2002 第10回日本乳癌学会記事

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☆(Medical Tribune Vol.35 NO.30)
【2002年第10回日本乳癌学会】

第10回日本乳癌学会
『乳癌患者のQOL評価研究のためのガイドライン』を開発

『乳癌患者のQOL評価研究のためのガイドライン』が,日本乳癌学会の「乳癌に対するQOL調査・解析のガイドライン作成に関する研究班」によって開発された。班長の(財)パブリックへルスリサーチセンター附属ストレス科学研究所の下妻晃二郎氏(東京大学大学院医学系研究科健康科学)は,名古屋市で開かれた第10回日本乳癌学会(会長=名古屋市立東市民病院・小林俊三副院長)でその概要を発表した。

乳癌患者用QOL調査票も同時に開発

 同ガイドラインは,臨床研究を計画する研究者がQOLに関する疑問点を解決し,QOLを適切に測定・評価するためのもので,最終的には乳癌患者のQOLの適切な評価研究方法を明らかにすることを目的としている。このガイドラインの使用により,臨床研究から質の高いエビデンスが生み出され,乳癌患者の治療やケアの決定材料となることが期待されている。なお,ここで扱われるQOLは,医療者の観察や単なる有害事象の調査結果ではなく,患者の主観に基づく健康関連のQOLとされている。
 ガイドラインは,過去10年間の系統的文献レビューに基づいて開発された。具体的には,特にQOL評価の研究計画立案に必要な最低限の基礎知識,文献の系統的レビューに基づくQOL尺度の実際の使われ方,わが国で使用できる11種類のQOLと心理尺度の特徴に関して詳細に紹介されている。今後,臨床研究での使用により,ガイドラインの有用性を検証していく必要があるという。
 同研究班では,わが国の乳癌患者を対象としたQOL尺度の新たな開発が求められることから,ガイドラインと同時に『乳癌患者用QOL調査票:QOL-ACD-B』を開発した。これは,1993年に旧厚生省栗原班により開発された「がん薬物療法におけるQOL調査票(QOL-ACD)」に追加して用いることが前提となっている。  東京大学大学院臓器病態外科学の齋藤光江氏によると,同調査票は,1999年に日本乳癌学会大川班で開発された「温存療法ガイドライン」のなかの11項目と乳癌患者・医療関係者の半構造化面接法により得られた26項目をたたき台に,日本人の文化と生活様式が考慮されたものとなっている。2 回のパイロットテストを経て,実施の可能性・信頼性・妥当性が検証され,最終的に21項目から成る調査票(日本語版,英語版)が完成した(表)。(1)身体症状・疼痛( 1 〜 6 の 6 項目)(2)医療に対する満足感と病気に対するコーピング( 7 〜10の 4 項目)(3)治療による副作用(11〜14の 4 項目)(4)服装・性的面・その他(15〜18の 4 項目)(5)母性(50歳以下対象のオプション,19〜21の 3 項目)−で構成され,患者自己記入式で 5 点を最高にスコア化される。今後,臨床的妥当性など,さらに検討が重ねられる予定である。
 なお,同ガイドラインの全文とQOL調査票の最新版は,日本乳癌学会のホームページ
http://www.jbcs. gr.jp/QOL_Ver1/QOL.html)に収載されている。

<表>QOL調査票の質問項目(各項目とも 1 〜 5 点のスコア化)
(この数日の間)
1. 病気の側の胸,腋(わき)や腕の痛みやしびれはありましたか(非常にあった〜全くなかった)。
2. 病気の側の腕のむくみ(腫れ)はありましたか(非常にあった〜全くなかった)。
3. 病気の側の腕は十分に上がりましたか(全く上がらなかった〜十分上がった)。
4. 病気のあった側の胸のあたりの皮膚の症状(発赤,腫れ,熱感,かゆみなど)が気になりましたか(非常に気になった〜全く気にならなかった)。
5. 病気や治療に関連した痛みはありましたか(非常に痛かった〜全く痛くなかった)。
6. (この質問は手術を受けた方のみお答えください) (傷あとや)胸の形に満足していますか(非常に不満であった〜十分に満足であった)。
7. 病状や治療について担当医からの説明に満足でしたか(非常に不満であった〜十分に満足であった)。
8. 診断や治療を受けている病院の施設や医師以外の職員の対応に満足でしたか(非常に不満であった〜十分に満足であった)。
9. 御自身の病気を十分に受け入れられましたか(全く受け入れられなかった〜十分に受け入れられた)。
10. 病気に対して立ち向かおうと思えましたか(全く思えなかった〜非常にそう思えた)。
11. 脱毛はありましたか(非常にあった〜全くなかった)。
12. 疲労感はありましたか(非常にあった〜全くなかった)。
13. 体や額のほてりや発汗に悩まされましたか(非常に悩まされた〜全く悩まされなかった)。
14. 味覚の変化(異常)に悩まされましたか(非常に悩まされた〜全く悩まされなかった)。
15. 着たい服が着られないなど,服装に不自由を感じましたか(強く感じた〜全く感じなかった)。
16. 温泉など,人前で裸になることにためらいを感じますか(強く感じる〜全く感じない)。
17. 性生活に満足していますか(非常に不満であった〜十分に満足であった)。
18. ご家族の方が同じ病気になるのではないかと心配でしたか(非常に心配であった〜全く心配なかった)。
☆以下19〜21の 3 つの質問は現在50歳以下の方のみお答えください。
19. (この質問は現在小学生以下の子供さんお持ちの方のみお答えください) (病気の治療の影響で)子供さんに接する際,ひけめを感じましたか(強く感じた〜全く感じなかった)。
20. (この質問は現在小学生以下の子供さんお持ちの方のみお答えください) (病気や治療の影響で)育児に不安を感じましたか(強く感じた〜全く感じなかった)。
21. (この質問は出産を希望される方のみお答えください) (病気や治療の影響で)妊娠や出産に不安を感じますか(強く感じる〜全く感じない)。

〜乳管内進展の3次元画像による診断〜
ナビゲーションシステムにより 温存手術での断端陰性化率向上に期待

 日本乳癌学会の第 6 回班研究「乳管内進展の 3 次元画像による診断」では,中間報告として乳管内進展病巣に対する 3 次元画像診断の有用性を報告したが,今回,3 次元画像を用いた乳房温存手術における切除範囲の決定支援,手術支援の可能性が認められ,班長の大阪大学大学院腫瘍外科学の玉木康博助教授が,最終報告を行った。

病理学的腫瘍径とよく相関

 3 次元画像を用いたナビゲーションとして, CTでは触診により切除範囲をマーキングした後に撮像し,腫瘍の位置を修正する方法により,断端陽性率は40%から18%に低下した。MRIでは特殊なコイルとマッピングシートを用い,仰臥位で撮像する方法で,非触知の乳管内進展例でも切除可能であった。
 超音波では位置情報がないため,超音波プローブで撮影した画像すべてに位置情報を計測してコンピュータに取り込み,その情報をもとに 3 次元画像を構築すると同時に,センサーを付けたビデオカメラで乳房自体を撮像して位置情報を計測し,腫瘍と乳房の画像を重ね合わせるナビゲーションシステムを開発した。このシステムにより得られた腫瘍径と病理学的腫瘍径はよく相関し, 75%の症例で誤差は 1 cm以内であった。しかし,組織型別に 3 次元超音波画像の腫瘍描出能を比較すると,充実腺管癌や硬癌では明瞭に描出されるが,乳頭腺管癌や非浸潤性乳管癌では描出困難例が多かった。
 玉木助教授は「multi-detector CTではどの組織型でもほぼ描出可能であったことから,超音波画像にCT画像を併用したナビゲーションシステムは有用と考えられる。今後,ナビゲーションの方法については,さらなる改良と多くのデータ集積が必要である」と締めくくった。

〜腫瘍マーカーによる進行・再発乳癌の治療効果判定〜
CEA,CA15-3が予後・治療効果と相関

 進行・再発乳癌の治療効果判定を可能とする有効性の高い腫瘍マーカーを明らかにし,その測定のタイミング,変動の評価法を導き出すことを目的とした日本乳癌学会の2001年度班研究「腫瘍マーカーによる進行・再発乳癌の治療効果判定に関する研究」が進められている。今回,川崎医科大学乳腺甲状腺外科の紅林淳一助教授がその中間報告を行った。

20%以上マーカーレベル低下例ではTTP延長

 紅林助教授によると,同研究は,腫瘍マーカー測定の現状調査および測定意義に関する後向き研究が既に終了し,現在 1 年間の前向き研究が進行中であるという。
 現状調査は,2001年度日本乳癌学会評議員の臨床系医師320人を対象にアンケート調査が実施され,70.9%の有効回答率が得られた。その結果,ルーチンに使われている腫瘍マーカーは,CA15-3,癌胎児性抗原(CEA)がいずれも96.9%と最も多かった。測定目的は,再発の早期発見,治療効果判定の補助,経過モニターがそれぞれ 8 割近くを占めた。治療効果判定の補助として用いる場合,「基準値を超えたマーカーを用い,4 週間間隔で測定し,20〜25%の変動を有意とする」という回答が多かった。
 後向き研究は,多施設共同調査として1996年から 5 年間に初治療を受けた進行・再発乳癌例,および最近臨床導入された乳癌治療薬の臨床試験データから,CEAおよびCA15-3が同時に測定された348例を対象に分析が行われた。その結果,マーカー陽性患者でのみ,治療中のマーカーレベルの変動と治療効果が有意に相関した。治療によりマーカーが20%以上低下した症例での無進行期間(TTP)は,20%未満の低下例あるいは増加例に比べ有意に長かった。以上から,腫瘍マーカーの変動が治療効果や予後と有意に相関することが証明された。
 前向き研究は,新たな全身療法を受け,評価可能病巣を有する進行・再発乳癌症例を対象に,腫瘍マーカーの測定,病巣の評価を 4 週間ごとに施行するプロトコルで,150例の集積を目標にこの 1 月からスタートした。これらの研究結果を踏まえ,進行・再発乳癌の治療効果判定に役立つ,腫瘍マーカー測定に関する指針の作成を目指しているという。

 

キーワード 【2002年日本乳癌学会・報告】

☆(Medical Tribune Vol.35 NO.31 p.10)
【2002年第10回日本乳癌学会】

第10回日本乳癌学会
再発乳癌に対する化学療法−牽引力ある治療スタンダードを追求

 乳癌に対する化学療法はいまだ決定的なものが確立されておらず,施設ごとに多種多様なレジメンが施行されているのが実情であり,特に再発乳癌では標準治療の確立が切望されている。名古屋市で開かれた第10回日本乳癌学会(会長=名古屋市立東市民病院・小林俊三副院長)のシンポジウム「薬物療法〜現状と展望」(座長=関西労災病院外科・高塚雄一部長,国立がんセンター中央病院乳腺内科・渡辺亨医長)では,各専門施設の臨床試験の結果が議論され,昨年承認されたトラスツズマブについても最新情報が紹介された。

〜JCOG乳癌グループ〜
治療の標準化に至る模索を紹介

 埼玉県立がんセンター内分泌科の田部井敏夫部長は,Japan Clinical Oncology Group(JCOG)乳癌グループが1985年から 3 回にわたって実施した臨床試験の結果から,アドリアマイシン(A),シクロホスファミド(C),タモキシフェン(T)の 3 剤併用療法(頭文字を合わせてACTと呼ばれる)を再発乳癌に対する化学療法の標準レジメンとして位置付けた経緯を説明。また,現在行われているCAとドセタキセルの投与順位に関する比較試験の結果が近々にもまとまることや,これまでの抗癌薬とは異なる作用機序からの効果が期待されている分子標的治療薬トラスツズマブを併用した化学療法についても,おおむね好成績が得られていることを報告したうえで,再発乳癌の治癒や生存期間の著しい延長は難しいことを踏まえて,「症状コントロールや副作用の低減など患者QOLを最重視した治療を心がけるべき」と強調した。

トラスツズマブ併用化学療法に期待

 乳癌に対する化学療法は他の癌に比べて“やり直し”の時間的余裕があることで切迫感を欠き,このためにこれまで牽引力のある統一的なレジメンが生まれなかったとの指摘もある。JCOG乳癌グループには現在,国内の30施設が参加しており,過去数年間の登録症例数も500例近くにのぼっているなど,規模の点でも欧米に並ぶ,説得力のある研究成果が期待されている。
 再発乳癌に対する化学療法レジメン確立の試みとしては,1985年から多施設共同研究を行い,当時の主力だったマイトマイシンC(M)と新たに登場したアドリアマイシンを比べるため,MCTとACTの比較試験を実施。その後もACTに加えて酢酸メドロキシプロゲステロン(M)の投与量を変えた併用療法(ACTM)などの有効性評価を行ってきたが,いずれの試験でもACT以上に有効なレジメンを見出せなかったことから,現在,JCOGではACT(AC併用化学療法に加えて,ホルモン感受性患者にはTを追加投与)を標準的治療として位置付け,普及を図っている。
 一方,1999年からは360例を対象にアドリアマイシン+シクロホスファミド(AC)とドセタキセルの投与順位についての比較試験を行っており,これについては近々にも結果がまとまる予定だ。また,これまで内分泌療法と化学療法が一般的だった乳癌治療において,乳癌細胞の表面に存在するHER2受容体と結合して癌細胞の増殖を阻害するトラスツズマブが脚光を浴びており,JCOGでも同薬併用療法の有用性を検討中だ。
 田部井部長は,埼玉県立がんセンターでの検討例を紹介。それによると,再発乳癌症例をトラスツズマブ単独投与群(14例),タキサン系抗癌薬併用投与群(24例)に分けて検討したところ,単独投与群14例はPR(有効) 1 例,SD(増殖停止) 3 例,PD(進行) 8 例などであったのに対し,化学療法併用群24例ではPR 13例,SD 5 例,PD 2 例などと,トラスツズマブ+タキサン系抗癌薬併用群で好成績が得られたという。
 しかし,現実的には再発乳癌では優れた治療効果や著しい生存期間の延長を得ることは難しいことから,同部長は「患者QOLを最重視し,転移に伴う疼痛や呼吸困難などの緩和と延命を目指すべき」との考えに立ち,「わが国における再発乳癌に対する標準的治療確立のためには,さらなる臨床試験継続のための資金的・人的援助が不可欠」と締めくくった。

日本人患者にも“世界標準レジメン”を

 わが国では,世界的に確立されている術後補助化学療法についても「体格からして欧米人は抗癌薬に強いだろうが,日本人には耐えられないだろう」との一方的な思い込みから,用量を抑えた“日本版”に変更した形で患者に投与されることが少なくない。愛知県がんセンター乳腺外科の岩田広治医長は,用量の“勝手な変更”が有害事象の種類と頻度をばらつかせて対処を難しくしていると指摘し,欧米で標準的に用いられているレジメンでも支持療法を適切に行えば日本人にも問題なく使用できると報告した。

適切な支持療法で脱落を防ぐ

 岩田医長はわが国と海外の治療データの比較から,投与量の差異が有害事象の発生頻度に大きな違いを生み出していると推測。「投与量による有害事象の傾向についても,より詳細に評価しなければならない」と述べた。
 同医長は,同センターが2000年11月〜2001年10月に行った術後補助化学療法例について,欧米で標準とされているレジメンの 1 つであるアドリアマイシン+シクロホスファミド(AC)施行群20例と,同じく標準レジメンの 1 つであるシクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル(CMF)群20例について完遂率と有害事象を検討。両群とも初回治療例であり,AC群には欧米の標準的な用量であるアドリアマイシン60 mg/m2/回,シクロホスファミド600 mg/m2/回を3週 ごとに4 サイクル投与している。
 急性の吐気や嘔吐に対しては,化学療法開始前に通常用いられる5HT3受容体拮抗薬と副腎皮質ステロイドであるデキサメタゾンの投与,遅延性の吐気や嘔吐にはデキサメタゾンまたは制吐薬のメトクロプラミドを投与するなどの支持療法によって両群ともに脱落例はなく,AC群で 1 例の減量があったのみだった。副作用は好中球減少がAC群で 6 例,CMF群で 9 例,肝機能異常が両群ともにそれぞれ 5 例で,このほか両群ともに脱毛,下痢,口内炎,全身倦怠感などが認められたが,有害事象や副作用の頻度はAC群で目立って多いわけではなかった。
 同医長は「AC投与は支持療法を適切に行えば外来でも十分に施行可能」と示唆。また,近年研究されているAC投与治療後にパクリタキセル投与を行うAC+Pについても 8 例の自験例から,「認容性や有害事象,副作用発生率の点でACと同程度であり,これも日常的に施行可能な治療」と位置付けた。
 同医長は,標準的化学療法レジメン確立に向けてのかぎとして,(1)日本人特殊論の排除(2)有害事象の正しい評価(3)適切な支持療法の導入(4)治療の必要性についての正確なインフォームド・コンセント−の 4 つを挙げ,「患者コンプライアンスや情報の収集のためにもコメディカルと緊密な連絡体制を築くべき」と付け加えた。

〜トラスツズマブの市販後調査〜
なお細心のフォローアップを

 国立がんセンター中央病院乳腺内科の清水千佳子氏は,厚生労働省が昨年 6 月に承認したトラスツズマブの市販後調査の概要を説明。安全性確認のための同調査の結果では,同薬はおおむね安全に使用されているが,心不全など重篤な副作用も発生していることから,同氏は「なお注意深いフォローアップと最新情報の収集を」と呼びかけ,今後行われるであろう各種の臨床試験についても,「効果や有害事象についての評価が定まっていない現段階では実施を急ぐべきではない」と注意を促した。

「臨床試験外での使用は避けるべき」

 乳癌細胞表面のHER2受容体に作用するピンポイント攻撃を特徴とするトラスツズマブは,従来の抗癌薬に比べて副作用が少ないものの,発熱,悪寒など注意すべき有害事象は皆無ではない。清水氏らは,同薬承認直後の2001年 6 月〜2002年 2 月に同薬による治療が行われた転移性乳癌79例について安全性と有効性を検討した。投与期間は 1 〜110週までと幅広く(平均29週),併用化学療法についてはパクリタキセル週 1 回投与が45例と最も多かったが,併用化学療法なしも35例あった。
 安全性については,初回投与時における有害事象は発熱(19例),悪寒(12例),倦怠感( 4 例)などで,発熱をはじめとした有害事象の大半は初回投与時に起きていた。また,投与中 5 例( 6 %)に症候性の心不全が認められ,うち 1 例が死亡した。そのため,同氏は「トラスツズマブ投与治療はおおむね安全に行われているが,一方では重篤な心不全例などが見られることを念頭に置き,注意深いフォローアップと最新情報の収集に努めるべき」と注意を促した。
 同氏はまた,投与に際しての疑問について各種データを用いて解説。「HER2陽性の転移性乳癌では,投与の開始は早いほどよいと思われる。一方,同薬単独か化学療法との併用か,さらには最適な併用化学療法レジメンについては現段階までに定まった見解はない。心毒性のリスクからトラスツズマブとアドリアマイシンの併用は禁忌。HER2陽性転移性乳癌におけるアントラサイクリン系薬剤の位置付けの再評価が求められる」と述べた。
 投与サイクルについては「 3 週ごとに 1 回投与と週 1 回投与の薬物動態は近似しており,患者の利便性を追求した検討が望まれる」,投与終了時期については「投与中に病状が進行した場合,投与継続の利益については今のところエビデンスがない」と同氏は説明した。
 現在,臨床試験での検討が始まっている術後補助化学療法の臨床での使用について,同氏は「術後補助療法における効果や至適投与期間についての評価が定まっていない現段階では,心毒性のリスクを考慮すると臨床使用は時期尚早」と述べ,安全性を最重視する立場から早急な適用を戒めた。 
キーワード 【2002年日本乳癌学会・報告】

☆(Medical Tribune Vol.35 NO.32 p.22)
【2002年第10回日本乳癌学会】

第10回日本乳癌学会
HER2検査ガイドラインを改訂

FISH法を導入,陽性例をトラスツズマブ治療対象に

 転移性乳癌に対する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体トラスツズマブの適応選択には,従来からヒト上皮増殖因子受容体-2型(HER2)蛋白の過剰発現を調べる免疫組織化学法(IHC)が用いられ,IHC 3+/2+はトラスツズマブ治療対象,0/1+は対象外とされてきた。しかし,IHC2+の適応が問題となり,諸外国ではHER2の遺伝子増幅を調べるfluorescence in situ hybridization(FISH)法が陽性であれば治療対象とする方針が取られている。FISH法はわが国でも導入され,現在保険適用申請中である。トラスツズマブ病理部会(代表=東海大学病理学・長村義之教授)では,FISH法を視野に入れ,「HER2検査ガイド」の改訂を図り,「改訂HER2検査フローチャート(案)」を作成した。名古屋市で開かれた第10回日本乳癌学会(会長=名古屋市立東市民病院・小林俊三副院長)では,その改訂内容ならびに改訂根拠が臨床面,病理面から発表された。

FISH法は 効果・予後予測のうえでも重要

 東海大学乳腺・内分泌外科の徳田裕・助教授は,HER2検査法と奏効率の関連について検証した。
 それによると,ファーストラインのトラスツズマブ単独療法でIHC2+/3+群の奏効率は26%,IHC3+に限ると35%,IHC2+では 0 %であった。
 一方,IHC2+/3+について見ると,FISH陽性群の奏効率は41%,陰性群は 5 %と報告されている。また,セカンドライン,サードラインでもそれぞれ20%,0 %であった。さらに,ファーストラインの抗癌薬単独療法では陽性群の奏効率が27%,陰性群は39%であったが,トラスツズマブを併用するとそれぞれ54%,41%と,陰性群では変わらないが,陽性群では奏効率が倍増した。
 予後に関してもファーストラインでは,陽性群,IHC2+/3+群,陰性群の順で良好な傾向が報告されている。
 このように,FISH法はIHC法よりも,効果予測および予後予測のうえでも重要であることが示されている。またIHC1+の症例でもFISH陽性例が存在し,FISH法導入によりこうした症例も救済される可能性があるという。

IHC2+で遺伝子増幅ない例では 病理判定にばらつき

 各IHC例のFISH陽性率を調べた報告によると,IHC3+ 89%,IHC2+24%,IHC1+ 7 %,IHC0 3 %であった。防衛医科大学校第二病理の津田均・助教授によると,わが国でも同様の傾向が見られるという。また,観察者 6 人によるIHC法の病理判定一致率を見ると,IHC0/1+群,IHC3+群は91〜100%であったが,IHC2+群は 6 割程度と低かった。さらに, 病理判定にばらつきがあるIHC2+例では遺伝子増幅は見られなかった。
 こうした臨床・病理所見を踏まえ,「改訂HER2検査フローチャート(案)」では,FISH法が組み込まれ,最初からFISH法で判別するフローと,IHC法でIHC2+の場合にFISH法を追加するフローの 2 本立てとなっている(図)。また,原発腫瘍と転移腫瘍で 9 割以上の高いHER2発現の一致率が認められており,予後因子としのて意義も高いことから,「手術時,全例にHER2検査を実施することが望ましい」旨が記載されている。
キーワード 【2002年日本乳癌学会・報告】









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2002 第10回日本乳癌学会記事