2003 第11回日本乳癌学会記事

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☆(Medical Tribune Vol.36 NO.27 p.07)
【2003年第11回日本乳癌学会】

第11回日本乳癌学会

抗癌薬の副作用対策に新知見

 抗癌薬の副作用は,薬効と表裏一体の関係にある。高い薬効を期待する以上,副作用の発現はある程度やむをえないものとも言える。したがって,副作用を軽減する方法の確立が強く叫ばれている。一方で,どのような状況に至ったら抗癌薬の投与を中止すべきか,その適切な判断もまた重要な課題である。新潟市で開かれた第11回日本乳癌学会(会長=新潟県立がんセンター・佐野宗明副院長)では,「抗癌剤の副作用対策と至適中止時期」と題するパネルディスカッション(座長=国立大阪病院外科・辛栄成氏,埼玉県立がんセンター内分泌科・田部井敏夫部長)が持たれ,最新の研究データが報告された。

〜5-HT3受容体拮抗薬予防単回投与下の遅延性嘔吐〜
急性嘔吐,急性悪心が予測因子に

 抗癌薬投与に伴う悪心・嘔吐は,患者に最も大きな苦痛を与える副作用の 1 つだが,近年,投与量が増加する傾向にあるわが国の乳癌治療では,より深刻な問題となりつつある。大阪大学大学院腫瘍外科学の田口哲也講師らは,急性悪心は年齢が若い患者,遅延性嘔吐は急性嘔吐,急性悪心が認められた患者で起こりやすいことなどを明らかにした。

急性嘔吐・悪心には年齢が影響

 田口講師らは,日本人乳癌患者に対する制吐療法の確立を目指した研究の一環として,今回,制吐薬のセロトニン5-HT3受容体拮抗薬の予防的単回投与下で,悪心・嘔吐の予測因子を検討した。
 対象は,エピルビシンを含む化学療法〔CE=シクロホスファミド+エピルビシン,FEC=フルオロウラシル(5-FU)+エピルビシン+シクロホスファミド〕を初めて受ける女性乳癌患者。治療開始前に悪心・嘔吐またはGrade 2以上の食欲不振がある患者は除外した。登録された60例に5-HT3阻害薬の予防的単回投与を実施。化学療法開始後の悪心・嘔吐の発生,食事量の変化について,主治医と病棟看護師が聞き取り調査を行った。60例のうち,評価可能例は51例。年齢は22〜69歳(中央値54歳)。Performance status(PS)は 0 〜 2 で, 0 が44例を占めた。
 化学療法後24時間以内に生じる急性嘔吐は25%,急性悪心は37%,2 日目以降の遅延性嘔吐は20%,遅延性悪心は69%,1 日目食事量の50%減少は 8 %,2 〜 5 日目食事量の50%減少は51%に認められた。
 悪心・嘔吐,食事量減少に影響すると考えられる因子について多変量解析を行うと,急性嘔吐には年齢が関連する傾向が見られ,55歳未満では55歳以上よりも 4 倍高率だった。急性悪心は55歳未満が55歳以上に比べて 7 倍有意に高率。遅延性嘔吐は急性嘔吐があると21倍,急性悪心があると18倍,いずれも有意に高率になった。遅延性悪心は急性悪心があると11倍有意に高率だった。2 〜 5 日目の食事量50%減少は,2 日目以降にデキサメタゾンを投与した患者では 6 分の 1 に有意に減少,また急性悪心が見られた患者では 4 倍に有意に増加した。
 以上から,急性悪心は若年,遅延性嘔吐は急性嘔吐と急性悪心,遅延性悪心は急性悪心,2 〜 5 日目の食事量減少はデキサメタゾン非投与,急性悪心が予測因子になることが示唆された。同講師は「化学療法施行前および施行中に,それぞれの患者の予測因子を評価しながら,5-HT3受容体拮抗薬の投与法を工夫していく必要があるのではないか」と述べた。

〜テガフール・ウラシル配合薬〜
8割以上で有害反応

 経口フッ化ピリミジン製剤は一般に安全性の高い抗癌薬と考えられており,乳癌術後化学療法ではリンパ節転移陰性例を中心にテガフール・ウラシル配合薬などが広く使用されている。松山赤十字病院外科の田代英哉部長らは,乳癌術後補助化学療法でテガフール・ウラシル配合薬を投与した症例を調べた結果,Grade 3 以上を含め,80%以上の症例で有害反応が認められたという。

嗅覚脱失は6%で発生

 テガフール・ウラシル配合薬の有害反応については,わが国のACE TBC(Adjuvant Chemo-Endocrine Therapy for Breast Cancer) 3 次研究のメタアナリシスでは,発生頻度は10%以下で,Grade 3以上の重篤な副作用は全く認められていない。
 田代部長らは,同院で1997年 7 月〜2001年12月に,テガフール・ウラシル配合薬( 1 日400mg)の投与期間に関する比較試験で登録された62例を対象に,有害反応の頻度,時期,種類,重症度などを検討した。62例の平均年齢は58歳,Stage I 24例,Stage II 38例,エストロゲン受容体陽性48例,陰性14例。投与期間は 1 年30例,2 年32例。タモキシフェン併用40例,非併用22例。
 有害反応は62例中52例 (84%)で認められ,その頻度は投与期間の長短,タモキシフェン併用の有無で有意差はなかった。発生時期は平均4.3か月後で,ほとんどが 1 年以内だった。血液障害や嗅覚障害は投与後平均200日前後と遅く発生したのに対して,消化器症状や肝機能障害は投与後平均110〜150日に認められた。
 有害反応の内訳を見ると,血液障害として白血球減少が52%,赤血球減少が 8 %,血小板減少が13%認められたが,いずれもGrade 2以下であった。消化器症状としては食欲不振(16%),悪心(10%)などが認められたが,いずれもGrade 2以下。肝機能障害はsGOT異常が35%,sGPT異常が38%で,Grade 3以上はそれぞれ 5 %,7 %だった。Grade 3以上の肝機能障害は,投与中止により約 1 か月後にいずれも正常域に復した。
 皮膚・神経系の有害反応としては,嗅覚脱失に至ったGrade 2の 4 例( 6 %)を含む11例(17%)で嗅覚障害が認められた。嗅覚脱失の発生時期は 4 例中 3 例が投与 5 か月後以降。嗅覚障害発現例で投与を中止したところ,Grade 2の 2 例を除き,平均60日後に嗅覚の回復が認められた。

〜ドキソルビシンの心毒性〜
血中ET-1値が予知マーカーに

 乳癌などの化学療法でしばしば用いられるドキソルビシンは,心毒性がlimiting factorとされる。この心毒性の予知マーカーとして,血中エンドセリン(ET)-1値が有用であることが,愛知医科大学乳腺内分泌外科の城塚透子氏らにより報告された。

うっ血性心不全を完全に予防

 同科の研究グループは,これまでET-1に関する種々の検討を行ってきた。1994年には,ドキソルビシンによる治療でうっ血性心不全を来した 2 例の再発乳癌患者において,血中ET-1値が早期から上昇したことを明らかにしている。
 城塚氏らは今回,ドキソルビシン治療を行った癌患者30例(乳癌23例,肺小細胞癌 7 例)で,血中ET-1 値の変化をプロスペクティブに検討した。その結果,乳癌23例中 3 例,肺小細胞癌 7 例中 2 例で,ドキソルビシン総投与量の増加に伴った血中ET-1値の上昇が認められた。血中ET-1値が上昇した 5 例中 2 例でうっ血性心不全を発症したが,心エコーによるFractional Shorteningや左室駆出率は,いずれの症例でもうっ血性心不全発症まで異常を示さなかった。発症までのドキソルビシン総投与量は500mg/m2前後と決して多くはなく,心毒性の発生は個人差が大きいことが示唆された。2 例のうっ血性心不全は投与中止により軽快した。なお,血中ET-1値が上昇した 5 例ではドキソルビシンによる治療効果が認められており(有効=PR 4 例,著効=CR 1 例),血中ET-1値上昇が癌の進行によるものではないことが推測された。
 乳癌23例の治療前血中ET-1値の平均+2SDである4.1pg/mLをカットオフポイントとすると,血中ET-1値により,心毒性の発生を感度100%,特異度90%で予測できることがわかった。実際に,ドキソルビシン治療を行った乳癌患者115例で,血中ET- 1 値の経時的モニタリングを行ったところ,4.1pg/mLを超えた 9 例でドキソルビシンの投与を中止したところ,うっ血性心不全の発生を完全に予防できた。
 以上の成績から,同氏は「血中ET- 1 値はドキソルビシンによる心毒性の有用な予知マーカーになる」と結論した。ただし,血中ET-1値の上昇が心毒性の原因なのか結果なのかは,まだ明らかではないという。

〜乳房温存療法における切除断端評価〜
病理医の認識が不十分

 乳癌に対する乳房温存療法では根治性の確保が常に求められる。根治性の確保で最も重要なのは切除断端の評価であるが,この点を含め,乳房温存療法に関する病理医の認識が十分とは言えない状況にあることが,2002年日本乳癌学会「乳房温存治療の切除範囲評価と整容性評価に関する研究」班によるアンケート調査で明らかとなり,班長の京都府立医科大学内分泌・乳腺外科の沢井清司助教授により報告された。

過半数がガイドラインを知らない

 沢井助教授によると,アンケートは,全国の日本病理学会認定病理医,日本乳癌学会認定外科医と日本形成外科学会認定施設,日本乳癌学会認定施設の放射線科を対象として行われた。このうち病理医1,799人に対するアンケートでは,350人から回答が得られた。
 これらの回答を分析したところ,55%が「日本乳癌学会の乳房温存療法ガイドライン(1999)を知らない」,83%が「同ガイドラインを持っていない」,60%が「標本切り出し時に術者の立ち会いがない」,50%が「切除断端に癌が露出しているときに断端陽性と判定している」(ガイドラインでは切除断端から 5 mm以内に癌が存在する場合に断端陽性としている)などと回答していた。
 この結果から,同助教授は「病理医と外科医の間で十分な情報交換を行う必要がある。また,乳腺外科医は病理医に断端診断の重要性を認識してもらったうえで,より正確な断端診断を行ってもらうようにすべきで,このことが乳房温存治療の安全性向上につながる」と指摘した。


キーワード 【2003年日本乳癌学会・報告】

☆(Medical Tribune Vol.36 NO.28 p.22)
【2003年第11回日本乳癌学会】

第11回日本乳癌学会

乳癌診療ガイドライン案提示される

 新潟市で開かれた第11回日本乳癌学会(会長=新潟県立がんセンター・佐野宗明副院長)の特別企画「乳癌診療の標準化に向けて」(座長=国立病院四国がんセンター外科・高嶋成光院長,関西労災病院外科・高塚雄一部長)では,2001〜2002年に実施された厚生科学研究「乳癌診療ガイドライン作成に関する研究」(主任研究者=高嶋院長)の結果から,乳癌診療ガイドライン案が提示された。ガイドライン案は乳癌診療にかかわる臨床医を対象とし,日常の乳癌診療で遭遇することが多い疑問点(リサーチクエスチョン)に対して,科学的根拠に基づいた医療を提供するための支援として利用されることを目的としており,(1)疫学・予防など(2)診断・検診(3)外科療法(4)薬物療法(5)放射線療法−について国内外のエビデンスを検証して推奨度(Grade A=強く推奨できる,B=推奨できる,C=推奨できるだけの根拠が明らかではない,D=推奨できない)を提示している。

疫学/予防など
家族性乳癌家系に対する遺伝子検査前カウンセリングを推奨

 アルコール摂取については,1 日 2 杯以上の摂取は量・反応関係的に危険因子としての影響が生じる(Grade B),脂肪の食餌摂取は危険因子とならない(Grade B),喫煙については危険因子と決定できない(Grade C)とした。
 BRCA1/2遺伝子診断については,同遺伝子に変異のある女性の発症累積危険率が高いためGrade B,日本人一般集団を対象とした研究がないこと,予防法・治療法が確立していないこと,臨床試験の文献がないことから,Grade Cとした。
 家族性乳癌家系に対するカウンセリングについては,遺伝子検査前にカウンセリングと教育が推奨される(Grade B)とし,個別化したカウンセリングが重要であるとともに,教育面では家族性乳癌の遺伝的リスクに対する過大評価の是正が必要である(Grade B)とした。
 乳房温存術と切除術のQOLに与える影響については身体面,精神・心理面,社会面などの健康関連QOLや性的面のQOLでは優劣はないが,身体イメージは温存術のほうが勝る(Grade B)とした。化学療法による悪心・嘔吐に対するセロトニン拮抗薬とステロイド薬の併用については,急性嘔吐に対しては有用(Grade A),遅延性嘔吐に対してはいずれか一方で十分(Grade B)とした。
 好中球減少に対するG-CSFと抗菌薬については,無熱性に対するG-CSF投与はGrade Cとし,発熱性好中球減少に対する抗菌薬の投与は推奨した(Grade A)。リスクが高い場合は併用を考慮するとした(Grade B)。

検診・診断
50歳代のマンモグラフィーを強く推奨

 病理診断におけるホルモン受容体の検索の有用性については,原発性乳癌においてホルモン受容体を検索することが推奨され,転移性乳癌の治療計画に必要なら推奨されるとの結論からGrade Aとした。
 視触診による乳癌検診については,死亡率減少効果を示す根拠は不十分だが,無症状の患者では減少させる可能性がある(Grade C)とした。40〜50歳代におけるマンモグラフィーによる乳癌検診については死亡率を減少させる(50歳代Grade A,40歳代Grade B)とし,マンモグラフィーにおける 5 段階のカテゴリ分類については,悪性度の評価に有用(Grade B)とした。
 若年者に対する診療についてはGrade C,超音波による腫瘍の良悪性鑑別と乳癌検出手段についてはいずれも有用(Grade B),腋窩リンパ節転移における画像診断は限られた範囲で有用(Grade C)とした。
 CTとMRIによる乳房温存療法時の術前の広がり診断についてはGrade C。病理診断では,(1)針生検の術前診断(2)穿刺吸引細胞診の術前診断(3)ホルモン受容体の検索(4)ホルモン受容体検索における免疫組織学的方法(5)浸潤性乳癌の病理学的悪性度評価(6)乳癌診療におけるHER-2検査FHER-2検査における免疫組織学的方法−の有用性を挙げ,(3)はGrade Aとし,それ以外はGrade Bとした。
 術後定期検診では,(1)問診,視触(2)自己触診(3)マンモグラフィー(4)婦人科検診(5)再発徴候に対する患者教育(6)血算(7)生化学検査(8)胸部X線検査(9)骨シンチ(10)肝エコー(11)標準検査としてのCT(12)胸部CT(13)腹部CT(14)腫瘍マーカーの有用性について,(3)のみがGrade A,(1),(2)がGrade B,その他はGrade Cとした。  

外科療法
センチネルリンパ節生検による郭清省略は推奨せず

 外科療法ではリサーチクエスチョンとして14項目が選択された。Grade A 2 項目,Grade B 5 項目,Grade C 7 項目であった。
 胸筋温存乳房切除術と胸筋合併乳房切除術との比較では,いずれの術式も同等の生存率と局所制御率をもたらしうることから,前者を標準的な乳房切除術(Grade A)とした。臨床病期 I,II 期の浸潤性乳癌に対する局所療法については,乳房温存療法と乳房切除術でいずれの術式も生存率に差はない(Grade A)としたうえで,乳房癌温存療法は臨床病期 I,II 期の浸潤性乳癌の局所療法として推奨しながらも,広範囲にわたる乳癌の進展と明らかな多発癌は除外(Grade B)とした。
 胸骨傍リンパ節郭清の治療的意義についてはGrade C,腋窩リンパ節郭清の治療的意義については,腋窩リンパ節郭清により生存率が向上するとのエビデンスはないが,局所制御の目的で行う意義がある(Grade B),術前腋窩リンパ節転移症例の腋窩郭清の範囲については,局所制御のために腋窩リンパ節(Level I,II )と鎖骨下リンパ節(Level III)で郭清を行うことが望ましい(Grade B)とした。
 n0乳癌へのセンチネルリンパ節生検による腋窩リンパ節郭清省略の妥当性については,バックアップ郭清による独自の安全性を示すデータを持たない施設や,大きな腫瘍径の症例,患者が強く望まない場合には行う根拠がない(Grade C)とした。
 非浸潤性乳管癌(DCIS)における乳房温存療法については,症例を選べば乳房切除術の代わりとなりうる(Grade B)とし,適応については,(1)大きさが 3 cm以下(2)切除後の乳房が美容的に許容範囲におさまる(3)組織学的に断端が陰性(4)核異型度がlowないしinter mediate−などの条件を満たせば適応となる(Grade C)とした。
 腋窩郭清の必要性,局所進行癌に対する外科療法の単独の可能性,乳房温存療法後の乳房内再発に対する再度の乳房温存療法の可能性についてはいずれもGrade Cとした。

薬物療法
妊娠前期での抗癌薬使用は危険

 乳癌肝転移に対する動注化学療法,術後補助療法におけるビスホスホネートの使用についてはいずれもGrade C,一方,妊娠前期乳癌に対する抗癌薬治療の安全性については,催奇形性や流産が危惧されるため,Grade Dとした。
 Grade Aとしたのは,(1)エストロゲン受容体陽性または不明の早期乳癌患者に対する術後 5 年間のタモキシフェン投与(2)ホルモン感受性のある閉経前早期乳癌患者に対する術後補助療法としてのゴナドレリン(LH-RH)アナログ(3)術後補助療法や転移・再発乳癌患者の一次化学療法としてのアンスラサイクリン系薬剤を含む併用療法(4)HER-2陽性転移・再発乳癌に対するトラスツズマブ単独あるいは抗癌薬との併用(5)転移性乳癌における骨転移に伴う骨合併症に対するビスホスホネート投与−など。

放射線療法
早期乳癌,乳房切除後などの照射を推奨

 乳癌術後の放射線治療の際に見られる有害事象については,ほとんど全例に皮膚炎が認められるものの,他の有害事象の頻度は高くないが,広い照射野,高線量ならびに化学療法の併用により増加する(Grade B),乳癌術後の放射線治療による二次癌については,まれだが若年者で危険性があるため散乱線を少なくするよう工夫すべき(Grade B)とした。
 乳房温存療法における照射の禁忌については,絶対的禁忌として,(1)背臥位にて患側上肢を挙上できない(2)妊娠中(3)患側乳房,胸壁への放射線治療の既往,相対的禁忌として強皮症や全身性エリテマトーデスなどの膠原病を有する者(Grade D)−とした。
 乳房温存療法における適切な照射手技については,照射ターゲットは全乳房照射を推奨(Grade A),線量は 1 回線量1.8〜2.2Gy,総線量45〜50.4Gyを4.5〜5.5週で照射する(Grade B),ブースト照射は乳房内再発を減少させる(Grade B)とした。早期乳癌に対する術後乳房照射の必要性については,早期乳癌に対する照射が局所再発の抑制が明らかだとした(Grade A)。一方,術後の腋窩,鎖骨上窩領域・胸骨傍リンパ節領域への照射については,有用性に乏しいため腋窩に対してはGrade D,その他はCとした。
 放射線治療の総治療期間については,補助化学療法を施行しない例では 8 週以内,補助化学療法を施行する例では20〜24週以内が好ましいものの(Grade C),照射期間が局所制御に影響する根拠は得られていないためGrade Cとした。放射線治療と補助化学療法の最適な順序については,遠隔転移の点から補助化学療法を先行させるほうが有利(Grade B)とした。放射線治療が与える美容面への影響については,全乳房照射は軽度ながら美容評価を下げ,ブースト照射は長期的に影響を与えない(Grade B)とした。
 乳房切除後の照射(PMRT)については,胸壁再発を減らす(Grade A),生存率を向上させる(Grade B)とし,適応は腋窩リンパ節転移 4 個以上の症例(Grade B),T3またはT4の症例(Grade C)とした。照射野は,胸壁をGrade A,鎖骨上窩をGrade Bとした。術前化学療法を行った症例に対する有用性についてはGrade C,術前化学療法とPMRTの最適な順序については,化学療法後に放射線治療を行うことが望ましいとしながらもGrade Cとした。
 乳房再建術とPMRTの最適な順序については不明(Grade C),照射野にプロテーゼが含まれることについては,十分安全とは言えない(Grade C)。DCISにおいて,乳房再建術後の照射を省略できる症例については不明(Grade C),乳房温存手術後の照射については,術後照射が必要(Grade A)とした。乳房温存手術後の局所再発危険因子については病理組織学的因子としてcomedo型,高度核異型,低分化型で切除断端陽性の場合,患者側因子として若年者(Grade B)とした。乳房温存手術後の局所再発形式については,約半数が浸潤癌として再発する(Grade B)とした。
キーワード 【2003年日本乳癌学会・報告】








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