族・血縁者にもっと多くの癌患者が出ているのでなければ,乳癌または卵巣癌のリスク上昇には結び付かないとされてきた。

BRCA上に50種の変異を同定
これまでにも,BRCA1およびBRCA2遺伝子の変異が乳癌および卵巣癌のリスクを上昇させることが知られていたが,同博士らは,今回の試験で50種の変異を同定,そのうち24種を有害な変異とみなしている。
同博士らは,乳癌および卵巣癌の家族歴がある798例の女性の遺伝子を解析し,上記のように推定。「今回の所見から,BRCA1の変異がこれまで考えられていたよりも広く存在することが明らかになったため,医師は患者の家族歴に基づき,遺伝子検査の価値について女性に質の高いカウンセリングを行うことができる」と説明している。
今回の試験では,フィンランド,ドイツ,イタリア,スイスおよび米国から参加した患者の12.8%に,乳癌および卵巣癌のリスクを増大すると考えられる変異が 1 つ以上発見された。
同博士は「BRCA1およびBRCA2遺伝子内の特定の変異を検索していたこれまでの検査とは異なり,われわれは遺伝子内の塩基を 1 つ 1つチェックする『全塩基配列の解析』を行った」と説明。「このような検査が可能になったため,乳癌または卵巣癌の家族歴のある女性が自分自身のリスクを知ることができるようになった」としている。
例えば,家族歴のある女性が,自身にとって予防的な乳房切除術または卵巣摘出術が有用かどうかを決断する際に,遺伝子検査の結果を参考にすることができる。

しかし,南カリフォルニア大学(ロサンゼルス)予防医学のBrian Henderson教授はこれに反論。「通常の患者どころか家族歴のある患者にとってさえ,この時点での遺伝子カウンセリングはおそらく役に立たないだろう。これらの変異をさらに詳細に解明するまで,おもに研究手段として遺伝子検査を行うべきだ」と述べている。

Shattuck-Eidens博士は「 1 つの家族について解析するとき,BRCA1およびBRCA2の全塩基配列を解析するのに,最初の 1 人目では2,400ドル(約31万2,000円)の費用がかかるが,次の人からは,最初の人で同定された変異の有無を395ドル(約 5 万1,350円)で検査することができる」と見込んでいる。
検査結果の取り扱いが問題
アレガニー大学健康科学部(ペンシルベニア州ピッツバーグ)ヒト遺伝子部門のReed Edwin Pyeritz博士は,同論文の付随論説で「今後 2〜 3 年間に解決すべき課題は,遺伝子検査から得られた情報を臨床でどのように取り扱うかだ」と述べている。
ウィスコンシン大学(ウィスコンシン州マディソン)婦人科腫瘍学のJulian Schink部長は「今回の試験により,遺伝性乳癌に関する既存の知識にまた 1 つ優れた情報が加わった」と評価。「この知見から,これらの変異の役割についてさらに多くを知るためには詳細な家族歴調査や自由な遺伝子検査が必要なことが裏づけられた」と述べている。
以前の研究では,東欧系ユダヤ人女性に,BRCA1またはBRCA2遺伝子の変異のリスクが高いことが明らかにされている。
キーワード 【遺伝的素因に新たな知見】読み飛ばしてください

(Medical Tribune Vol.31, No.10, )【心理療法で乳癌患者の予後が改善】
〔米フロリダ州オーランド〕 当地で開かれた米国放射線療法・腫瘍学会の年次集会で,スタンフォード大学(カリフォルニア州パロアルト)精神科のDavid Spiegel教授らは「心理療法は乳癌治療の一部として重要な役割を果たすかもしれない」と報告。同教授らによると,集団療法を 1 年間受けた乳癌患者の疼痛は,集団療法を受けなかった群に比べて軽度だったという。

感情を抑制しないほうがよい
同教授らは,1 年間の集団療法を受けた乳癌患者と受けなかった患者について,集団療法が患者に及ぼす生理的効果を分析し,両群の生存率とQOL因子を比較した。この集団療法は,いくつかの重要な領域に関して患者を援助することに力点を置き,感情の表現方法の学習,医師や家族とのコミュニケーションの改善,瞑想と自己催眠による疼痛の軽減,共通の体験を持つ他の乳癌患者とのきずなの構築などを含むもの。
調査の結果,感情を抑制しがちな患者はうつ状態に陥りやすく,気分障害も重度だった。

同教授らは過去の研究によって,転移性乳癌患者で 1 年間の集団療法を受けた者は,集団療法を受けなかった者より平均18か月長く生存したことを明らかにしている。
同教授は「確証は得られていないが,心理療法が乳癌進行に対して抑制効果を持つ可能性はある」とし,「今後約 2 年以内に,乳癌患者125例を対象とした生存率に関する無作為対照試験の結果を発表する予定である」と述べた。
同教授らは現在,8 年間にわたって,リンパ球数や唾液に含まれるコルチゾールなどのマーカーの測定値を分析し,ストレスへの対処と管理が乳癌進行に及ぼす影響の大きさを判定する研究を行っている。

患者への心理的援助は重要
Paris XI大学放射線療法学教授でInstitut Gustave-Roussy(仏ビルジュイ)放射線科のJean-Louis Habrand博士は「これは非常に優れた研究であると思う」とコメント。
「疾患の心理社会的側面と生理的側面との相関が次第に明らかになってきている」とし,「今回の知見は,集団療法が乳癌などの癌患者に対する治療の一部として重要な役割を果たす可能性を示唆している」と付け加えた。同博士は「医師は患者に対し,支援グループなどに社会的援助を求め,感情を抑圧せず表現するよう励ますとよい」と述べた。

Spiegel教授は「医師は患者への感情移入を表現するのに多くの時間を割く必要はない。患者が泣くにまかせたり,心情を認める言葉をかけることなどが役立つかもしれない。こうしたことで患者は非常に力づけられるだろう」と指摘した。

同教授の経験によると,患者にとって最もつらいのは,積極的治療が一段落し,医師や医療スタッフとの接触が減る時期であるという。同教授は「その時期,患者は自分の置かれた状況の重さを突如実感することになる」と述べた。
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(Medical Tribune Vol.31, No.17, )【DNAスクリーニングで乳癌再発を予見】
〔ニューヨーク〕 サウスカロライナ医科大学(サウスカロライナ州チャールストン)外科のDavid J. Cole助教授は,シカゴで開催された米国外科医学会の年次集会において,乳癌再発の有無を予見する新技術を発表。「乳癌切除後の女性において,再発防止を目的にさらに強力な治療が必要かどうかを判断するうえで,新技術は,リンパ節生検に比べ10〜100倍正確な情報をもたらすだろう」としている。

生検陰性患者の30%に再発
Cole助教授は「乳癌細胞内で活動している微量の遺伝子の検出を目的に行うリンパ節検査は,癌の可能性がある変化を検出する精度の高い方法かもしれない。おそらく身体的変化が見られる前に,遺伝子の変化を検出できるだろう」と述べている。
リンパ節生検は,再発を予見する方法として,現在利用できる最善の方法であるが,乳癌の場合,生検で陰性と判定された女性の30%に癌が再発している。 同助教授らは,生検を実施した乳癌患者45例のリンパ節組織を,逆転写‐ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いてスクリーニングし,cmyc,HER-2/new,プロラクチン誘発蛋白およびケラチン-19など,乳癌細胞内における活発な転写が報告されている多数の遺伝子の活性化兆候が検出できるかどうかを検討。 リンパ節生検で陰性と判定された29例の女性のうち14例において,上記のうち 1 種以上の遺伝子が活性化されていることが明らかになったと報告した。

癌遺伝子が数種類発現
Cole助教授は「今回の所見から,リンパ節では,本来ならそこでは発現するはずのない癌遺伝子が少なくとも数種類発現していると考えている」と考察。「今回の新技術で得た結果に基づいて,上記の14例の女性に対し,腫瘍をより重度とする判定を下した。すなわち,これらの女性には再発防止のために,より強力な治療が必要なことを示唆している」と指摘している。
15例の女性が,リンパ節生検および遺伝子スクリーニングの双方で陽性と判定され,リンパ節生検で陽性,遺伝子スクリーニングで陰性と判定された女性はわずか 1 例であった。
全体的に見ると,PCR検査によりステージ分類も変わり,17例中 7 例が進度 I からIIAに,15例中 7 例がIIAからIIBに変更となった。

米国対がん協会(ジョージア州アトランタ)サイエンスプログラムのDawn B. Willis部長は「素晴らしいアイデアだ」と評価しながらも「今回対象となった女性たちを追跡調査し,癌遺伝子活性の検出が,本当に乳癌の再発を予見しているのかどうか検討しなければならない。この点がまだ明らかにされていない」と指摘。「今後の研究から遺伝子スクリーニングの恩恵が確認されれば,『真の陰性患者』の判定が容易になるとともに,治療方針を決定する際の指針ともなるだろう」としている。
キーワード 【乳癌再発を予見『真の陰性患者』の判定】

(Medical Tribune Vol.31, No.20, )【環境エストロゲンに乳癌誘発作用ない】
乳癌患者のほうが血中濃度低い
〔ボストン〕 ハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)疫学のDavid J. Hunter准教授は『New England Journal of Medicine』(337:1253-1258,1997)で「過去の研究による指摘とは逆に,環境中の有機塩素系化学物質への曝露によって乳癌リスクが上昇することはないようだ」と報告した。

発症群で低いDDE/PCB濃度
10年ほど前に行われた数件の小規模試験によると,乳癌患者の血中DDE濃度とポリ塩化ビフェニル(PCB)濃度は高いとされていた。DDEは殺虫剤DDTの代謝産物であり,PCBは一部のプラスチックに含まれる物質である。しかし,最近の研究によって,このような環境エストロゲンが乳癌を誘発しないことを示唆する証拠が次々と発表されている。
Hunter准教授らは今回の研究で,1989〜90年に480名の女性から採取した血液サンプルのDDE濃度とPCB濃度を測定。対象の半数はのちに乳癌を発症した。しかし,乳癌を発症した女性の血中DDE濃度とPCB濃度は,乳癌を発症しなかった女性よりわずかながら低かった。
実際には,のちに乳癌を発症した群の血中DDE濃度が平均4.71ppbだったのに対して,乳癌を発症しなかった群のDDE濃度は5.35ppbだった。また,PCB濃度は乳癌発症群が4.49ppb,乳癌非発症群が4.68ppbだった。 テキサスA & M大学(テキサス州カレッジステーション)毒物学のStephen H. Safe教授は付随論評で,「環境エストロゲンと乳癌の関与の示唆には誇張があった」とコメントしている。
同教授は「DDTとPCBの乳癌への関与を指摘した最初の観察は,その後に続く試験を正当化するものだったが,今回の研究結果は,メキシコや欧州での最近の知見と同様に,これらの物質が乳癌を誘発しないことを示唆している」と述べた。DDTとPCBは米国ではもはや使用されていないが,過去の曝露によって血中や脂肪組織のなかに残存している可能性はある。
しかし,Hunter准教授は「この研究結果を根拠として,われわれが環境中にばらまいた化学物質に対する懸念が払拭されたと考えるべきではない」と警告した。

既知の方法でリスクの低減を
ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)乳癌・卵巣癌評価プログラムのSofia Merajver部長は「今回の研究は優れたものだが,遺伝的変異と血中DDE濃度・PCB濃度との間に疑われる相互作用を否定するには規模が小さい」とコメント。「しかし,両者の関係を支持する証拠がない現時点では,運動,適正体重の維持,野菜や果物を豊富に摂取するなどの既知のリスク低減法に力を注ぐべきである」と述べた。
ピッツバーグ大学癌研究所(ペンシルベニア州ピッツバーグ)乳癌総合プログラムのVictor Vogel部長は「一部の人々は,乳癌に関与するものが環境中に必ず見つかるはずだと考えているが,実際に見つけることは非常に困難である」と述べた。
キーワード 【環境エストロゲンと乳癌の事】

(Medical Tribune Vol.31, No.20, )【3次元画像法で乳房生検を半減】
〔シカゴ〕 トーマス・ジェファーソン大学病院(ペンシルベニア州フィラデルフィア)放射線画像物理学科のAndrew Maidment部長らは,昨年12月,シカゴで開かれた北米放射線学会(RSNA)年次集会で,乳腺組織内の異常生成物の 3 次元画像が見られる新しいデジタル技術によって,乳癌発見のために行われる生検が何千例も不要となるだろうと報告した。

検査所要時間は30分
Maidment部長らが報告した予備的研究結果によると,このコンピュータ技術を用いれば,疑わしい乳房のしこりの性質を調べるために行われる生検の半数は行わずにすむことになるという。
乳房生検の半数は,手に触れたり,あるいは乳房のX線写真で見えたりした疑わしいしこりが癌性のものか,良性のものかを検査で判断できないときに行われるものだからだ。
今回の研究では,3 次元デジタル法を用いて44例の疑わしい乳房X線写真を調べた。その結果,14例の癌がすべて正確に突き止められ,それ以外の疑わしいしこり30例のうち,18例が誤りなく除外された。 女性たちは全員,生検を受けることになっていたが,新しい方法の正確さを調べるためにこの余分なテストを受けることに同意した。
Maidment部長は「本法には約30分かかる。3 つの角度から乳房のX線写真を撮るのにそれぞれ 2 分ずつ,それらの写真を並べてコンピュータで 3 次元画像をつくることができるようにするのに20分かかる」と言う。 研究チームは現在,画像の配列を自動化して,さらに時間を短縮するコンピュータ・プログラムの開発に取り組んでいる。
この技法を用いると,コンピュータは画像から正常な組織構造を取り除き,後に残る乳房のなかの疑わしい部分の 3 次元画像だけを示すことができる。3 次元画像では,癌性構造の明らかな特徴を容易に見ることができる。

ハーバード大学(マサチューセッツ州ボストン)放射線学のDaniel Kopans准教授は「この方法は,森を調べて 1 本だけあるカバノキを見つけ出そうとするようなものだ」と説明した。同准教授はマサチューセッツ総合病院の乳腺画像部長として,同様の乳房組織の 3 次元画像と取り組んでおり,このソフトウェアは「そのただ 1 本のカバノキを見つけるために,周りの木々をぐるっと見回すための手段となる」という。
トーマス・ジェファーソン大学の研究チームの予備研究がさらに大規模な実地試験で確認されれば,「良性のしこりについて生検を行うことは減り,小さな癌の発見が増えることになるだろう」とKopans准教授は述べた。
Maidment部長の共同研究者で,ペンシルベニア大学病院(ペンシルベニア州フィラデルフィア)放射線科のEmily Conant准教授は「乳房生検は心身ともに深い傷を与えるもの」であることを指摘し,「乳房診断の精度を高めることができれば,必要のない生検を減らすことができる。この新しい技術は,それを可能にするものだとわれわれは信じている」と述べている。
この研究では,従来の乳房X線検査,2 次元画像,および新しい 3 次元画像によって,女性の乳房像の評価を行った。従来の乳房X線検査の精度は36%だったのに対して,2 次元画像は64%,デジタル・システムを用いて 3 次元画像をつくった場合は77%だった,とMaidment部長は述べた。
キーワード 【3次元画像法と乳房生検の論争】

余談ですが術後の瘢痕に
(Medical Tribune Vol.31, No.23, )【トリアムシノロンアセトニドで瘢痕を萎縮】
〔ベルリン〕 イェーナ大学口腔・顎・顔面外科/形成手術部のPeter Hyckel教授は,ドイツ形成再建外科学会の第35回年次集会で「瘢痕ケロイドやケロイドに対するアプローチは,まず保存療法から開始すべきだ」と指摘。「例えば,月 1 回の割合で病変部にトリアムシノロンアセトニドを直接注射すると効果的である」と報告した。
同教授が31例を対象に実施した試験の結果,大半の症例で著明な改善が示された。瘢痕組織が平坦化して発赤やかゆみ刺激が消退するまでに,ケロイドでは平均 5 回,瘢痕ケロイドでは約 3 回ほど注射するだけで十分であり,ほとんどの症例が治療結果に満足していたという。もちろん,切除術という方法も残されているが,その場合にも術前にトリアムシノロンアセトニドを注射して線維芽細胞の活性を抑えておくと,術後成績が改善される。
ただし,病変部位に直接注射することが肝心で,これを怠ると,真皮と皮下組織が萎縮して,その萎縮が正常な組織にまで徐々に広がっていく恐れがあり,手術以外に打つ手がなくなってしまう。
キーワード 【瘢痕ケロイドやケロイドに対するアプローチ】トリアムシノロンアセトニド局所注射







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1998-01〜1998-05記事