2001 第6回日本乳管内視鏡研究会記事

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☆(Medical Tribune Vol.34, No.34,35 p.17)
#1【2001年第6回乳管内視鏡研究会】記事

第6回日本乳管内視鏡研究会

会長講演「乳管内病変の内視鏡分類」
乳管内視鏡の所見を分類
隆起型,表在型,混在型の3つに

 日本乳管内視鏡研究会による乳管内視鏡所見の分類が,同研究会会長を務める東京女子医科大学第2外科の神尾孝子講師によって報告された。

 同講師らは,乳管内視鏡の所見を共通の土俵で評価しようと,これまで同研究会内に専門委員会を設け,議論を続けてきた。できあがった分類は,特に良悪性の鑑別に意義のある分類を目指したという。
 今回提示された分類は,乳管内視鏡の形態学的所見を隆起型,表在型,混在型の 3 つに分けるというもの。隆起型は,隆起型病変のみで,周囲はきれいな場合を指す。隆起型病変が観察されても,表在型病変が混在する場合,あるいはおもに表在型病変が認められても同時に隆起型病変も見られる場合は混在型に分類する。なお,診断に際しては形態だけでなく,病変数も無視できないことから,隆起型についてはさらに単発(a)と多発(b)の 2 つに分けた。

 また,所見記載時には副所見として,病変の限局性の有無,存在部位(分枝,主乳管あるいは末梢),色調(色,単一あるいは多彩),血管の透見性の有無についても併記することが望ましいとされた。

 病変部位については,第 1 分岐までをD0,第 2 分岐までをD1,第 3 分岐までをD2というように記載するのがよいとした。主乳管(major duct)の定義に関しては,もう少し議論が必要とされ,今回は見送られた。

特別講演「乳管内生検の問題点−病理医の立場から−」
乳管内生検による乳癌正診率は3割
検体を得にくいことが最大の理由

 乳管内視鏡は侵襲の少ない組織診断法であり,マンモグラフィや超音波検査によって診断できない触知不能乳癌を発見できることがある。しかし,その正診率はまだ満足できるレベルに達していないとも言われる。東京で開かれた第 6 回日本乳管内視鏡研究会(当番世話人=東京都がん検診センター乳腺科・松永忠東医長)では,乳管内視鏡による診断の成績や問題点が,杏林大学保健学部病理学教室の藤井雅彦教授より明らかにされた。

4割近くが1mm未満の検体

 藤井教授は約20年前から,東京都がん検診センターの乳腺科,婦人科,呼吸器科における病理診断を担当してきた。この乳腺科では,1993年10月から乳管内視鏡検査,同年11月からは乳管内視鏡による組織生検(乳管内生検)を導入している。
 同教授によると,導入後2000年12月までに行われた乳管内生検は114例156件。結果は乳癌 5 件(3.2%),異型乳頭腫などの境界病変11件(7.1%),乳頭腫などの良性疾患130件(83.3%),検体が微小であったり,挫滅が強いなどの検体不良10件(6.4%)という内訳だった。
 114例中15例(13.2%)は摘出術,部分切除術などによって乳癌と確認された。内視鏡生検では,これら15例のうち 5 例(33.3%)が乳癌,4 例(26.7%)が境界病変,3 例(20.0%)が良性病変と診断され,他 3 例(20.0%)は検体不良のため判定できなかった。同センターでは,乳管内生検に加えて乳頭分泌細胞診,乳管洗浄細胞診を行っているが,両細胞診では施行例の66.7%,72.7%が乳癌陽性と判定されており,両細胞診の有用性が示唆された。
 乳管内生検で乳癌陽性と判定できなかったのは,乳癌,特に表在性乳癌などの場合に組織を十分に採取できず,検体がきわめて小さかったことが最大の理由だった。今回の検討では,乳癌の場合,1 mm未満の検体が 4 割近くを占めた。このため同教授は「組織の採取量が少ない場合は,乳管洗浄細胞診や乳管内擦過細胞診を加えて十分フォローする必要がある」と強調した。
 また,乳管内乳頭腫も存在する症例では,乳頭腫の組織片しか得られない場合が少なくない。そのため,乳管内生検で乳管内乳頭腫と判定してしまった症例が,特に乳管内生検導入当初に多く見られた。最近は少なくなったが,これも乳管内生検で乳癌陽性と判定できなかった理由だという。このことから,同教授は「乳管内生検で乳管内乳頭腫と判断されても,うのみにすることなく,乳管造影などの所見と合わない場合は再検査または乳管洗浄細胞診などを行う必要がある」と指摘した。さらに,特に検査センターなどに依頼する場合,「病理医の経験不足から癌と判定できない場合もあることを念頭に置くべきだ」と訴えた。

乳管が扇状に広がっていない症例も
扇状切除で断端陽性の危険性を指摘

 乳管の分岐・分布パターンは従来,一般に乳頭を中心に扇状に広がっていると考えられてきたが,癌研究所乳腺病理部の五味直哉氏らは,CT-ductographyを用いた検討から,扇状ではない分岐・分布パターンを呈する患者がほぼ半数に認められることを明らかにした。扇状でないパターンの症例に扇状切除を行うと,断端が陽性となる可能性が高くなるとして注意を促した。

「bending type」が存在

 五味氏らは,乳頭異常分泌を呈する乳癌症例の術前検査として,乳頭側の癌の広がりを診断するため,これまで乳管内視鏡をルーチンに行ってきた。最近はさらに,末梢側の広がりをmultidetector-row CTを用いた 3 次元CT-ductographyにより診断し,温存手術の適応を判断したり,温存手術の切除線を決定している。
 CT-ductographyは,乳管内視鏡で責任乳管を確認後,乳管内を生理食塩液で入念に洗浄してから,希釈造影剤を0.2〜 1 mL注入し,ゴムひもで乳頭を結紮して,できるだけ手術時に近い体位でスキャンする。
 今回,乳頭分泌物の細胞診でclass 5 と診断された 9 例に対してCT-ductographyを実施したところ,乳管の分岐・分布パターンは大きく 2 つに分類できた。1 つは,乳頭を中心に樹木のように扇状に広がる「tree type」が 4 例で,従来から知られているパターンである。もう 1 つは,1 方向に伸びた乳管が途中で一斉に急峻な角度を持って分岐する「bending type」が 5 例。これにより,扇状切除では断端陽性の危険性の高い症例が少なからず存在することが示唆されたことになる。

〜乳管内進展範囲の広範な乳癌〜
内視鏡で表層進展型を示す傾向

 札幌乳腺外科クリニックの岡崎亮氏らは,乳癌根治術式の決定における乳管内視鏡肉眼所見の意義を検討。乳管内進展範囲が広範である乳癌は内視鏡で表層進展型を示す場合が多いことなどを明らかにした。

乳管分枝内に多発性病変例も

 岡崎氏によると,乳頭異常分泌を主徴とする非触知乳癌のほとんどは乳管内癌あるいは微小な浸潤性成分を伴う乳管内成分優位の癌であり,乳腺切除範囲とともに乳頭および乳頭近傍の処理方法が問題となる。その根治術式としては,乳房温存術,胸筋温存乳房切除術,乳頭温存皮下乳腺全切除術・リンパ節郭清を選択肢とし,乳頭温存術では乳頭内乳管切除の要否も考慮しているという。
 このような根治術式の決定に際しては,乳腺内進展範囲が大きな判断材料になる。同氏らはこれまでの検討により,乳腺内進展範囲が限局性の乳癌は,乳頭側先進部が乳管開口部から30mm以上離れている症例に多いというデータを得ているが,さらに今回の検討から,内視鏡的肉眼所見が表層進展型(乳管壁に沿って広がる)を示さない症例が多い傾向が見られた。
 一方,乳腺内進展範囲が広範である乳癌については,乳頭側先進部が乳頭近傍に及ぶ症例が多いことを既に明らかにしているが,今回の検討からさらに,内視鏡的肉眼所見が表層進展型を示す症例,乳管分枝内に多発性の病変が確認できる症例が多いことがわかった。
 同氏は「乳管内視鏡所見から乳癌の広がりを推定することが可能と考えられ,乳癌の根治術式を決定するうえで有用」と述べた。

〜内視鏡後洗浄液の染色体異常検索〜
異常乳汁分泌例の補助診断に有用

 異常乳汁を分泌する症例に対して,乳管内視鏡検査後の乳管内洗浄液を用いた染色体異常の検索が有用であると考えられる成績が,関西医科大学第 2 外科の山本大悟氏らによって報告された。

内視鏡検査のみでは不十分な場合も

 乳腺疾患の多くは乳管上皮から発生するため,小さな乳管内病変を捉える乳管内視鏡検査が有用と考えられているが,病変によっては内視鏡による観察,生検,細胞診では不十分なこともある。山本氏らは,乳管内視鏡検査後,乳管内を洗浄した生理食塩液を回収して,FISH(fluoresence in situ hybridization)法による染色体異常の検索を実施。補助鑑別診断法としての有用性を検討した。
 2000年 7 月から2001年 7 月までに異常乳頭分泌を認めた症例のうち,乳管内視鏡検査後,病理学的診断を行うことができた25例(良性22例,悪性 3 例)において,乳管内洗浄生食液を用いて細胞診およびFISH法(セントロメアプローブ 1,11,17番染色体)による染色体異常を検索した。
 まず,内視鏡による観察では良悪性の区別が難しいと感じられたという。細胞診とFISH法を比べると,細胞診では偽陽性が 3 例,偽陰性が 2 例に認められたのに対して,FISH法では偽陽性,偽陰性とも 1 例もなかった。FISH法と病理診断の結果を照合すると,aneusomyは良性病変では 1 例も見られず,非浸潤性乳管癌,浸潤性乳管癌では少なくとも 1 つは認められた。このことから,同氏は「補助診断として,乳管内視鏡後洗浄液を用いた染色体異常の検索は有用と考えられた」と述べた。
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2001 第6回日本乳管内視鏡研究会記事(女子医2外神尾孝子せんせい)